僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 大学入学共通テスト受験も差し迫ったころから、僕は目標をもう一つ用意する必要性を感じはじめた。
 目標というよりもご褒美と呼ぶのが近いように思う。それよりももっと近い表現がある気もする。
 しかし当時の僕は、もっぱら「もう一つの目標」という呼びかたをしていた。そのせいで、月日が経った今でも、それに替わる言葉を見つけられない。

 なぜその時季にその必要性を感じたかというと、目の前に待ち構えているハードルと、その先に待ち受けているハードル、両方を乗り越えるためには、たった一つの目標だけでは少々心もとなく感じはじめていたからだ。

 人生に必要不可欠ともいえる最初の目標ですら、レイからのアドバイスがきっかけでようやく見つけた男が、そう簡単に二つ目を見つけ出せるのだろうか?
 最初は半信半疑だったが、いい意味で予想を裏切られた。
 一つ目標を得たことで、目標を見つける秘訣を掴んだのか。あるいは、他にしっくりくる言葉がないから便宜的に「目標」の二字を宛がっただけで、本質的には目標とは似て非なる別物だからこそ、僕にでも簡単に見つけられたのか。 

 当時の僕は、その謎には一瞥もくれなかった。新たな目標に魅了され、それ以外のことにほとんど意識が向かなくなっていたから。
 それでいて、現を抜かすとか気を緩めるとかではなくて、いっそう気持ちをこめて義務に打ちこんだ。早くその目標を叶えたかった。新たな目標を決めた時点で最後からの二番目のハードルだった、大学入学共通テスト受験を無事に終えたあとも、熱量が減退することはなかった。
 志望校の入学試験を終えるまで、僕はきっと走りつづけていられる。そんな確信を心の支えにして、日々を消化した。


* * *


 新たな目標は、レイに密接に関係していた。
 その目標を叶えるためには、レイに深く入れこみすぎず、これまで日常的に励んできたことに今まで以上に励むことが大切になってくる。少なくとも僕はそう信じた。
 その方針に忠実であればあるほど、僕の心はレイから距離を置いた。僕としては、普段どおりに彼女と接していたつもりだったのだが、結果的にそうなった。

 レイを想うがゆえにレイをおろそかにするという、馬鹿げた、おぞましい矛盾。
 その矛盾に微塵も気がつかなかった当時の僕の、若気の至りという言葉では擁護できない愚かさ。

 ……書いているだけで嫌な気持ちになる。死にたい気分にすらなってくる。
 しかし、進むしかないと決意したばかりなのに、立ち止まるわけにはいかない。足を止める時間が長くなればなるほど苦しい思いをすることになる、という予感もある。終わらせることさえできれば楽になれる、という期待もある。

 もはや、物語も終わりが近い。
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