僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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「大輔はがんばる意思があるみたいだから、楽なほうに逃げないほうがいいね。ぶつかっていこう。第三の選択肢も、まだ見つけられていない第四の選択肢もなしで。就職か、進学か。この二択だと思う」
「いや、だから、どちらも今のままだと難しいよね。乗り越えるための方法も見えていないのに、がんばれとか、ぶつかっていけとか、精神論を言われても困るよ」
「困らないよ。精神論でいこう。ただ、やみくもにぶつかるとか、盲目的にがんばるとか、そういう無謀な真似はやめるべきだと思うけど」
「言っている意味が……」
「がんばる理由を探そうよ。人と上手くしゃべれなくて、精神的にきついかもしれないけど、これがあるなら耐え抜いていける、がんばり抜けるっていう目標みたいなもの、大輔にはない?」 

 目からうろこが落ちた思いだった。
 困難を乗り越えられない。だから、逃げる。蹉跌と挫折のこれまでの人生を極めて単純に図式化すれば、そうなる。
 その逃げ道を実質的に塞がれてしまったことで、僕は立ち往生を強いられた。

 二年連続で不登校になったのちに退学になってからの僕は、逃げ道がない状況の中で逃げ道を探していたようなものだったのかもしれない。
 どこかに抜け道はないだろうか? 楽に生きられる道はないだろうか?
 死に物狂いの努力。新たな道はないとすでに結論が出ているにもかかわらず。まったくもって無駄な努力。涙ぐましい徒労。

 しかし進藤レイは、僕が勝手に「歩きとおせない」と思いこんでいるだけではないか、と指摘した。
 目標さえ持っていれば、それが力になって、困難な道のりも歩きとおせるかもしれない。そう意見した。

「その目標は大輔自身が見つけるしかない。進学だと、将来なりたい職業とか。就職だと、お金をためて買いたいものとか。……いや、あたしから下手なことは言わないほうがいいね。自分で見つけないと絶対に悔いが残るから。とにかく、そういう方向で考えていけばいいと思うよ。

 あたしから言えるのはこれくらい、かな」
 レイは腰を上げる。窓際まで遠ざかり、窓外を見やる。弱い風が髪の毛をさらさらと揺らす。
 レイの立ち位置は真ん中よりも少し右だった。もしかすると、僕といっしょに外を眺めたくて、自分の左側を空けたのかもしれない。
 しかし、僕はその場に座ったままでいた。彼女のそばに行きたくなかったのではなくて、考えることに専念したかったから。

 なにを目標にすれば、僕は高すぎる壁の向こう側に行けるのだろう?
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