僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 魔法が解けたかのように、瞬時に闇が晴れた。嘘のように頭の中がしゃっきりして、意識がレイに集約される。彼女の表情を見た瞬間、誤謬に気がつく。
 レイは僕を見捨てたわけではない。救う方法を模索していたのだ。
 その表情を見る限り、レイは――。

 彼女は起立した。僕へと歩み寄り、目の前に腰を下ろす。何分ぶりだろう、窓から滑らかな涼風が入室し、髪の毛の香りを僕の鼻孔まで届けた。
 真っ直ぐな眼差し。瞳は宝石のように冷たく、太陽のように熱い。目を離したくないし、離さないでほしい。そう訴えかけている。レイと見つめ合う機会自体めったにないのに、この近さ。まばたきを抑制して見つめてくる二つの瞳は、なんらかの具体的でまとまりのある言葉を僕に伝えようとしている。
 解読するよりも先に唇が開き、発信された言葉は、

「大輔はすごいね。難しい状況なのに、前向きで」
「前向き?」
「前向きだよ。整理すると、大輔には今のところ三つの選択肢が与えられているわけだよね。進学か、就職か、どちらも選ばないか。
 大きなハンデを抱えているから、前の二つをまっとうするのは難しいと大輔自身は考えている。だから、三つ目の選択肢に逃げてもおかしくないわけだけど、大輔は逃げていないよね。あくまでも挑戦しようとしている。困難を乗り越えようとしている」
「三つ? 実質的に二つだよ。親からそれだけはやめてくれって言われているんだから、その選択肢はあってないようなものだ」
「選択肢は選択肢だよ。今だって、高卒認定試験に向けて勉強することで、進学からも就職からも逃げている状態なわけでしょ? 許されてるじゃん、逃げる選択肢」

 レイの言っていることは屁理屈だと思った。つまらない言葉遊びだ、と。
 それなのに、なぜだろう、心を揺さぶられた。レイの話をもっと聞きたい。そう願っている僕がいる。

「今は逃げているかもしれない。中二のときも不登校で、そのときは就職の選択肢はなかったわけだけど、まあ逃げていたと言ってもいい。でも、三度あることは四度あるじゃなくて、四度目の正直にしようと思って挑戦することにしたんでしょ? それ、すごいと思うな。あたしはすごいと思う」

 僕自身はそう思わない。ただ、ありのままの意見を表明することで、レイの意見を否定したくない。彼女の発言は続く。
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