僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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「不安? 合格できるかどうか」
「そうでもないかな。何回か言ったと思うけど、試験自体は難しいものではないから。ふたを開けてみないと分からない怖さはあるけど、そこまで心配はしていないよ。それよりも気がかりなのは、その先のこと」
「進学か就学か?」
「そう。二回不登校になった前科があるから、また同じ失敗をくり返すことになるんじゃないかと思うと、怖くて」

 この話は過去にも何度かしたことがある。草刈りを命じられた日の庭では、比較的しっかりと話した。
 でも、あれは途中までだった。嘘を語ったわけではないが、終わりまでは語っていない。
 今日は自らの意思で、その先へと進んでいく。 

「不登校になった原因は、クラスメイトにいじめられたからなんだ。中学二年生のときは、進藤さんも知ってるかな? 石沢っていう不良が主犯格で。高校一年生のときも、石沢みたいなつまらないやつらが加害者だった。ちなみに二回目の高一のときは、留年生として通うことに嫌気が差して、二日行っただけで学校には行かなくなったから、いじめられるとかは特になかったんだけど」
 コンビニでの一件をどの程度意識したのかは知る由もないが、石沢という名前を出した瞬間、レイの顔は明らかに強張った。

「どうしていじめられたのかは、だいたい見当つくよ。というか、一つしかない。僕が教室ではまったくしゃべらないからだ。いや、まったくという表現は語弊があるけど、周りの人間からすればそう断言したくなるくらい、学校での僕が無口だったのは事実だよ」
 レイが口を挟みたそうにしているのには気づいていた。ただ、どうしてもというわけではなさそうだったので、もう少し話すことにする。ありがちなことだが、一度話しづらさを振り切ってしまうと、とことんしゃべりたくなるものだ。

「人と大きく違ったところを持つ人間って、目の敵にされやすいでしょ。僕はそれに加えて、なにを言っても言い返さないし、なにをやっても助けを求めないから、加害者からすれば好都合なんだろうね。
 勉強はできるけど大人しくて人付き合いが苦手、くらいのやつならたくさんいるよ。でも僕は、そこまで頭がいいわけではないし、教室で教師から説明の回答を求められても答えられないことも結構ある。弱いという意味でも、目立つという意味でも、格好の標的だった。いじめられて当たり前の人間っていうか」
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