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その日は朝から冷たい雨が降っていた。
ゲーム音をかき消すくらい強まったかと思えば、降りやんだのかと勘違いするくらいに弱まる。僕は頻繁に窓外を確認せずにはいられなかった。
午後に入ると僕は頭痛にさいなまれはじめた。低気圧のときにその症状が発生することがたまにあるので、たぶんそれが原因だろう。
僕を襲う頭痛の特徴として、目の奥が刺すように痛む。ゲーム画面を見つめていられなくなるし、その他の行為も満足にできなくなる。不承不承、痛みが落ち着くまで大人しく横になっているしかない。
ベッドに横になったのを境に、雨脚は激しい状態で固定された。頭痛には情け容赦なく、無聊には緩やかに攻め立てられながら、眠りに落ちることもできずに過ごす時間は、生き地獄だった。手持無沙汰なときは必ずそうであるように、時間の流れがひどく遅く感じられて、泣き面に蜂だ。
それでも時間の経過とともに、体調は緩やかに回復していった。雨が全体的に少し弱まったころには、頭の痛みはだいぶ和らいでいた。
いい加減、安静にしているのにも飽き飽きしていた。しかし、症状がぶり返すのが怖くて、ゲーム機の電源を入れるのははばかられる。必然に、引き続きベッドの上で漫然と過ごすことを余儀なくされた。
いつの間にか雨音は聞こえなくなっている。窓外は薄暗い。降りやんだのか、それとも音が聞きとれないくらいに弱まっただけか。
確認する気にはなれない。体力というよりも気力の問題だ。
僕は一人だ、と唐突に思う。世界は死のように静かで、雨音をBGMに呻吟しているさなかよりも、はるかに手持無沙汰だと感じる。
知らず知らずのうちに、レイのことを考えていた。
想念は総じてとりとめがなく、ネガティブなものが多かった。彼女に向き合うことに気乗りがしない。普段、彼女が不在のさいに彼女について思いを馳せるときとは、どこか様子が違う。
それでも僕は、進藤レイについてひたすら考えつづけた。気持ちが乗らないし、暇つぶしの意味合いが強かったが、心は真剣だ。着地点の見えない思案は、続けようと思えば永遠に続けられる気がした。
* * *
やがて午後五時を回った。
レイが定刻よりも早くインターフォンを鳴らすことはまずない。その日は二分遅れだった。僕はベッドから抜け出して応対に出た。
「やあ」
レイは左手を上げた。傘を差していて右手が塞がっているからだ。ビニール傘で、雨滴がまばらに付着している。顔に浮かんでいるのは、いつも僕によく見せる、目鼻立ちの凛々しさが和らいだ穏やかな表情。
短距離の移動にもかかわらず、わざわざ傘を差した。僕に対する誠意の表れのように思えて、決意が揺らいだ。レイの気持ちも考えず、思いつきも同然の私情を押し通すために知恵を絞ってきた自分が、すさまじく身勝手な、恥ずべき人間に思えてきた。
ゲーム音をかき消すくらい強まったかと思えば、降りやんだのかと勘違いするくらいに弱まる。僕は頻繁に窓外を確認せずにはいられなかった。
午後に入ると僕は頭痛にさいなまれはじめた。低気圧のときにその症状が発生することがたまにあるので、たぶんそれが原因だろう。
僕を襲う頭痛の特徴として、目の奥が刺すように痛む。ゲーム画面を見つめていられなくなるし、その他の行為も満足にできなくなる。不承不承、痛みが落ち着くまで大人しく横になっているしかない。
ベッドに横になったのを境に、雨脚は激しい状態で固定された。頭痛には情け容赦なく、無聊には緩やかに攻め立てられながら、眠りに落ちることもできずに過ごす時間は、生き地獄だった。手持無沙汰なときは必ずそうであるように、時間の流れがひどく遅く感じられて、泣き面に蜂だ。
それでも時間の経過とともに、体調は緩やかに回復していった。雨が全体的に少し弱まったころには、頭の痛みはだいぶ和らいでいた。
いい加減、安静にしているのにも飽き飽きしていた。しかし、症状がぶり返すのが怖くて、ゲーム機の電源を入れるのははばかられる。必然に、引き続きベッドの上で漫然と過ごすことを余儀なくされた。
いつの間にか雨音は聞こえなくなっている。窓外は薄暗い。降りやんだのか、それとも音が聞きとれないくらいに弱まっただけか。
確認する気にはなれない。体力というよりも気力の問題だ。
僕は一人だ、と唐突に思う。世界は死のように静かで、雨音をBGMに呻吟しているさなかよりも、はるかに手持無沙汰だと感じる。
知らず知らずのうちに、レイのことを考えていた。
想念は総じてとりとめがなく、ネガティブなものが多かった。彼女に向き合うことに気乗りがしない。普段、彼女が不在のさいに彼女について思いを馳せるときとは、どこか様子が違う。
それでも僕は、進藤レイについてひたすら考えつづけた。気持ちが乗らないし、暇つぶしの意味合いが強かったが、心は真剣だ。着地点の見えない思案は、続けようと思えば永遠に続けられる気がした。
* * *
やがて午後五時を回った。
レイが定刻よりも早くインターフォンを鳴らすことはまずない。その日は二分遅れだった。僕はベッドから抜け出して応対に出た。
「やあ」
レイは左手を上げた。傘を差していて右手が塞がっているからだ。ビニール傘で、雨滴がまばらに付着している。顔に浮かんでいるのは、いつも僕によく見せる、目鼻立ちの凛々しさが和らいだ穏やかな表情。
短距離の移動にもかかわらず、わざわざ傘を差した。僕に対する誠意の表れのように思えて、決意が揺らいだ。レイの気持ちも考えず、思いつきも同然の私情を押し通すために知恵を絞ってきた自分が、すさまじく身勝手な、恥ずべき人間に思えてきた。
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