僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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「アイス奢ってあげる。コンビニまで買いに行こう」
 雑草を詰めこんだ透明なごみ袋の口をしっかりと閉めて、レイは言った。僕とは違って汗一つかいていない。

「アイス?」
「そう。体を動かしたら熱くなっちゃった。季節的にそろそろ食べ収めだと思うし」
「もちろんいいけど、手伝ってもらったんだから僕が奢るのが筋じゃないかな」
「でも、小遣い減らされたって言ってたよね」
「そのくらい買うお金はあるよ」

「あたしが奢る」「いや僕が」と、なぜか押し問答になってしまった。こういうとき、僕は大人しそうに見えるが頑なで、レイは頑固そうに見えてあっさりと身を引く傾向がある。
「じゃあ進藤さん、ワリカンにしよう。それなら文句ないでしょ」
「そうだね。そうしよう」

 僕たちは久しぶりに肩を並べて外を歩く。
 部屋の中でいるときはひたすらリラックスしていたが、屋外を歩いていると心がうきうきする。目的地はコンビニで、目的はアイスを買うことだが、なにかちょっとした冒険にでも赴いているような気分だ。ほぼ外出しない自分が、誰かといっしょに外を歩いているというのが、大げさかもしれないが誇らしかった。

「なんだか懐かしいね」
 僕はしみじみとつぶやいた。
「僕が高校を中退して以来、部屋で過ごすのが当たり前で、こうして二人で道を歩くこともなかったから」
「曽我はひきこもっているから、外の空気を吸うこと自体めったにないんじゃないの」
「用事でもない限りはね。あったとしても、平日の昼間に出歩く勇気はないかな」
「もう学校に籍は置いていないんだから、別に恥じることはなくない?」
「まあ、そうなんだけど。やっぱり、なんていうか」
「自意識過剰なんだよ、曽我は」

 こもりがちな僕はろくな話の種を持っておらず、レイは自分のことをあまり話したがらない。僕もわざわざ訊き出そうとまでは思わない。草刈りをしていたさいにふと葉っぱの裏側を見ると、何匹ものアブラムシが固まっていて気持ち悪かったとか、とにかくどうでもいい話ばかりした。機嫌がいいときにありがちなことだが、そのどうでもよさが無性に楽しくて、僕たちはずっと笑顔だったし、笑い声も頻繁にこぼした。
 五分ほど歩くと、進路に目的のコンビニが見えた。

「曽我はあの店にはよく行くの?」
「うん。実はほぼ唯一の外出先だったりする。ゲーム機の乾電池と、あとはたまに食べ物とか。いつも用意しているお菓子と飲み物もここで買ってて」
「あたしもコンビニに行くならあそこかな。でも、店で買い物中にばったり遭遇とか、今まで一度もないよね。意外にも」
「僕が人の多い時間帯を避けているからかも」
「なにが怖いの? ただの客に、ただの店員でしょうが」
「うん。でも、人が多いのは苦手だから」
「ほんと繊細な心の持ち主だよね、曽我って。あたしは誰になにを言われても平気だから、羨ましい」
「隣の芝生は青く見えるってやつだね」
 僕は苦笑せずにはいられなかった。
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