僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 一方のレイが読んでいる作品も、昨日と同じだ。

「進藤さん、『ドラゴンボール』が好きなんだね」
 昨日は楽しく過ごせたが、会話が少なかったのが反省点というか、気になった部分ではある。僕としてはこれを会話のきっかけにしない手はない。

「そう思う根拠は?」
 レイはページから視線を外さない。眼差しは今日も真剣だ。

「二日連続で読んでるから、そうなのかなと思って」
「曽我だってそうでしょ」
「まあね。正直言って好みの作風ではないんだけど、やっぱりほら、一度読んだ作品は続きが気になるから」
「ああ、そう。てっきり、古めの漫画が好きなのかと思ったんだけど。それ、うちの親が学生だったときに流行ってた作品らしいよ」
「そうだったんだ。絵柄的に昔の作品なのかな、とは思っていたけど、そんなに古いんだね。『ドラゴンボール』はいつごろの作品だっけ」
「とっくの昔に連載が終わっているのはたしかだね。あたしたちが生まれたときには終わっていた、と思う。少なくとも、あたしがジャンプを買いはじめたころにはラインナップにはなかった」
「ジャンプ、進藤さんは毎週買ってるの?」
「今は買ってない。いつだったかな。はっきりと覚えてないけど、小二か小三だったと思う。急に冷めた気持ちになって、買うのはもういいやって」
「好きな作品が連載終了しちゃった、とか?」
「ううん、違う。ほら、あるだろ。子どものころからずっと好きだったものが、急にガキくさく思えて冷めちゃう、みたいなことが」
「分かる気がする。いい歳してなにやってるんだろう、みたいな気持ちでしょ。客観的には全然恥ずかしくないんだけど、無性に子どもっぽい趣味に感じられて、嫌になって、みたいな」
「そうそう、そんな感じ」
「でも、まだ小学生なのに冷めちゃうって、ちょっと早くない? 僕自身の経験からいうと、そういう心境の変化って、中学進学を機に現れることが多いんじゃないかって思う。中学生になったとたん、小学生のときに流行ったものを急に馬鹿にし出すとか」
「『僕自身の経験』? それについて詳しく聞きたいかも。まさか、あたしに話を合わせて適当なことを言ったんじゃないよね」

 僕はここで初めて、ポケモンのゲームで遊ぶのが趣味だと打ち明けた。そして、中学一年生のとき、学校に持っていったポケモングッズをからかわれた一件について話した。 

 キャラクターのイラストが大きく描かれたグッズは、目立ちすぎて僕はあまり好きではない。しかしそのペンケースは、隅のほうにモンスターのシルエットがプリントされているという、ポケモン感が前面に出てはいないデザインだったので、学校用として普通に使っていた。
 休み時間、自席で頬杖をついてぼーっとしていたときだった。机の上に出しっぱなしだった問題のペンケースを、僕の許可なく手にとって高々とかざした者がいる。
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