僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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「じゃあ曽我は、今はけっこう気楽に過ごしてるわけ? 進学するとしても、受験は来年でしょ」
「気楽、なのかな。正直、親からのプレッシャーはむちゃくちゃ感じてるけど――そうだね。気楽かそうではないかで言ったら、まあ気楽、なのかな」
「一日のスケジュールにも余裕がある感じ?」
「そうだね。この時間にこれをしなければならない、なんてことは一つもないから、かなり暇だよ。だから仕方なく、ゲームをして暇をつぶしてる。スマホは通話しかできない契約になっているから、昔遊んでいたゲーム機を引っ張り出してきて。そのゲーム機、むちゃくちゃ古いやつだから、乾電池式なんだ。今は電池が切れたからコンビニまで買いに行ってるところ」
「そうだったんだ。邪魔して悪かったね」

 レイはコンビニとは反対方向に去っていく。僕は彼女の後ろ姿が曲がり角に消えるまで目で追って、それから目的地を目指して歩き出した。


* * *


 レイと久しぶりに話ができて、うれしかった。
 それだけではなくて、高校中退という大きな挫折を経験しても、以前と変わらない態度で接してくれたのもうれしかったのだと、熱い湯に浸かっているさなかに気がついた。
 一日に一度、どんなに短い時間、どんな形だとしてもいいから、レイと交流する機会を持ちたい。そんな欲望が頭をもたげた。
 ――ただ。

「どうきっかけを作ればいいのかな……」
 通う学校が違うだけで、顔を合わせる機会は激減する。高校生になってからめったに顔を合せなかったのも、退学してからの約一か月間まったく顔を合せなかったのも、互いが意識的に、あるいは無意識に避けたからではなくて、機会がそもそも限りなく少なかったからだ。

 僕は屋外を出歩くのが好きではない。用事などがない限り極力避けたいと思っている。レイのためとはいえ、接触できる保証もないのに外出の機会を増やすのは気乗りがしない。
 進藤家の玄関に常に目を光らせて、レイが外に出てきたところを狙ってこちらも家を出て、偶然を装って声をかける。そんなストーカーまがいの作戦も思いついたが、僕の自室は進藤家の出入口を見張れる位置にはないから、そもそも実行が難しい。

 レイとの関係が新しい悩みになった。
 僕にとって進藤レイは、物心ついたときから生活圏に当たり前に存在していて、特別親密にではないかもしれないが、比較的気楽にコミュニケーションがとれるという、特殊なポジションにいる人間だ。思春期に突入したのを機に、異性としても意識するようになったが、根本的な付き合いかたや接しかたに悩むことはなかった。接する機会が限定的だったために、恋人になりたいだとか、自惚れていて、早まった考えを抱かなかったから。

 レイに対して新しく芽生えた想いは、恋心に似ている。
 恋なんてまともにした経験がないくせに、そう思った。
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