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我が子
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「とにかく、七海がちょっと特殊な存在だっていうのはわかったよ。わかったっていうか、認めざるを得ないとは思う。君が言うように、君は僕が創り出した夢であって、現実世界に生きている人間ではなくて、もうすぐ消えてしまう。それは事実なのかもしれない。でも、だからといって、そう簡単には受け入れられないよ。だって、非現実のはずなのに君はこんなにもリアルだし、それに――生身の人間だっていつかは死ぬじゃないか。人間だろうが、想像の産物だろうが、大きくは違わない。だったら、なんで七海が夢なんだ。現実の存在じゃないんだ。おかしいよ、こんなの」
ぶつけたい思いはまだまだある。しかし、上手く言葉に変換できない。手間取っているうちに感情がこみ上げてきて、自分がなにを言いたかったのかがわからなくなった。
「まったく同じは不可能だけど、そっくりな夢ならまた見られる可能性もある。だから、永遠のお別れじゃないんだよ」
七海の口ぶりは、まるで癇癪を起こした我が子をなだめる母親だ。
「そう考えれば、悲しみは消えないのだとしても、慰めにはなる。そうでしょ?」
「でも、だからって……」
「やっぱりお別れはつらい? そうだよね。悲しいものは仕方ないよね。その感情、ゼロにする力はわたしにはないけど、慰めてあげることならできる。はい、これ」
七海は手にしているものを凪へと差し出した。
真っ赤な折り鶴。炎に焼かれながら折った一羽だ。炎は今も七海を包みこんでいるが、掌の上の折り鶴はまったく燃えていない。
「触っても熱くないよ。熱さを感じるなんて、ありえない。だってこの子は、そういう星のもとに生まれたんだから」
七海はきっぱりと断言した。
「わたし、折るのに慣れているから、とても簡単に作っているように見えるでしょ? スピードだけを見ればそうかもしれないけど、どの子も愛情をこめて作ってる。一羽だって例外はないよ。特にこの子は、自分がもうすぐ消えるってわかったあとで作ったから、わたしそのものと言ってもいいかもしれない。だから、この子さえそばにいれば、凪くんは今後、なにがあったとしても生きていける。凪くんも言ったように、人は誰しもいつか必ず死ぬけど、でも、今はそんなことは考えなくていい」
七海は白い歯を見せてほほ笑む。凪の目から涙があふれ出した。受けとろうと伸ばした両手が震える。
「命をかけて産んだわたしの子ども、大事にしてね。……さようなら」
突然、炎が消えた。七海のまぶたが閉ざされる。体が前に倒れ、ベッドから落ちそうになる。手から赤い折り鶴がこぼれた。反射的に動いた凪の体は、紙製の一羽を両手に包んだ。
彼女の体が床に落下した。折り鶴を左手に持ち替え、右手を伸ばしながら凪は叫ぶ。
「七海!」
ぶつけたい思いはまだまだある。しかし、上手く言葉に変換できない。手間取っているうちに感情がこみ上げてきて、自分がなにを言いたかったのかがわからなくなった。
「まったく同じは不可能だけど、そっくりな夢ならまた見られる可能性もある。だから、永遠のお別れじゃないんだよ」
七海の口ぶりは、まるで癇癪を起こした我が子をなだめる母親だ。
「そう考えれば、悲しみは消えないのだとしても、慰めにはなる。そうでしょ?」
「でも、だからって……」
「やっぱりお別れはつらい? そうだよね。悲しいものは仕方ないよね。その感情、ゼロにする力はわたしにはないけど、慰めてあげることならできる。はい、これ」
七海は手にしているものを凪へと差し出した。
真っ赤な折り鶴。炎に焼かれながら折った一羽だ。炎は今も七海を包みこんでいるが、掌の上の折り鶴はまったく燃えていない。
「触っても熱くないよ。熱さを感じるなんて、ありえない。だってこの子は、そういう星のもとに生まれたんだから」
七海はきっぱりと断言した。
「わたし、折るのに慣れているから、とても簡単に作っているように見えるでしょ? スピードだけを見ればそうかもしれないけど、どの子も愛情をこめて作ってる。一羽だって例外はないよ。特にこの子は、自分がもうすぐ消えるってわかったあとで作ったから、わたしそのものと言ってもいいかもしれない。だから、この子さえそばにいれば、凪くんは今後、なにがあったとしても生きていける。凪くんも言ったように、人は誰しもいつか必ず死ぬけど、でも、今はそんなことは考えなくていい」
七海は白い歯を見せてほほ笑む。凪の目から涙があふれ出した。受けとろうと伸ばした両手が震える。
「命をかけて産んだわたしの子ども、大事にしてね。……さようなら」
突然、炎が消えた。七海のまぶたが閉ざされる。体が前に倒れ、ベッドから落ちそうになる。手から赤い折り鶴がこぼれた。反射的に動いた凪の体は、紙製の一羽を両手に包んだ。
彼女の体が床に落下した。折り鶴を左手に持ち替え、右手を伸ばしながら凪は叫ぶ。
「七海!」
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