レム

阿波野治

文字の大きさ
上 下
45 / 55

我が子

しおりを挟む
「とにかく、七海がちょっと特殊な存在だっていうのはわかったよ。わかったっていうか、認めざるを得ないとは思う。君が言うように、君は僕が創り出した夢であって、現実世界に生きている人間ではなくて、もうすぐ消えてしまう。それは事実なのかもしれない。でも、だからといって、そう簡単には受け入れられないよ。だって、非現実のはずなのに君はこんなにもリアルだし、それに――生身の人間だっていつかは死ぬじゃないか。人間だろうが、想像の産物だろうが、大きくは違わない。だったら、なんで七海が夢なんだ。現実の存在じゃないんだ。おかしいよ、こんなの」

 ぶつけたい思いはまだまだある。しかし、上手く言葉に変換できない。手間取っているうちに感情がこみ上げてきて、自分がなにを言いたかったのかがわからなくなった。

「まったく同じは不可能だけど、そっくりな夢ならまた見られる可能性もある。だから、永遠のお別れじゃないんだよ」

 七海の口ぶりは、まるで癇癪を起こした我が子をなだめる母親だ。

「そう考えれば、悲しみは消えないのだとしても、慰めにはなる。そうでしょ?」
「でも、だからって……」
「やっぱりお別れはつらい? そうだよね。悲しいものは仕方ないよね。その感情、ゼロにする力はわたしにはないけど、慰めてあげることならできる。はい、これ」

 七海は手にしているものを凪へと差し出した。
 真っ赤な折り鶴。炎に焼かれながら折った一羽だ。炎は今も七海を包みこんでいるが、掌の上の折り鶴はまったく燃えていない。

「触っても熱くないよ。熱さを感じるなんて、ありえない。だってこの子は、そういう星のもとに生まれたんだから」

 七海はきっぱりと断言した。

「わたし、折るのに慣れているから、とても簡単に作っているように見えるでしょ? スピードだけを見ればそうかもしれないけど、どの子も愛情をこめて作ってる。一羽だって例外はないよ。特にこの子は、自分がもうすぐ消えるってわかったあとで作ったから、わたしそのものと言ってもいいかもしれない。だから、この子さえそばにいれば、凪くんは今後、なにがあったとしても生きていける。凪くんも言ったように、人は誰しもいつか必ず死ぬけど、でも、今はそんなことは考えなくていい」

 七海は白い歯を見せてほほ笑む。凪の目から涙があふれ出した。受けとろうと伸ばした両手が震える。

「命をかけて産んだわたしの子ども、大事にしてね。……さようなら」

 突然、炎が消えた。七海のまぶたが閉ざされる。体が前に倒れ、ベッドから落ちそうになる。手から赤い折り鶴がこぼれた。反射的に動いた凪の体は、紙製の一羽を両手に包んだ。
 彼女の体が床に落下した。折り鶴を左手に持ち替え、右手を伸ばしながら凪は叫ぶ。

「七海!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣人が有名ゲーム実況者なんだけど、最近様子がおかしい ~ネット配信者にガチ恋した少女の末路~

柚木崎 史乃
ホラー
柊木美玖は、隣人である諸麦春斗がストーカー被害に悩まされているのを目の当たりにしながらも、なかなか声をかけられず歯がゆい思いをしていた。 ある日、美玖は今を時めく人気ゲーム実況者・むぎはるの正体が春斗であることを知ってしまう。 そのうえ、配信中の彼の背後に怪しい人影を見てしまった。美玖は春斗を助けるためにコンタクトを取ろうと決意する。 だが、どうも美玖の行動はストーカーに筒抜けらしく、春斗を助けようとすると犯人と思しき少女・MiraiのSNSアカウントに釘を刺すようなツイートが投稿されるのだった。 平穏な生活を送っていた美玖は、知らず知らずのうちにSNSと現実が交差する奇妙な事件に巻き込まれていく──。

バッドエンドはもう来ない……

白い黒猫
ホラー
自殺をするために、文字通り崖っぷちに立っていた私に話しかけてきたフジワラと名乗る男。フジワラと関わったことで、終わりのない怪奇現象に巻き込まれる事になる。 人生最後の日と決めたその日をひたすら繰り返していくことになった私は、フジワラと共に怪奇現象の謎を追っていくことに……。それは狂った世界への旅の始まりだった。 11:11:11シリーズ第三弾ではありますが、世界は同じですが登場人物も舞台となる都市も全く違うので他の作品を知らなくても全く問題はありません。独立した物語です。

俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク
ホラー
俺は人間が嫌いだ  そんな青年がいた 人の認識で成り立つこの世界  人の認識の歪みにより生まれる怪異 そんな青年はある日その歪みに呑まれ  取り殺されそうになる。 だが怪異に対抗する少女に救われる。  彼女は旋律士 時雨  彼女は美しく、青年は心が一瞬で奪われてしまった。  人嫌いの青年が築き上げていた心の防壁など一瞬で崩れ去った。  でも青年はイケメンでも才能溢れる天才でも無い。  青年など彼女にとってモブに過ぎない。  だから青年は決意した。  いい人を演じるのを辞めて  彼女と一緒にいる為に『嫌な奴』になると。

たとえ“愛“だと呼ばれなくとも

朽葉
ホラー
 日々繰り返す刺激のない生活に辟易としていた愛斗は部活からの帰宅中──人気のない路地で『誘拐』されてしまう。  愛斗のことを愛していると名乗る、見覚えのないストーカー兼誘拐犯の彼。  しかし、彼の歩んできた過去や誘拐した訳を知り、愛斗の気持ちに形容しがたい『愛』が芽生えはじめる──。  一方で、世間では行方不明の愛斗の捜索が行われていた。  東京都で愛斗の行方を捜索する二人の刑事に、誘拐犯に恋する女性教員。  更には、行方不明になった女性教員の親友に、山口県警の刑事三人や誘拐犯の隣人、そして、かつて愛斗の心に傷を負わせた先輩とその恋人。  彼らもまた、歪んだ愛情を抱き、世間に苛まれながらも、心憂い過去を経てきていた。  さまざまな視点を交え、事件の真実と個々に隠された過去、更には彼らの『繋がり』が解き明かされていく──。  この事件、そして、各登場人物の恋路の行き着く運命とは──?  大量の伏線を張り詰めた、ミステリー風、サスペンス&青春ホラー。 ※本作はBLを主に3L要素が含まれます。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

月のない夜 終わらないダンスを

薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。 彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。  勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。 ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

処理中です...