レム

阿波野治

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七海の不安

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「というわけで、根鈴くん」
 他愛もない会話が一段落すると、岩永が話を振ってきた。

「今日は木花さんと、病室で話をするだけなら構わないけど、外出は控えて。遊びに行きたい気持ちもあるだろうけど、木花さんの健康が最優先だから。お願いできるかな?」
「わかりました」
「ありがとう。それじゃあ、ごゆっくり」

 岩永は病室を出て行った。

「凪くん、とりあえず座って。椅子、どうぞ」
 すすめられるままに丸椅子に腰を下ろす。心はさっきまでよりも楽になっている。岩永が病室から去ったから、だろうか。

「岩永さんは、いい人なんだけど」
 七海は上体を少し倒し、凪を上目づかいに見ながら話しかけてきた。かすかに眉をひそめている。

「文句なしにいい人なんだけど、いっしょにいるだけで疲れるんだよね。わたしにとてもよくしてくれるし、悪い企みを内に秘めているわけではないのはわかる。それなのに、疲れちゃうの。わたしの体が弱いからでも、気のせいでもなくて。だって、岩永さんと知り合ってから、ずっとその症状が続いているから」
「それって……。昨日言っていた『不思議な出来事』が起きているということ?」
「そうかもしれないし、そうではないかもしれない。すっきりしない言いかたになるけど、そうとしか言いようがないよ」
「つまり、どういうこと? もう少し詳しく説明してほしいんだけど」
「わたしの力じゃなくて、岩永さんの力じゃないかっていう気がするんだよね。岩永さんが原因なのだとしても、悪意があってわたしを苦しめようとしているわけじゃなくて、自分の意思とは無関係に力が働いているだけだと思うんだけど……」
「七海だけじゃなくて、岩永さんも不思議な出来事を起こす力を持っているということ?」

 七海はうつむいてうなずく。
 凪はどう答えていいかわからない。
 同い年の女の子が超現実的な力を使える。それだけでも驚きなのに、同じような力を使える人間がもう一人いるなんて。

「――ごめんね、説明がわかりにくくて。ようするに、なにがわたしを苦しめているのか、現時点でははっきりしないってことね。これ以上この問題について話してもしょうがないから、おしまいにしよう。ごめんね、変な話をしちゃって」

 七海は再び凪のほうを向くと、無理矢理気味に笑顔に切り替えた。

「岩永さんの言いつけを守って、今日は大人しく楽しく病室で過ごそう。キャビネットの引き出し、開けてくれる? 最上段」
「あ……うん」
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