終末の二人

阿波野治

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「僕が千帆にキスをしたのは、君のことが好きだからだよ。好きになったきっかけとか、いつごろから好きだったのかとか、明言するのはちょっと難しいんだけど。千帆の好きなところは数えきれないくらいたくさんある。ポジティブな性格もそうだし、顔のかわいさだってそう。このさいだから正直に言っちゃうと、大きな胸もね。中でも一番好きなのは、無理に明るく振舞う必要はないから、暗くならないように心がけるべき、っていう考えかた。それを教示してくれたことで、この二日間、精神的に危なくなったときも、大怪我をすることなく乗り越えられた。だから、この場を借りてお礼を言わせて。本当にありがとう」

 君のことが好きだからだよ。
 臆病な僕が、こんなにも簡単に気持ちを伝えられるなんて、思ってもみなかった。

「こちらこそ、だよ。もう一度、お礼を言わせて。ありがとう」

 千帆らしい柔らかさが感じられる声に、場に漂っていた緊張感がいい意味で緩んだ。

「でも、こう言っちゃうと悪いんだけど、あんまり秘密を打ち明けた感はないかな。あたしにキスをした時点で、あたしが好きなんだなって分かったし」
「……ああ、そっか。そうだよね。……うん」

 結果的に秘密に相当しないと判定されたものの、僕自身が秘密と認識している事情を打ち明けたのは事実。今日のところはそれでおしまいにしてもよかった。千帆の性格的にも、今現在の場を支配している雰囲気からも、申し出が二つ返事で了承されるのは間違いない。

 だけど、僕の心はそれを望んでいない。

 言葉で意見を表明するのは恥ずかしい。でも、心は抑えきれないくらいに高ぶっている。気持ちがかつてないほど前のめりになっている。

 ほふく前進をして移動し、隣の布団に上半身を侵入させる。気配に驚いてこちらを見た千帆と、闇の中ではっきりと目が合った。顔と顔の距離は三十センチにも満たない。距離の近さを現実のものとして認識したとたん、彼女の体から発散される匂いが強くなった。それは花の蜜だった。ただの蜜ではなく、媚薬成分をふんだんに含んだ官能的な芳香だ。理性が麻痺し、千帆の姿しか瞳に映らなくなる。

 互いが相手に顔を寄せ、僕たちは二回目のキスを交わす。
 舌で、指で、確かめ合い、高め合う。拙い舌や指の使いかたが、逆に高ぶりを加速させた。僕だけではなく、千帆も同じ感覚に囚われているのが、彼女に触れているからこそ、彼女に触れられているからこそ理解できた。

 長いような短いような戯れを経て、お互いが裸になったときには、お互いに準備は完了していた。

「……いくよ」

 千帆は頷いた。先端を入り口に宛がい、ゆっくりと腰を突き出す。
 僕の一部は千帆の中に入った――はずなのに、なんの感触も覚えなかった。
 刹那、眩暈にも似た感覚に襲われ、意識が急速に遠のいた。
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