塵埃抄

阿波野治

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本当にどうかしていたあの頃の自分

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 あの頃の僕はどうかしていた。
 僕はあの頃、猫は鳥と友達になりたいのだと思っていた。
 僕が幼稚園の時、クロという安直な名前の黒猫を自宅で飼っていた。クロは自宅の庭木に鳥がとまっているのを見つけると、唸り声を上げて身構え、瞳をぎらつかせてその鳥を睨んだ。まだ幼かった僕は、クロはその鳥と友達になりたいから、そんな風に鳴いているのだと思い込んでいた。
 友達になりたいというメッセージを送っても無視され、近寄れば逃げるように飛び立たれる。そんなクロが不憫でならなかったが、幼い僕には両者の仲を取り持つ知恵はなく、どうすることも出来なかった。
 そんなある日、自宅の庭の松の木の下で、一羽の雀が血まみれの姿で死んでいるのを見つけた。死のなんたるかを朧気ながらも理解していた当時の僕は、友達が死んでいるのを見たらクロは悲しむだろうと考え、狼狽した。だが当のクロは、友達の屍骸からはそう離れていない場所で平然と顔を洗っている。その口元は赤く汚れていた。
 僕はいきなりクロの首根っこを掴むと、彼の頭部を激しく何度も地面に叩きつけた。飼い主からの突然の非常な仕打ちに、クロは抵抗する間もなく絶命した。
 友達に対しては、殺してしまうほどに暴力的に接するのが、本来あるべき友情の形なのだ。
 友達に対するクロの行動の意味を、僕はそのように解釈し、自分にとって友達であるクロに対してそれを実践したのだった。
 やがて小学生になった僕は、親しくなったある友達を、クロの時と同様の考えから、クロと同様の方法で殺めた。施設の職員の指導を受けた結果、その考えは誤りと理解するに至った。その御陰で、僕は今、人並みの平凡な暮らしを送っている。
 本当に、あの頃の僕はどうかしていた。
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