塵埃抄

阿波野治

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軽トラ

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 俺の愛車は軽トラだった。人よりも荷物を運ぶ機会の方が多かったから、日常的に使うにはそちらの方が便利だったんだ。
 俺には妻と、六歳になる息子がいた。軽トラには二人しか乗れないし、妻は運転免許を持っていないから、車で出かける時は、俺が運転してどちらかが助手席、という形に必然的になる。息子はよく「三人で一緒にお出かけしたい」と不満を口にしたが、うちは貧乏だから、新しく車を買うことは難しい。
 いつだったか、息子が「僕が軽トラの荷台に乗ればいい」と提案したことがあった。だが、走行中の軽トラの荷台に人が乗ることは道交法で禁じられている。そのことを説明すると、息子は諦めたらしく、以後、三人で出かけようとは言わなくなった。
 とある休日、俺は妻と軽トラで買い物に出かけた。国道を走っていると、後ろからパトカーに拡声器で呼び止められた。路肩に停まり、運転席から降りると、荷台にかけてあるカバーの端から人の頭が突き出しているのを見た、と警官は言う。命じられるままにカバーを捲ると、なんと、うちの息子が乗っているではないか。問い質すと、「どうしても三人で出かけたかったから、こっそり忍び込んだ」と白状した。三人で平謝りに謝ったから、お縄にかからずには済んだが、ずっと沈鬱な表情をしていたね、愛する我が息子は。
 その夜、どうしても三人で出かけたいのか、と俺は息子に問い質した。息子は頷いた。だから俺は、電気コードで息子の首を絞めて殺害した。
 息子の遺体を荷台に、妻を助手席に乗せ、俺は軽トラを発進させた。初めての三人揃っての軽トラでの遠出は、実に愉快なものだった。ドライブインに立ち寄った際に、異臭がすると客に通報されて、楽しい時間は一時間足らずで終わってしまったけどね。
 愛車はスクラップにされたと弁護士先生から聞いたよ。俺も近々、息子と愛車のもとに旅立つつもりだ。きっと妻も同じ気持ちだと思う。
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