塵埃抄

阿波野治

文字の大きさ
上 下
118 / 200

ある建物

しおりを挟む
 二階建ての建物だ。大きさは、ありふれた戸建て住宅と同じくらい。屋根は黒く、外壁は濃いグレー。窓がやたら多い。巨大な倉庫、という印象を葉太は持った。
 出入り口を塞ぐように、アロエの鉢が二十ほど並べられている。鉢と鉢の間をすり抜けて自動ドアを潜る。
 一・五流どころのビジネスホテルのロビー、といった空間。前方にフロントが見え、鮃のような顔の女が待ち構えている。左手は休憩所になっていて、ソファ、テーブル、書棚、自販機、水槽、アロエの鉢などが置かれている。右手には幅広の階段があり、二階へと続いている。
 葉太は脈絡なく、小学二年生の時にプロ野球選手の清原にサインを貰ったことを思い出した。ゆめタウンのフードコートで家族と食事をしていると、お好み焼き店の前でミニーマウスを強姦している清原を見かけたので、たまたま所持していたサイン色紙とフェルトペンを差し出してサインをお願いすると、快く応じてくれたのだ。生で見た清原は、脚が六本あった。一般のプロ野球選手の三倍の数の足でしっかりとグラウンドを踏み締めてスイングするからどんなボールにも臨機応変に対応できるのだな、と八歳の葉太は合点した。
 当時を懐かしみながらフロントへと歩を進めた。その結果、女の顔は鮃そっくりというより、鮃そのものであることが判明した。
「一泊したいのですが、空いている部屋はありますでしょうか」
「ええ、空いていますよ。どこもかしこも、がら空きです。内野席と外野席、どちらを――」
 女の頭を鷲掴みし、休憩所まで引きずっていき、水槽にぶち込んだ。女はきょとんとした顔をしていたが、やがて濁った水の中を億劫そうに泳ぎ始めた。
 回れ右し、休憩所を出る。なにが起きても臨機応変に対応してみせるぞ、と意気込みながら階段を上がる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おねしょ合宿の秘密

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
おねしょが治らない10人の中高生の少女10人の治療合宿を通じての友情を描く

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選

上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。 一人用の短い恋愛系中心。 【利用規約】 ・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。 ・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。 ・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

処理中です...