塵埃抄

阿波野治

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ボウリング場にて

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「俺ら島の人間を差別するんじゃねぇ! これでも食らいやがれ!」
 三月中旬にもかかわらずアロハシャツ一枚という正気とは思えない身形のその少年はそう叫ぶなり手にしていたソフトボール大のサーターアンダギーを鉄雄の口にねじ込んだ。口腔の水分を根こそぎ持って行かれ、呼吸が苦しくなる。苦悶する鉄雄を見て、彼を包囲する三月中旬にもかかわらずアロハシャツ一枚という正気とは思えない身形の集団は指笛を吹いて耳障りな音を響かせる。
 鉄雄は休日を利用して一人でボウリング場に遊びに来ていた。レンタルすべきもののレンタルを済ませ、ゲームを楽しんでいると、三月中旬にもかかわらずアロハシャツ一枚という正気とは思えない身形の集団が彼を取り囲んだ。彼らは持参した打楽器を打ち鳴らしながらシュプレヒコールを上げ始めた。
「ボウリング止めろ! ボウリング止めろ!」
 鉄雄は当惑したが、すぐさま気を取り直し、リーダー格らしい少年に向かって、穏便な口調、棘のない言葉遣いを心懸けながら、自分は所定の料金を不足なく支払ったし、定められたルールを遵守してプレイしているのだから、ゲームを中断しなければならない理由は一切ない、という趣旨の反論を述べた。すると少年は、鉄雄がボウリングをしてはならないことは民意によって決められたことだから、鉄雄は民意を尊重し、それに従わなければならない、という意味の言葉を返した。あなたの言う民意の定義を教えてほしい、民意とは無条件に尊重し従わなければならないものなのか、と問うと、少年は急に怒り出し、冒頭の暴言を吐くと共にサーターアンダギーを鉄雄の口にねじ込んだのだった。
 次々と口に押し込まれるサーターアンダギーと必死に格闘しながら、少年の主張の方が正しいと納得できたなら潔くボウリングを止めるつもりでいたのに、言い負かされそうになった途端に暴力に訴えるなんて野蛮人がすることだ、と鉄雄は思った。
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