89 / 200
酷暑の毒
しおりを挟む
酷暑だった。駅へと続く道を歩きながら、俺は苛々していた。半分は暑さ、半分は与田のせいだ。俺と与田は、地域のバレーボール教室で指導員として子供たちを教えているが、指導方針を巡って対立していた。
あいつのやり方は間違っている。バレーボールを始めて間もない子供に、時代錯誤のきつい練習ばかりやらせて、なんになるのか。技術云々よりも、まずは競技の楽しさを知ってもらうべきだろうに。
喉が渇いて仕方なかったので、自販機で烏龍茶を買った。取り出し口の扉を開けると、烏龍茶とコーラ、二本の缶が入っていた。手に取ると、茶の缶は冷たく、コーラの缶はぬるい。両方ともタブは開いていなかった。
ぬるい。未開封。この二点から考えて、取り忘れと解釈するのが妥当だろう。喉が渇いているし、二本とも飲んでしまおうか。だが、万が一、愉快犯が毒物を混入していたらと考えると恐ろしい。だからといって、警察に届け出るのも大袈裟だという気がする。
二本の缶を手に近くの公園に入り、ベンチに腰を下ろす。とりあえず烏龍茶の缶を開け、飲んでいると、いつの間にか目の前に五歳くらいの女児が佇み、物欲しそうな目で俺を見つめていた。知能の発達が遅れている子だと一目で分かった。バレーボール教室で日常的に子供たちと接しているから分かるのだが、この手の子供は相手をするのが面倒臭い。そこでコーラを利用することにした。
「これをあげるから、あっちのベンチで飲みなさい」
女児は目を輝かせてコーラを受け取った。向かいのベンチに座り、タブを開けて缶に唇をつける。
一口飲んだ瞬間、女児の体が痙攣し始めた。缶が手から落ち、女児は力なく地面に倒れた。慌てて駆け寄ると、女児は顔が紫色で、口から泡を吹いていた。
後で知ったのだが、その女児は与田の一人娘だったらしい。
あいつのやり方は間違っている。バレーボールを始めて間もない子供に、時代錯誤のきつい練習ばかりやらせて、なんになるのか。技術云々よりも、まずは競技の楽しさを知ってもらうべきだろうに。
喉が渇いて仕方なかったので、自販機で烏龍茶を買った。取り出し口の扉を開けると、烏龍茶とコーラ、二本の缶が入っていた。手に取ると、茶の缶は冷たく、コーラの缶はぬるい。両方ともタブは開いていなかった。
ぬるい。未開封。この二点から考えて、取り忘れと解釈するのが妥当だろう。喉が渇いているし、二本とも飲んでしまおうか。だが、万が一、愉快犯が毒物を混入していたらと考えると恐ろしい。だからといって、警察に届け出るのも大袈裟だという気がする。
二本の缶を手に近くの公園に入り、ベンチに腰を下ろす。とりあえず烏龍茶の缶を開け、飲んでいると、いつの間にか目の前に五歳くらいの女児が佇み、物欲しそうな目で俺を見つめていた。知能の発達が遅れている子だと一目で分かった。バレーボール教室で日常的に子供たちと接しているから分かるのだが、この手の子供は相手をするのが面倒臭い。そこでコーラを利用することにした。
「これをあげるから、あっちのベンチで飲みなさい」
女児は目を輝かせてコーラを受け取った。向かいのベンチに座り、タブを開けて缶に唇をつける。
一口飲んだ瞬間、女児の体が痙攣し始めた。缶が手から落ち、女児は力なく地面に倒れた。慌てて駆け寄ると、女児は顔が紫色で、口から泡を吹いていた。
後で知ったのだが、その女児は与田の一人娘だったらしい。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)
青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。
これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。
ショートショートの予定。
ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
裏路地古民家カフェでまったりしたい
雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。
高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。
あれ?
俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか?
え?あまい?
は?コーヒー不味い?
インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。
はい?!修行いって来い???
しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?!
その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。
第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる