塵埃抄

阿波野治

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感染

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 基男が彼女と一緒に往来を歩いていると、ファミリーマートの駐車場に共産党のC委員長が佇んでいた。スーツ姿で、無表情だ。写真を撮ろうと携帯電話を取り出したが、同じくC委員長を認めた彼女は無反応で、他の通行人も同様だった。小泉進次郎じゃあるまいし。苦笑をこぼし、携帯電話をポケットに戻した。
 赤信号に引っかかり、基男と彼女は立ち止まった。するとC委員長が二人に歩み寄り、基男の背後で足を止めた。生の国会議員を間近で見る機会は滅多にないので、まじまじと見つめていると、突然、C委員長の額に裂け目が生じた。五センチほどの長さのそれは、くぱぁ、と音を立てて開いたかと思うと、黄土色の粘土のような塊を排出した。べちょり、と地面に落下したそれは、凄まじい悪臭を放った。排泄物だった。
 うわぁ、と基男は悲鳴を上げた。彼女の手首を引っ掴み、青に変わった横断歩道を駆ける。駆け抜けた後も、走行速度は緩めない。走って、走って、走り続けた。
 息切れし、足を止めると、目の前に交番があった。事態を呑み込めていないらしく、きょとんとしている彼女を促し、中に入る。奥から善良そうな男性警官が出てきた。基男が事情を説明すると、警官は顔から表情を消した。次の瞬間、その額に裂け目が生じ、黄土色の排泄物が吐き出された。
 基男は交番を飛び出した。腕を引っ張られた彼女が、痛い、と抗議するのも構わずに、全力疾走した。自分たちの身になにが起きているのか、基男は全く理解できなかった。
 歩道橋を駆け上がろうとしたが、足がもつれて転倒してしまった。両手で地面を押して上体を起こし、恋人を見上げる。
 彼女は無表情だった。額の裂け目から悪臭と共に糞便がぼろぼろとこぼれ落ちる。
 基男は真顔になり、自らの額に五センチほどの裂け目を生じさせ、そこから排便した。
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