塵埃抄

中退ドラゴン

　私は本日付で村上龍のファンになることにした。村上龍の著作は現在のところ一冊も持っていないが、村上龍のファンになった方がよかろうと思ったので、村上龍のファンになることに決めたのである。なぜ村上龍のファンになった方がよかろうと思ったかというと、村上春樹の次にノーベル文学賞を取る可能性のある日本人は、筒井康隆、谷川俊太郎、村上龍、この三人だろうと考えたからである。なぜ三人の中から村上龍を選んだかというと、筒井康隆は既に膨大な数の小説を世に送り出していて、なにかもう手に負えなかったし、私は詩にはあまり関心がない。早い話が消去法というやつである。
　ファンになったからには著作の一・二冊は手元に置いておいた方がよかろうということで、バスに乗って駅前の書店まで行くことにする。夕方になると学校帰りの学生で混雑するので、昼食を済ませると即座に自宅を発った。ニートでよかったと心から思う。循環バスなので、運賃は乗り降りする停留所に左右されない。この路線のバスの車中は、時々、物凄く小便臭いことがある。
　移動中、スマートフォンで村上龍について調べてみた。調べによると、村上龍は１９５２年生まれで、本名は竜之介で、佐世保生まれで、武蔵野美術大学を中退したらしい。大学中退。なんだ、私と同じではないか。
　書店に着くなり文庫本コーナーに直行する。村上龍の著作はそれなりに置いてあった。とりあえず、芥川賞受賞作である『限りなく透明に近いブルー』を購入し、帰途に就く。
　帰りのバスの車中は、行きとは異なり、物凄く小便臭かった。最後部の席に座っていた二人連れの女子高生は「臭くね？　なんか臭くね？」と三十秒に一回のペースで言っている。移動時間を利用して『限りなく透明に近いブルー』を読むつもりでいたのだが、臭くて読む気がしない。
　小便の臭いの中で私は思う。１９５２年生まれって、かなりオッサンだ。