51 / 200
甘言
しおりを挟む
「ぼく、ぼく」
母親に使いを命じられ、初めて訪れる町を左見右見しながら歩いていた杜美也は、出し抜けに柔らかな声に呼ばれた。足を止めて振り向くと、大層立派な屋敷の門前に、作務衣姿のおじいさんが立っている。金色の髪の毛、青い瞳のそのおじいさんは、皺だらけの笑顔で杜美也のことを見ている。
「屋敷に遊びにおいで。お菓子が沢山あるよ。面白いものも見せてあげる」
知らない人からの誘いに乗っては絶対にダメよ。母親からそう注意を受けたことを忘れたわけではなかったが、おじいさんは悪い人には見えない。お菓子をくれるなら食べたいし、「面白いもの」がなんなのかも気になる。
杜美也は首を縦に振った。おじいさんは顔の皺の数を増やし、身を翻して門を潜った。杜美也はおじいさんについていった。
案内されたのは離れの和室。広さは十畳ほどで、脚が短い木製の机と、大きな画面のテレビが置かれている。机の上には大量の菓子が堆く積まれている。
「このお菓子はぼくのために用意したものだよ。さあ、たんとおあがり」
おじいさんはにこにこしながら言った。杜美也は顔を綻ばせ、菓子を食べ始めた。饅頭、最中、大福、どれもとびきり美味しい。夢中になって菓子を食べる杜美也の様子を、おじいさんは机の向こうから笑顔で眺めている。
「では、面白いものを見せてあげよう」
菓子をつまむ手が止まったのを見て、おじいさんはどこからか取り出したリモコンでテレビをつけた。映し出されたのは、杜美也と同い年くらいの少女が、満面に笑みを湛え、山ほど用意された菓子を一心不乱に食べている、という映像。
突然、おじいさんが大きな声で笑い出した。おじいさんはテレビの画面ではなく、杜美也を見ていた。その青い瞳は極限まで見開かれ、ぎらぎらと輝いている。
母親に使いを命じられ、初めて訪れる町を左見右見しながら歩いていた杜美也は、出し抜けに柔らかな声に呼ばれた。足を止めて振り向くと、大層立派な屋敷の門前に、作務衣姿のおじいさんが立っている。金色の髪の毛、青い瞳のそのおじいさんは、皺だらけの笑顔で杜美也のことを見ている。
「屋敷に遊びにおいで。お菓子が沢山あるよ。面白いものも見せてあげる」
知らない人からの誘いに乗っては絶対にダメよ。母親からそう注意を受けたことを忘れたわけではなかったが、おじいさんは悪い人には見えない。お菓子をくれるなら食べたいし、「面白いもの」がなんなのかも気になる。
杜美也は首を縦に振った。おじいさんは顔の皺の数を増やし、身を翻して門を潜った。杜美也はおじいさんについていった。
案内されたのは離れの和室。広さは十畳ほどで、脚が短い木製の机と、大きな画面のテレビが置かれている。机の上には大量の菓子が堆く積まれている。
「このお菓子はぼくのために用意したものだよ。さあ、たんとおあがり」
おじいさんはにこにこしながら言った。杜美也は顔を綻ばせ、菓子を食べ始めた。饅頭、最中、大福、どれもとびきり美味しい。夢中になって菓子を食べる杜美也の様子を、おじいさんは机の向こうから笑顔で眺めている。
「では、面白いものを見せてあげよう」
菓子をつまむ手が止まったのを見て、おじいさんはどこからか取り出したリモコンでテレビをつけた。映し出されたのは、杜美也と同い年くらいの少女が、満面に笑みを湛え、山ほど用意された菓子を一心不乱に食べている、という映像。
突然、おじいさんが大きな声で笑い出した。おじいさんはテレビの画面ではなく、杜美也を見ていた。その青い瞳は極限まで見開かれ、ぎらぎらと輝いている。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説



アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる