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ミサイルと訃報
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北朝鮮が本日、我が国のどこかに核ミサイルを撃ち込むと我が国に通告した影響で、我が国の街という街から人の姿が消えた。
閑散とした駅前をぶらついていると、分厚い紙の束を胸に抱えた若い男が、号外、号外、と喚き散らしている。
「とうとう落ちましたか。やっぱり東京?」
歩み寄って声をかけると、若い男は無言で、紙束の一番上の一枚を差し出した。見出しは「菅原健さん死去」となっている。
「誰? 北朝鮮のミサイルでやられたの?」
「俳優ですよ。トラック野郎どもの仁義なき戦いに巻き込まれて、殺されたらしいです」
若い男は無表情で解説した。記事に目を通すと、確かにそう書いてある。
「しかし、核ミサイルをぶちこまれようかって時に、三流俳優の死が号外で報じられるっていうのも、なにか妙な感じがするなぁ」
「ミサイルは既に我が国の領土のどこかに着弾していて、その事実を隠蔽するために、我が国の政府がメディアに圧力をかけて大々的に報じさせた、という噂も囁かれているようですね。菅原は俳優としては三流ですが、反政府活動家としては有名ですし」
私たちは暫時、我が国の政府の隠蔽体質、及び北朝鮮の今後の動向について意見を交換し、別れた。
その日の夕方、北朝鮮は、ミサイル発射を明日に延期する、と我が国に通達した。
翌日、人通りの途絶えた駅前に足を運ぶと、昨日の若い男がまたしても号外を配っていた。「高倉文太さん死去」という見出しだった。
「誰だっけ。名前は聞いたことあるけど」
「俳優です。黄色いハンカチで首を括ったそうですが、なんといっても、高倉は一流俳優ですからね。高倉の知名度の高さに着目した我が国の政府が、国民の関心をミサイル問題から逸らす目的で暗殺したという噂も――」
若い男の表情は心なしか柔らかい。
北朝鮮は永遠にミサイル発射を延期し続け、我が国の俳優は毎日死ぬに違いない。
閑散とした駅前をぶらついていると、分厚い紙の束を胸に抱えた若い男が、号外、号外、と喚き散らしている。
「とうとう落ちましたか。やっぱり東京?」
歩み寄って声をかけると、若い男は無言で、紙束の一番上の一枚を差し出した。見出しは「菅原健さん死去」となっている。
「誰? 北朝鮮のミサイルでやられたの?」
「俳優ですよ。トラック野郎どもの仁義なき戦いに巻き込まれて、殺されたらしいです」
若い男は無表情で解説した。記事に目を通すと、確かにそう書いてある。
「しかし、核ミサイルをぶちこまれようかって時に、三流俳優の死が号外で報じられるっていうのも、なにか妙な感じがするなぁ」
「ミサイルは既に我が国の領土のどこかに着弾していて、その事実を隠蔽するために、我が国の政府がメディアに圧力をかけて大々的に報じさせた、という噂も囁かれているようですね。菅原は俳優としては三流ですが、反政府活動家としては有名ですし」
私たちは暫時、我が国の政府の隠蔽体質、及び北朝鮮の今後の動向について意見を交換し、別れた。
その日の夕方、北朝鮮は、ミサイル発射を明日に延期する、と我が国に通達した。
翌日、人通りの途絶えた駅前に足を運ぶと、昨日の若い男がまたしても号外を配っていた。「高倉文太さん死去」という見出しだった。
「誰だっけ。名前は聞いたことあるけど」
「俳優です。黄色いハンカチで首を括ったそうですが、なんといっても、高倉は一流俳優ですからね。高倉の知名度の高さに着目した我が国の政府が、国民の関心をミサイル問題から逸らす目的で暗殺したという噂も――」
若い男の表情は心なしか柔らかい。
北朝鮮は永遠にミサイル発射を延期し続け、我が国の俳優は毎日死ぬに違いない。
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