塵埃抄

阿波野治

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クスリ

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「あんた、クスリをやっているね」
 駿介がコンビニで『ジャンプ』を立ち読みしていると、出し抜けに声をかけられた。振り向くと、五十過ぎと見受けられる小男が、意地の悪い目つきで駿介を睨んでいる。
「俺には分かるよ。だって、あんた、そういう顔してるもん」
 駿介は困惑に眉をひそめた。
 男の言う「クスリ」とは、狭義の薬物のことを指しているのだろう。だが駿介は、そのような代物を使用した経験はなかった。
「クスリを使ったことなんて、一度もありません。言いがかりは止めてください」
 きっぱりと言って『ジャンプ』に顔を戻したが、男は「嘘をつけ」と叫んだ。
「あんたはクスリをやっている。他の連中は騙せても、俺の目は誤魔化せない。今日こそあんたに天誅が下るぜ」
 クスリをやっているのはお前だろう。駿介は心の中で毒づいた。そうでなくても、頭がおかしい人間なのは間違いない。無視を決め込み、黙ってページを捲ったが、その手は微かに震えていた。
 男は懐から携帯電話を取り出し、何者かと通話を始めた。コンビニ、違法、男子学生、といった単語が聞き取れた。
 事実として、僕はクスリなどやっていないのだから、警察が来たとしても怖れることはない、堂々と身の潔白を主張すればいいのだ。そう自らに言い聞かせたが、集中力を保てず、『ジャンプ』を読むことに専念できない。
「ほうら、お出ましだぜ。あんたをブタ箱へと導く地獄の使者が」
 店の出入り口に目を移すと、青い制服を着た二人組の男が、駿介がいる方に向かって歩いてくるのが見えた。
 動悸が激しい。両脚が震え始めた。
 駿介は、もしかすると僕は、自覚がないだけで、過去に違法な薬物を使用したことがあるのではないか、と疑い始めた。
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