28 / 200
煩悩
しおりを挟む
窓のない、薄暗い一室。天井の中央から白熱電球とLED電球が一個ずつ突き出ていて、前者のみが灯っている。弱々しい光に照らし出されているのは、床に正座をした、紫色の法衣を着た老僧。胸の前で両手で数珠をこすり合わせながら、蚊の鳴くような声で経を唱えている。
老僧の後方で扉が開く音がした。足音が老僧に接近し、背後で止まる。新たに光に照らし出されたのは、全裸の、筋肉質の若い男。男は己の男性器の付け根を右手で握り締め、その先端を老僧の頭上に移動させた。そして読経の調子に合わせて、性器の先端部で禿頭を叩きながら、野菜の名称を口頭で羅列し始めた。
「トマト、大根、キャベツ、白菜、ゴボウ、水菜、キュウリ、ブロッコリー、ニンジン、ネギ……」
男性器で頭頂を叩かれながらも、老僧は何食わぬ顔で経を唱え続けている。
「ミニトマト、レタス、ナス、プチトマト。フルーツトマトに、えーっと、ほら、あれ。ミニトマトと普通のトマトの中間のサイズの――そう、ミディトマト!」
男の首筋を一粒の汗が滑り落ちた。禿頭を叩くリズムは早くも乱れ始めている。
「ドライトマト、トマトピューレ、虫が食ったトマト。東北南部の太平洋側で栽培された放射性物質二割増しのお買い得トマト。それから、えーっと、それから、それから……」
男の言葉が途絶えた。裸体が小刻みに震え始める。
男は男性器から右手を離すと、両手で頭髪を掻きむしり、取り乱したように「うわぁー!」と叫んだ。老僧に背を向け、猛然と部屋を飛び出す。
扉が閉まると同時に、老僧の読経が終わり、天井のLED電球が明々と灯った。老僧は静かに腰を上げ、部屋の隅に置かれている小机に歩み寄り、一番上の抽斗を開ける。
抽斗の中には、色も形も大きさも様々なトマトがぎっしりと詰まっている。
老僧の後方で扉が開く音がした。足音が老僧に接近し、背後で止まる。新たに光に照らし出されたのは、全裸の、筋肉質の若い男。男は己の男性器の付け根を右手で握り締め、その先端を老僧の頭上に移動させた。そして読経の調子に合わせて、性器の先端部で禿頭を叩きながら、野菜の名称を口頭で羅列し始めた。
「トマト、大根、キャベツ、白菜、ゴボウ、水菜、キュウリ、ブロッコリー、ニンジン、ネギ……」
男性器で頭頂を叩かれながらも、老僧は何食わぬ顔で経を唱え続けている。
「ミニトマト、レタス、ナス、プチトマト。フルーツトマトに、えーっと、ほら、あれ。ミニトマトと普通のトマトの中間のサイズの――そう、ミディトマト!」
男の首筋を一粒の汗が滑り落ちた。禿頭を叩くリズムは早くも乱れ始めている。
「ドライトマト、トマトピューレ、虫が食ったトマト。東北南部の太平洋側で栽培された放射性物質二割増しのお買い得トマト。それから、えーっと、それから、それから……」
男の言葉が途絶えた。裸体が小刻みに震え始める。
男は男性器から右手を離すと、両手で頭髪を掻きむしり、取り乱したように「うわぁー!」と叫んだ。老僧に背を向け、猛然と部屋を飛び出す。
扉が閉まると同時に、老僧の読経が終わり、天井のLED電球が明々と灯った。老僧は静かに腰を上げ、部屋の隅に置かれている小机に歩み寄り、一番上の抽斗を開ける。
抽斗の中には、色も形も大きさも様々なトマトがぎっしりと詰まっている。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる
青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。
ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。
Hotランキング21位(10/28 60,362pt 12:18時点)
フリー朗読台本
あやな《紡ぎ人》
エッセイ・ノンフィクション
私の心に留まる想いを、
言葉にして紡いでおります( . .)"
数ある台本の中から、
私の作品を見つけて下さり、
本当にありがとうございます🥲
どうかあなたの心に、
私の想いが届きますように……
こちらはフリー朗読台本となってますので、
許可なくご使用頂けます。
「あなたの心に残る朗読台本を☽・:*」
台本ご依頼、相談等あれば
下記アカウントまでご連絡ください( . .)"
Twitter:Goodluck_bae
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」
まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)
本野汐梨 Honno Siori
ホラー
あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。
全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。
短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。
たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる