5 / 200
屋上の事件
しおりを挟む
休日が来るたびに、私は小学一年生の娘を連れて、駅前の百貨店の屋上にあるペット売り場に足を運ぶ。
その日も売り場は閑散としていて、獣臭かった。子供連れの客は私たち以外にはいない。妻子が買い物を済ませるまでの時間潰しに訪れたのだろう、冴えない風采の中年男性が数名、退屈そうにうろついている。
娘はモルモットのケージを熱心に覗き込んでいる。ケージの中では、太ったモルモットが黙々とキャベツを食べている。
二人でその姿を眺めていると、こちらに近づいてくる者がいる。薄汚い身形をした老年の男だ。どことなく様子がおかしかったので、私は男の一挙手一投足に注意を払った。男は娘の横で足を止め、据わった目で彼女の横顔を凝然と見つめる。
堪らなく嫌な予感がした、次の瞬間、男がいきなり、娘の頭をグーで殴った。
私は愕然として男の顔を見返した。男は娘の頭を連打し始めた。
「ちょっと! 娘に何をするんですか!」
「うるさい! こいつ、うるさい!」
男はヒステリックな声を撒き散らす。
「うるさい? 娘は黙って、大人しく、モルモットを見ていたじゃないですか」
「うるさい! うるさい!」
対話を試みても無駄だ、と判断した私は、娘をかばいながら売り場から逃げ出した。男は追ってこなかった。叩く力は弱かったらしく、娘は怪我をしていなかったので、119番も110番もしなかった。
一言も喋らずにモルモットを見る娘の、どこが、何が、うるさかったのだろう? 加害者に問い質す機会は二度と訪れないだろうから、真相は闇の中、ということになる。
ただ、売り場から逃げ去る私たちを見送る男の表情は、どこか物足りない様子だった。
謎を解く鍵は、もしかすると、そこに隠されているのかもしれない。
その日も売り場は閑散としていて、獣臭かった。子供連れの客は私たち以外にはいない。妻子が買い物を済ませるまでの時間潰しに訪れたのだろう、冴えない風采の中年男性が数名、退屈そうにうろついている。
娘はモルモットのケージを熱心に覗き込んでいる。ケージの中では、太ったモルモットが黙々とキャベツを食べている。
二人でその姿を眺めていると、こちらに近づいてくる者がいる。薄汚い身形をした老年の男だ。どことなく様子がおかしかったので、私は男の一挙手一投足に注意を払った。男は娘の横で足を止め、据わった目で彼女の横顔を凝然と見つめる。
堪らなく嫌な予感がした、次の瞬間、男がいきなり、娘の頭をグーで殴った。
私は愕然として男の顔を見返した。男は娘の頭を連打し始めた。
「ちょっと! 娘に何をするんですか!」
「うるさい! こいつ、うるさい!」
男はヒステリックな声を撒き散らす。
「うるさい? 娘は黙って、大人しく、モルモットを見ていたじゃないですか」
「うるさい! うるさい!」
対話を試みても無駄だ、と判断した私は、娘をかばいながら売り場から逃げ出した。男は追ってこなかった。叩く力は弱かったらしく、娘は怪我をしていなかったので、119番も110番もしなかった。
一言も喋らずにモルモットを見る娘の、どこが、何が、うるさかったのだろう? 加害者に問い質す機会は二度と訪れないだろうから、真相は闇の中、ということになる。
ただ、売り場から逃げ去る私たちを見送る男の表情は、どこか物足りない様子だった。
謎を解く鍵は、もしかすると、そこに隠されているのかもしれない。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説



アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる