何の意味もない、物凄く短い、九つの物語

阿波野治

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【おまけ】

マネー

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 六年前に、愛人とよろしくやっている最中に脳溢血で逝った父が、お隣の北村さん宅の二階の屋根の上でうんうんと唸っている。問いかけても何も答えないが、屋根から下りられなくなったのは明らかだ。
 私はタクシー会社に電話をかけた。五分も経たないうちに、黄色い車体のタクシーが地上二メートルの高さを飛んでやってきて、北村さん宅の屋根の前で停まる。父はそそくさと乗り込み、タクシーは南南西の方角へと飛び去った。
 翌日、生活費を引き出すために銀行に足を運ぶと、預金残高が増えていた。また振り込まれているのだ。一か月の生活費には満たないが、小遣いと見なした場合には大金と呼んでも差し支えない金額のマネーが、今月も。
「大切に使おう、大切に」
 私は自らに言い聞かせるように呟きながら銀行を後にする。
「大切に使おう、大切に……」
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