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真相⑦
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わたしは咲子さんの実の娘。別々の環境で暮らしてきて、性格も顔も全然似ていないけど、「咲子さんの実の娘」と認識したうえで付き合えば、代替品としてはなかなか悪くないんじゃないかな。食事の面でも、その他の面でも、中後さんのために全力で尽くすって心から誓う。だから、中後さんはもう、小毬の住人を襲わなくても生きていける。
咲子さんだって、うとましがっていたわたしと、宿敵である中後さん、両方が自分の前から消えるのだから、わざわざ中後さんを殺そうとは思わなくなるはず。今まで殺された人の恨みを晴らしたい気持ち、特に愛していた卓郎を殺された恨みは、決して弱くないと思う。住人たちの中にだって、中後さんに家族を殺された人間が大勢いる。それでも、咲子さんなら己の心を上手にコントロールできるし、住人たちの感情だって鎮めることができるって、わたしは信じている。だって咲子さんは、三十代の若さで地区長にまで上り詰めたすごい人なのだから。
お前の気持ちはどうなんだって、問いたそうにしている顔が二つ三つあるけど、わたしは平気だよ。中後さんと二人で暮らすことになっても平気。わたしにとって彼は、好みのタイプの異性だし、恩人でもあるのだから。種族が違うからこその苦労みたいなものは、これから次々に出てくると思うけど、きっと乗り越えられるって信じてる。
というわけで、わたしはみんなの前から姿を消すから、人食い虎の最後の犠牲者になったことにしておいて。そうすれば万事が丸く収まるんじゃないかな。
咲子さん、中後さん、わたしの案についてどう思う?
* * *
「……瑕疵のないアイディアに思えるね。あくまでも一度話を聞いてみた限りでは、だけど」
一分近く続いたかという長い沈黙を、咲子のひとり言のようなつぶやきが破った。
「私自身は、呑むのは全然ありだと思う。双方にとってメリットがあるし、実の娘の頼みだからという意味でもね。問題は、虎がこれに賛同するかどうかだけど――」
「これ以上ない、よい案だと思うよ。非の打ちどころがない案だと思うな、僕は」
虎は感心したようにつぶやく。人間の姿だったならば、くり返しうなずくしぐさとセットだっただろう、というような。
「僕はいいよ。お前の案、喜んで受け入れさせてもらうよ、今宮南那」
「ということは、交渉成立ということ?」
南那は両者の顔を交互に見た。彼女の顔が自分に向けられるタイミングに合わせて、咲子も虎も首を縦に振った。
長い争いに終止符が打たれたのだ。
咲子さんだって、うとましがっていたわたしと、宿敵である中後さん、両方が自分の前から消えるのだから、わざわざ中後さんを殺そうとは思わなくなるはず。今まで殺された人の恨みを晴らしたい気持ち、特に愛していた卓郎を殺された恨みは、決して弱くないと思う。住人たちの中にだって、中後さんに家族を殺された人間が大勢いる。それでも、咲子さんなら己の心を上手にコントロールできるし、住人たちの感情だって鎮めることができるって、わたしは信じている。だって咲子さんは、三十代の若さで地区長にまで上り詰めたすごい人なのだから。
お前の気持ちはどうなんだって、問いたそうにしている顔が二つ三つあるけど、わたしは平気だよ。中後さんと二人で暮らすことになっても平気。わたしにとって彼は、好みのタイプの異性だし、恩人でもあるのだから。種族が違うからこその苦労みたいなものは、これから次々に出てくると思うけど、きっと乗り越えられるって信じてる。
というわけで、わたしはみんなの前から姿を消すから、人食い虎の最後の犠牲者になったことにしておいて。そうすれば万事が丸く収まるんじゃないかな。
咲子さん、中後さん、わたしの案についてどう思う?
* * *
「……瑕疵のないアイディアに思えるね。あくまでも一度話を聞いてみた限りでは、だけど」
一分近く続いたかという長い沈黙を、咲子のひとり言のようなつぶやきが破った。
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