107 / 120
高まる緊張
しおりを挟む
「やっぱり私の言っていることが分かるのね。普通に日本語をしゃべれている」
「中後保の生まれ変わりか、とは訊かないのか?」
「どうでもいいわ、そんなこと。そもそも殺すから必要ないし――と言いたいところだけど、その前にチャンスをあげる。それがさっさと引き金を引かない理由」
「なるほど。もったいぶるくらいなんだから、さぞ素晴らしい話を持ってきたんだろうな。待ちきれないから早く話せよ」
「謝罪して。今までさんざん小毬の住人たちを襲い・殺し・食らってきたことを。そして、二度と小毬地区には足を踏み入れないと固く誓って。そうすれば命は――」
「嫌だね」
きっぱりとした口調で発言を塗りつぶす。決して大声ではなかったが、咆哮したときに負けないくらいの迫力を持ったひと声だった。場に漲っている緊迫感が一段と増した。
「訊かれなかったから勝手に言わせてもらうが、僕が人間だったころの名前は中後保という。お前たち小毬の住人からさんざん白い目で見られ、陰口を叩かれ、迫害された末に首を括って自殺を遂げた、哀れな作家志望の文学青年。そんな僕が虎に生まれ変わったのは、なぜか? お前たちに復讐するために決まっているだろう。僕を自殺に追い込んだ憎き小毬の住人に復讐するために、僕は虎になったんだ。そしてな、西島咲子。数いる住人の中でも、僕を拒んだお前は最も殺したい人間の一人だ」
「はあ? ふざけないで。あたしをレイプしようとしたくせに――」
「黙れ。今は僕がしゃべる番だ」
痛烈な平手打ちを食らわせるようにぴしゃりと遮る。反論する気配が引っ込んだのを確認してから、虎は再びしゃべり出す。
「僕に『これ以上殺すな』と命令するのは、死ねと言っているのも同然だ。二度と小毬に足を踏み入れないと約束すれば殺さない? 精いっぱいの慈悲をかけたつもりなのかもしれないが、死刑宣告でしかないんだよ。
いいか、西島咲子。僕はお前を絶対に赦さない。他の住人たちももちろん赦すつもりはない。お前たちを皆殺しにするまで小毬を襲いつづけ、殺しつづけ、食らいつづける。僕はその方針を崩すつもりはない。断じてない」
「交渉決裂、ということでいいのかしら」
「その前に、駄目元でお前に一つ提案しようか、西島咲子。情けをかけると言い換えてもいい。あの日僕に傷を負わせたことを謝罪するなら、楽な方法で殺してやってもいいぞ」
「生かしてやる、ではないのね。私はあんたを生かす道を提示してやったというのに」
「言っただろう、僕にとってそれは死ねと命令するに等しいと。僕の提案は受け入れられない、ということでいいんだな?」
「当然でしょう」
「なるほど。僕たちは絶対に相容れない。和解できない。どちらかが死ぬしか、僕と小毬の因縁は解消される可能性はない。そういうことか」
「そしてあんたは、自分が死ぬつもりはない」
「当たり前だ」
「自殺したくせに? 心と体がバラバラなのね。さすがは欠陥人間。なるほど、人間じゃなくて畜生に生まれ変わるはずね」
緊迫感がまた一段と高まった。後ずさりをしたいができないような重圧を真一は感じた。
「中後保の生まれ変わりか、とは訊かないのか?」
「どうでもいいわ、そんなこと。そもそも殺すから必要ないし――と言いたいところだけど、その前にチャンスをあげる。それがさっさと引き金を引かない理由」
「なるほど。もったいぶるくらいなんだから、さぞ素晴らしい話を持ってきたんだろうな。待ちきれないから早く話せよ」
「謝罪して。今までさんざん小毬の住人たちを襲い・殺し・食らってきたことを。そして、二度と小毬地区には足を踏み入れないと固く誓って。そうすれば命は――」
「嫌だね」
きっぱりとした口調で発言を塗りつぶす。決して大声ではなかったが、咆哮したときに負けないくらいの迫力を持ったひと声だった。場に漲っている緊迫感が一段と増した。
「訊かれなかったから勝手に言わせてもらうが、僕が人間だったころの名前は中後保という。お前たち小毬の住人からさんざん白い目で見られ、陰口を叩かれ、迫害された末に首を括って自殺を遂げた、哀れな作家志望の文学青年。そんな僕が虎に生まれ変わったのは、なぜか? お前たちに復讐するために決まっているだろう。僕を自殺に追い込んだ憎き小毬の住人に復讐するために、僕は虎になったんだ。そしてな、西島咲子。数いる住人の中でも、僕を拒んだお前は最も殺したい人間の一人だ」
「はあ? ふざけないで。あたしをレイプしようとしたくせに――」
「黙れ。今は僕がしゃべる番だ」
痛烈な平手打ちを食らわせるようにぴしゃりと遮る。反論する気配が引っ込んだのを確認してから、虎は再びしゃべり出す。
「僕に『これ以上殺すな』と命令するのは、死ねと言っているのも同然だ。二度と小毬に足を踏み入れないと約束すれば殺さない? 精いっぱいの慈悲をかけたつもりなのかもしれないが、死刑宣告でしかないんだよ。
いいか、西島咲子。僕はお前を絶対に赦さない。他の住人たちももちろん赦すつもりはない。お前たちを皆殺しにするまで小毬を襲いつづけ、殺しつづけ、食らいつづける。僕はその方針を崩すつもりはない。断じてない」
「交渉決裂、ということでいいのかしら」
「その前に、駄目元でお前に一つ提案しようか、西島咲子。情けをかけると言い換えてもいい。あの日僕に傷を負わせたことを謝罪するなら、楽な方法で殺してやってもいいぞ」
「生かしてやる、ではないのね。私はあんたを生かす道を提示してやったというのに」
「言っただろう、僕にとってそれは死ねと命令するに等しいと。僕の提案は受け入れられない、ということでいいんだな?」
「当然でしょう」
「なるほど。僕たちは絶対に相容れない。和解できない。どちらかが死ぬしか、僕と小毬の因縁は解消される可能性はない。そういうことか」
「そしてあんたは、自分が死ぬつもりはない」
「当たり前だ」
「自殺したくせに? 心と体がバラバラなのね。さすがは欠陥人間。なるほど、人間じゃなくて畜生に生まれ変わるはずね」
緊迫感がまた一段と高まった。後ずさりをしたいができないような重圧を真一は感じた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
MARENOL(公式&考察から出来た空想の小説)
ルーンテトラ
ホラー
どうも皆さんこんにちは!
初投稿になります、ルーンテトラは。
今回は私の好きな曲、メアノールを参考に、小説を書かせていただきました(๑¯ㅁ¯๑)
メアノール、なんだろうと思って本家見ようと思ったそこの貴方!
メアノールは年齢制限が運営から付けられていませんが(今は2019/11/11)
公式さんからはRー18Gと描かれておりましたので見る際は十分御気をつけてください( ˘ω˘ )
それでは、ご自由に閲覧くださいませ。
需要があればその後のリザちゃんの行動小説描きますよ(* 'ᵕ' )
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
滲む足跡──濡れた影が囁く夜
naomikoryo
ホラー
平凡な主婦・由美は、家計を支えるために近所のスーパーでパートを始めた。だが、その日から奇妙な出来事が次々と起こり始める。
──誰もいないはずのロッカー室から聞こえる「助けて」という囁き声。
──レジの列に並ぶ、黒く潰れた目の女。
──そして、夫・健二が突然、姿を消した夜……。
やがて、由美はこの恐怖がスーパーだけではなく、自宅へと広がっていることに気づく。
「あなたも、もうすぐ……」
深夜、家中に響く水の滴る音。
玄関の隅に広がる濡れた足跡。
そして、戻ってきた夫の後ろに立っていたもうひとりの健二。
この恐怖から逃れる術はあるのか?
それとも、由美と美咲はすでに"水の底"へと引き込まれていたのか──?
じわじわと忍び寄る水の気配に、読者の背筋を凍らせる戦慄のホラー小説。
扉を開けたその先に、何が待つのか──あなたも、確かめてみませんか?
第一機動部隊
桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。
祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる