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余命
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「ああ、そうそう。そういえば沖野真一は、三日後に僕が必ず死ぬ術をかけたんだったな。お前にそんな力があるとは思いもよらなかったよ。凄いじゃないか」
惨劇の一部始終をひととおり語り尽くすと、虎は大笑いしながらそう言った。笑い声は太く長く続く。真一はそれがやむのを辛抱強く待ったうえで、
「そんなもの、あるわけないじゃないですか。あるんだったら、最初にあなたに会った時点でこっそり行使してますって」
「はったりだということは分かっているよ。よくもまあ、つまらん嘘をついたものだな。ただ、沖野真一、『虎は三日後に死ぬ』と明言したのはよかったぞ。僕にとっては完全に追い風だ。なぜって、やつらが襲撃の報復に打って出るとしても、とりあえず今日明日のあいだは大人しく待つという対応をとるだろうからね」
ほんとうにそうだろうか? 懐疑の念が頭をもたげたが、虎の言うとおりだ、とすぐに納得した。二十四名もの人間が殺されたショックと恐怖と絶望のあとで、三日以内に虎が必ず死ぬという吉報がもたらされたのだ。いくら虎に対する憎しみがあるといっても、とりあえず期日まで待ってみる。虎の圧倒的な力も考慮に入れれば、絶対にそうすると断言してもいいだろう。
逆にいえば、期日まで待ってみても虎が死ななかったならば、彼らは真一に対して断固たる対応をとるだろう。
余命三日、と心の中でつぶやいてみる。
虎はその後、真一の嘘を信じ込む住人たちの愚かさを馬鹿にしたり、過去の虐殺の模様を饒舌に語ったりした。やがてしゃべり飽きたらしく、「もう用はないから帰れ」と一方的に命じた。
「言っておくが、二度目はないぞ。肉のことだ。まあ、お前自身が肉塊になりたいというのなら、口笛でも吹きながら手ぶらで来ればいいさ」
* * *
人気のない未舗装の道を歩きながら真一は考えた。
明後日の夜になっても虎が死ななければ、住人たちから「力はインチキだ」と認定されるだろう。騙されたことに憤激した住人たちは、真一に制裁を加えるはずだ。二十四人もの人間が死ぬことになった嘘なのだから、過激な制裁になるのは間違いない。おそらくは、命を奪われることになる。
命が惜しいなら、そうなる前に小毬から逃げ出すべきだ。
「……と、言いたいところだけど」
鼻がきくあの猛獣は、真一が小毬から逃げ出そうとすればすぐに察知できると警告した。はったりの可能性もあるが、そうではなかった場合が怖い。罰として殺されるのは確実だからだ。一か八かの最終手段としてならば検討してみてもいいが、現時点では候補から除外しておきたい。
「それ以外に俺が生き残る方法は――」
惨劇の一部始終をひととおり語り尽くすと、虎は大笑いしながらそう言った。笑い声は太く長く続く。真一はそれがやむのを辛抱強く待ったうえで、
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「はったりだということは分かっているよ。よくもまあ、つまらん嘘をついたものだな。ただ、沖野真一、『虎は三日後に死ぬ』と明言したのはよかったぞ。僕にとっては完全に追い風だ。なぜって、やつらが襲撃の報復に打って出るとしても、とりあえず今日明日のあいだは大人しく待つという対応をとるだろうからね」
ほんとうにそうだろうか? 懐疑の念が頭をもたげたが、虎の言うとおりだ、とすぐに納得した。二十四名もの人間が殺されたショックと恐怖と絶望のあとで、三日以内に虎が必ず死ぬという吉報がもたらされたのだ。いくら虎に対する憎しみがあるといっても、とりあえず期日まで待ってみる。虎の圧倒的な力も考慮に入れれば、絶対にそうすると断言してもいいだろう。
逆にいえば、期日まで待ってみても虎が死ななかったならば、彼らは真一に対して断固たる対応をとるだろう。
余命三日、と心の中でつぶやいてみる。
虎はその後、真一の嘘を信じ込む住人たちの愚かさを馬鹿にしたり、過去の虐殺の模様を饒舌に語ったりした。やがてしゃべり飽きたらしく、「もう用はないから帰れ」と一方的に命じた。
「言っておくが、二度目はないぞ。肉のことだ。まあ、お前自身が肉塊になりたいというのなら、口笛でも吹きながら手ぶらで来ればいいさ」
* * *
人気のない未舗装の道を歩きながら真一は考えた。
明後日の夜になっても虎が死ななければ、住人たちから「力はインチキだ」と認定されるだろう。騙されたことに憤激した住人たちは、真一に制裁を加えるはずだ。二十四人もの人間が死ぬことになった嘘なのだから、過激な制裁になるのは間違いない。おそらくは、命を奪われることになる。
命が惜しいなら、そうなる前に小毬から逃げ出すべきだ。
「……と、言いたいところだけど」
鼻がきくあの猛獣は、真一が小毬から逃げ出そうとすればすぐに察知できると警告した。はったりの可能性もあるが、そうではなかった場合が怖い。罰として殺されるのは確実だからだ。一か八かの最終手段としてならば検討してみてもいいが、現時点では候補から除外しておきたい。
「それ以外に俺が生き残る方法は――」
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