少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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 真一が家をあけていた隙に外出していた南那が、ワンピースの裾に竹の葉をつけて帰宅した過去を、不意に思い出した。
 あのとき、南那はまず間違いなく竹林まで行っていた。人食い虎が住まう、「よほど特殊な事情でもあるか、自殺願望を持つ人ではない限り、足を踏み入れるのはおすすめし」ない場所へと。

 では、なんのために?
 虎に会うためとしか考えられない。仕事の竹細工に使う竹の調達はケンさんの仕事のはずだし、そもそも作業部屋には竹ひごのストックがまだ大量にあった。
 遭遇すればまず間違いなく殺されるのに、なぜ? 殺されない確信があるとでもいうのか? 

「危ないならなんで来たの? 俺といっしょだから、どうにかしてくれると高を括っている? 言っておくけど、虎を退治するための力はまだ準備中だよ。今はただの平凡な二十代男性だ」

 努めて明るく、愚かしいまでに能天気にそんな言葉をかけた。
 これに対して南那は、真一に向かって頭を振るというしぐさで応えた。例によって、内心を見透かせない無表情で。

 真一の力をあてにしていない。すなわち、父親の敵をとろうとか、小毬の住人たちのために惨劇を止めようといった、無謀な願いを抱いてこの場所に来たわけではない。

 やはり、殺されない自信があるのだろうか。
 それとも逆に、虎に殺されてもやむなしと覚悟しているのか。

 まさか、自由のない小毬での暮らしに絶望して、虎に食い殺されることを願っている……?
 完全に否定はできないが、解釈が極端すぎるように感じる。「不自由」という言葉に気をとられすぎている。

 人気のない場所を狙って歩くうちにたまたま竹林にたどり着いただけで、中に足を踏み入れるつもりはない。そんな当たり障りのない解釈をしたい気持ちを、「南那は虎と取引をした」という噂の存在が邪魔をする。この場所を選んだことには深い意味があるのでは? どうしてもそう疑ってしまう。

「南那ちゃんは虎のこと、どう思っているのかな」

 そこで、問うてみた。様々なものの影響を受けて、南那の秘密に迫ることに関して臆病になっているが、真一は本来、踏み込むべきときには敢然と踏み込める男だ。

「おっと、ごめん。漠然とした訊きかたになっちゃったね。
 虎は小毬の住人たちを食い殺しているわけだよね。君だっていつ殺されるか分からないし、なにより、君のお父さんは虎に殺された。ただ自分の身に危害が加えられるかに怯えている立場の人よりも、虎に対しては深い思いを持っていると思うんだ。その思いを、俺に聞かせてくれないかな。虎退治を任された人間として、ぜひとも知っておきたいんだ。肉親の死に関係することだから、気乗りはしないかもしれないけど」
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