少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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竹林

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 そろそろ今夜の宿を考えなければならない時間帯に差しかかったころ、道の両側に生える植物に竹が混ざりはじめた。
 竹の黄緑色は、他の草木の幹の焦げ茶や葉の緑とどこか調和しない。全体に占める竹の割合は次第に増え、やがて竹林と呼称するのが相応しい眺めに変わった。

 それから間もなく、二股の分かれ道が行く手に立ち塞がった。鳥瞰した場合、形状はカタカナのトに似ている。
 トの一画目の道幅は広く、二画目に当たる道は未舗装。前者に進んだほうが施設や建物などは多そうだが、

「こっちかな」
 真一は手の甲で喉元の汗を拭い、トの二画目へと進んだ。

 
* * *


 道はやがて竹林の中に入った。
 竹と竹との間隔が狭く、肌を切るような形状の葉を左右に払いのけながらの歩行となる。雑草が踏み固められた道ができているが、あまりにもおぼろげすぎて不安感がつきまとう。上空の広い領域が竹の葉で覆われているせいで、夜の始まりのように薄暗いのも一因だろう。風が葉を揺らす音は、さながら四足歩行の魔物が軽やかに走り抜けたようで、吹き抜けるたびに真一の足を竦ませる。
 不気味な音だ。好き好んで聞きたい者などいないだろう。竹林の中を通るうま味は今のところ、直射日光を浴びずに済むようになったことくらいのもの。

 本当にここが正規ルートなのか?
 疑問が何度も頭を過ぎったが、無視してひたすら黙々と足を動かす。

 ほどなく道の先に光が射した。竹林はもうじき終わるのだ。ただ雰囲気が不気味なだけ、これという実害は被らなかったとはいえ、やはりほっとする。

 出口に近づけば近づくほど植物の密度が高くなる。植物に疎い真一には名前が分からないが、彼の鳩尾ほどの背丈で、棘がある。まるで歩行者を妨害するために誰かが植えたかのようだ。
 うんざりしたが、前進はやめない。棘が肌を掠めるたびに顔をしかめながらも、葉や枝を左右にかき分けて進む。
 ここまで来て引き返すのは面倒くさい。それが第一の理由だ。しかし、それと同じくらい強く、このいばらの道の先にある場所に行かなければいけない気がしていた。

 あと数歩で光が降り注ぐ世界というところで、さながら踏切の遮断器のように、大木の幹から太い枝が水平に飛び出して進路を塞いでいる。下を潜り抜けるのにも、跨ぎ越すのにも中途半端な高さ。蹴飛ばすと、乾いた音を立てて呆気なく折れた。

「やれやれ」
 大きなため息をついて、竹林から出る。
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