秘密

阿波野治

文字の大きさ
上 下
53 / 59

53

しおりを挟む
「絶対にそうだよ。
 だって、クラスには他にも何人もの生徒がいる中で、住友さんはあの四人を選んだんでしょ。『友だちがいない人間だと思われるのが嫌』っていうのが動機で、意識の上では仕方なく、だったのかもしれない。だけど心の奥には、四人と仲よくなりたい気持ちがきっとあるんじゃないかな。
 考えてみてよ。たとえ必要性を感じていたとしても、顔も見るのも嫌な人と友だちごっこをしようとは思わないでしょ? 羽生田さんたちと、ほんとうの意味での友だちになりたい願望、住友さんの中に絶対にあると思う」
「最初はそうだったかもしれない。でも、あの子たちとは一か月くらい付き合って、言ってみればお試し期間が終わって、ほんとうの友だちにはなれそうにないっていう結論がすでに出てる。あの子たちと仲よくなれる見こみなんてないのに、そんな無駄なことは……」
「いや、あるよ。見こみならある。四人はきっと、いや絶対、ありのままの住友さんを受け入れてくれるよ」
「珍しいね、香坂が力強く言い切るの。根拠はあるの?」
「思い出して。住友さんの異変に最初に気がついたの、僕じゃなくて羽生田さんだよ」

 住友さんが息を呑んだのがわかった。

「四人は住友さんが思っているよりも、ずっとずっと住友さんのことが好きで、気にかけていてくれている。だから、嘘いつわりない思いを打ち明けたとしても、最悪の展開にはならないはずだよ。
 もちろん、すごくおどろくだろうし、不愉快に感じるかもしれない。だけど、紆余曲折あったとしても、最終的にはきっと住友さんのことを理解してくれるよ。
 万が一最悪の展開になったとしても、僕がいる。
 住友さんはもう一人じゃないんだよ」

 照れくさかった。だけど、声を震わせることも、住友さんから顔を背けることもなく、セリフを最後まで言えた。
 視線を逸らしたのは、住友さんのほうだった。

 その動作を見て、悩みごとはないかと尋ねたものの、声を荒らげて拒絶された過去が甦った。返事があるまでのあいだは、彼女を自宅で招いてから一番緊張したかもしれない。
 視線をこちらに戻した住友さんは、頬を緩めた。

「そうだね。香坂の言うとおりにするべきだと思う」
「決めたんだね。羽生田さんたちに言うって」
「うん、決めた。早いうちに――今日中かな。うん、今日中に言う。後回しにしてもつらいだけだって、今回の件で学習したから、それを活かさないとね。タイミングとか伝えかたとか、難しそうだけどがんばってみる」
しおりを挟む

処理中です...