秘密

阿波野治

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「あっ、そう。じゃあ、住友みのりとはそのまま絶交ってことでいいんじゃない」
 由佳はさばさばとした口調で辛辣な言葉を吐いた。既視感を覚えて、すぐに気がつく。
 今日の住友さんと同じ口調だ。由佳の存在を明かして、「由佳に相談してもいいか」と尋ねた直後の住友さんの口調。

「遥斗はあたしたちの関係、他の人に打ち明けるのは嫌なんでしょ? 抵抗感を覚えるんでしょ? だったら、別に無理に言わなくてもよくない?」
「そういうわけにもいかないって。このまま関係が途絶えるなんて、嫌だよ」
「ふぅん。住友みのりのこと、遥斗はそこまで大事に思っているんだ」
「当たり前だろ。貴重な友だちなんだから、失いたくないに決まってる」

 誰にも打ち明けなかった悩みを打ち明けてくれた人と、まだ問題が解決してもいないにもかかわらず縁を切るなんて、できるはずがない。だけど、二人だけの秘密にすると約束を交わした以上、まさかそう告げるわけにもいかない。だから、そういう言いかたをした。

「友だち、か。住友みのりは、あたしと遥斗はただの友だちじゃない、みたいな指摘をしてきたんだっけ」
「そうだよ」
「ようするに、嫉妬ね。友だちが少なそうな遥斗くんを独占したと思っていたら、思いがけず親しくしている女の存在を知って、所有欲と独占欲に火がついちゃったわけか。ちっさい女ね、住友みのり」

 僕は首を傾げた。
 住友さんが嫉妬? まだ名前くらいしか知らない由佳相手に?
 その推測が正しいのなら、僕が自惚れているのではないのなら、住友さんは僕を――。

「早い話が二択ね。あたしをとるか、それとも住友みのりをとるか、その二者択一」
「……はあ?」
「あたしを選びたいんだったら、住友みのりの要求なんて放っておいて、住友みのりとは縁を切って、今までどおりあたしと楽しい日常を過ごせばいい。住友みのりを選びたいんだったら、あたしがどういう存在かを包み隠さずに明かしたうえで、あたしを捨てて、住友みのりといちゃつく日々を送ればいい」
「なんだよ、それ。それが解決策って、おかしくない?」
「なにが気に入らないの、遥斗は」
「だって、話がすごく極端なことになってる。どちらかを選んでどちらかを捨てろだなんて。そんなの、おかしいって」
「おかしくないよ。だって、あたしも住友みのりに嫉妬してるんだもん。今まで遥斗を独占していたのに、とられちゃいそうで悔しいから」

 僕は唖然としてしまった。対する由佳は淡々と説明する。

「遥斗は初心だし、色恋沙汰には縁遠いから、なんとなく気恥ずかしくて、恋とか愛とかのことはちゃんと考えたことなかったんじゃない?
 でも、健全な中学生が、親しくしている同年代の異性に恋愛感情を持つのは当たり前。あたしも遥斗のことが異性として気になっているし、遥斗もそれは同じ。違う?
 長年親しく付き合っているだけで恋愛感情を抱くなんてガキくさい、なんて思ったかもしれないけど、男と女ってそういうものだから。むしろ、恋とか愛とかを語ることに慣れていないガキだから、気恥ずかしくてその感情を認めたくないだけ。そうなんじゃないの?」
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