10 / 59
10
しおりを挟む
湯から上がって部屋に戻ると、ただちに由佳に電話をかけた。
「由佳、今時間は大丈夫?」
「平気だよ。用件はなに? 住友みのり?」
「……超能力者かよ」
「声を聞けばわかるよ。遥斗は単純だから」
なにもかもわかってくれる、この感じ。これも由佳に頼ってしまう要因の一つなのだろう。
「その住友さんだけど」
「言ったの? それとも言わなかった?」
「言ったよ。だけどね、住友さんの反応っていうのが――」
僕のことならなんでも知っている由佳に、嘘は通用しない。苦い体験ではあったけど、包み隠さずに話した。
「遥斗、あんたアホなの?」
話を聞きおえての第一声がそれだった。
「反論なしってことは、自覚はあるんだ。でも、具体的にどこがどうアホなのかは、アホだからわからないんでしょ、どうせ。ほんとアホだよね、遥斗は」
「マジでやめて。惨めすぎて泣きそうになるから……」
「わからないからあたしに泣きついてきたんだよね。僕はアホだから自力ではなに一つできないよー、秘密道具出してよー、って」
言葉の選びかたは屈辱的だけど、指摘は的確だ。だから、なにも言い返せない。
「ま、アホはどう足掻いてもアホなままだから、アホアホ言ってもしょうがないよね。あたしの考えを言うと」
「うん」
「住友みのりは、みんなの前で言われたのが嫌だったんだよ。家庭の問題っていう推理は外れだったかもしれないけど、そっちの推理は絶対に正解。
考えてもみて。休み時間に羽生田なんとかさんが声をかけたときと、放課後に遥斗が声をかけたときの共通点は、なに? 周りに他の生徒がいたことでしょ。
そもそも、住友みのりは友だちに心配をかけたくないから、『悩みなんて抱えていない』って言い張ったわけだよね。
そういう性格の人間に、他の人が聞いている前で言葉をかけても、『ご厚意痛み入ります。それでは、ありがたく相談させていただきます』とはならないから。なるはずがないから。言葉をかけた人間が善意でやったことだとしてもね」
由佳の意見は百パーセント正しい、と僕は感じた。己の愚かさを思い知らされたようで、全身が熱くなる。
「汚名を返上する方法、教えてあげようか。住友みのりが一人きりのところを狙って、謝ればいいよ。みんなの前であんなことを言ってごめんね、声をかけるなら一人でいるときにするべきだったねって」
「でも住友さん、ずっと友だちといっしょにいるけど」
「そこは素直に『はい、わかりました』でしょ」
「いや、だって。チャンスがないのに、どうしようもないだろ」
「ゼロなんだったら、作ればいい。遥斗の創意工夫でね」
「創意工夫って、具体的にどうすればいいの?」
「それはあんたが考えるの。そこまで面倒見きれないって。保護者じゃあるまいし」
「それはまあ、そのとおりなんだけど」
「あたしにばかりに頼ってないで、たまには自分一人でがんばってみれば? あっ、でも、結果報告は怠らないでね。またねー」
通話が切れた。
僕は十秒ほど、スマホを耳に宛がったままの姿勢で固まって、ため息とともに右手を垂らした。
「由佳、今時間は大丈夫?」
「平気だよ。用件はなに? 住友みのり?」
「……超能力者かよ」
「声を聞けばわかるよ。遥斗は単純だから」
なにもかもわかってくれる、この感じ。これも由佳に頼ってしまう要因の一つなのだろう。
「その住友さんだけど」
「言ったの? それとも言わなかった?」
「言ったよ。だけどね、住友さんの反応っていうのが――」
僕のことならなんでも知っている由佳に、嘘は通用しない。苦い体験ではあったけど、包み隠さずに話した。
「遥斗、あんたアホなの?」
話を聞きおえての第一声がそれだった。
「反論なしってことは、自覚はあるんだ。でも、具体的にどこがどうアホなのかは、アホだからわからないんでしょ、どうせ。ほんとアホだよね、遥斗は」
「マジでやめて。惨めすぎて泣きそうになるから……」
「わからないからあたしに泣きついてきたんだよね。僕はアホだから自力ではなに一つできないよー、秘密道具出してよー、って」
言葉の選びかたは屈辱的だけど、指摘は的確だ。だから、なにも言い返せない。
「ま、アホはどう足掻いてもアホなままだから、アホアホ言ってもしょうがないよね。あたしの考えを言うと」
「うん」
「住友みのりは、みんなの前で言われたのが嫌だったんだよ。家庭の問題っていう推理は外れだったかもしれないけど、そっちの推理は絶対に正解。
考えてもみて。休み時間に羽生田なんとかさんが声をかけたときと、放課後に遥斗が声をかけたときの共通点は、なに? 周りに他の生徒がいたことでしょ。
そもそも、住友みのりは友だちに心配をかけたくないから、『悩みなんて抱えていない』って言い張ったわけだよね。
そういう性格の人間に、他の人が聞いている前で言葉をかけても、『ご厚意痛み入ります。それでは、ありがたく相談させていただきます』とはならないから。なるはずがないから。言葉をかけた人間が善意でやったことだとしてもね」
由佳の意見は百パーセント正しい、と僕は感じた。己の愚かさを思い知らされたようで、全身が熱くなる。
「汚名を返上する方法、教えてあげようか。住友みのりが一人きりのところを狙って、謝ればいいよ。みんなの前であんなことを言ってごめんね、声をかけるなら一人でいるときにするべきだったねって」
「でも住友さん、ずっと友だちといっしょにいるけど」
「そこは素直に『はい、わかりました』でしょ」
「いや、だって。チャンスがないのに、どうしようもないだろ」
「ゼロなんだったら、作ればいい。遥斗の創意工夫でね」
「創意工夫って、具体的にどうすればいいの?」
「それはあんたが考えるの。そこまで面倒見きれないって。保護者じゃあるまいし」
「それはまあ、そのとおりなんだけど」
「あたしにばかりに頼ってないで、たまには自分一人でがんばってみれば? あっ、でも、結果報告は怠らないでね。またねー」
通話が切れた。
僕は十秒ほど、スマホを耳に宛がったままの姿勢で固まって、ため息とともに右手を垂らした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
原田くんの赤信号
華子
児童書・童話
瑠夏のクラスメイトで、お調子者の原田くん。彼は少し、変わっている。
一ヶ月も先のバレンタインデーは「俺と遊ぼう」と瑠夏を誘うのに、瑠夏のことはべつに好きではないと言う。
瑠夏が好きな人にチョコを渡すのはダメだけれど、同じクラスの男子ならばいいと言う。
テストで赤点を取ったかと思えば、百点満点を取ってみたり。
天気予報士にも予測できない天気を見事に的中させてみたり。
やっぱり原田くんは、変わっている。
そして今日もどこか変な原田くん。
瑠夏はそんな彼に、振りまわされてばかり。
でも原田くんは、最初から変わっていたわけではなかった。そう、ある日突然変わり出したんだ。
釣りガールレッドブルマ(一般作)
ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐︎登録して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
超イケメン男子たちと、ナイショで同居することになりました!?
またり鈴春
児童書・童話
好きな事を極めるナツ校、
ひたすら勉強するフユ校。
これら2校には共同寮が存在する。
そこで学校も学年も性格も、全てがバラバラなイケメン男子たちと同じ部屋で過ごすことになったひなる。とある目的を果たすため、同居スタート!なんだけど…ナイショの同居は想像以上にドキドキで、胸キュンいっぱいの極甘生活だった!
桜ヶ丘中学校恋愛研究部
夏目知佳
児童書・童話
御手洗夏帆、14才。
桜ヶ丘中学校に転入ほやほや5日目。
早く友達を作ろうと意気込む私の前に、その先輩達は現れたー……。
★
恋に悩める子羊たちを救う部活って何?
しかも私が3人目の部員!?
私の中学生活、どうなっちゃうの……。
新しい青春群像劇、ここに開幕!!
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる