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帝国の頭上はるかに何かができて三ヶ月。
帝国の人々はそれの存在にもう慣れていた。
そんなある昼過ぎ、人々の脳内にピンポンパンポーンと音が響いて続いて穏やかな男の声が響いた。
「私の名はケイスケ・ミズハラ。創世神です。みなさんの頭上に何かあるなぁと思われていると思いますがそれは我が国、アルリヒト王国です。帝国が私の力を利用して私腹を肥やそうとしたためこのような形で抵抗させていただきました。我が国を独立国として帝国との関係を模索していきたいと思っております。ならびに移住者を募集しております。詳しくはアーリナル広場、サイリーン広場、ラシュナー広場でチラシを配っておりますので興味のある方は是非そちらをご覧ください。帝国宰相殿におきましては一度話し合いの場を設けたいと思いますので使者に希望の日時をお伝えください。以上、ミズハラでした」
ピンポンパンポーンと音がして脳内の声は消えた。
慄いたのは王をはじめとする上層部だ。とうとう創世神が動き出した。
ここ最近近衛兵団で、特に第一兵団で不審な退団が相次いでいたがこれだったのだ。
始まりは四人の退団だった。四人はそれぞれ理由もしっかりとしていたから上司も許可していた。同時期というのだけが気になるとの報告を受けていた。
しかし初めのうちは気にしていなかった。代わりなどいくらでもいる。そう思って捨て置けと関知しなかった。
それがひとり、またひとりと例に無い勢いで退団していき、本格的におかしいと思った矢先のこれである。
辞めた者たちはきっとあの天空の街に行ったのだ。
「配られていると言うチラシを手に入れて来い。話はそれからだ」
宰相は部下にそう命じ、部下が部屋を出ていくと深いため息をついてカウチに深く身を沈めた。
「傀儡に出来なかった時点で我らの敗北は決まっておる。従うしかあるまいて」
王の元へ行かねば、と思いながらもその腰は重かった。
「お久しぶりです」
帝国にやってきた敬介はアルべニーニョを従えて特に華美な装いをするでもなく現れた。
そこらの街人に紛れてしまったら分からなくなりそうな地味さだ。
出された紅茶も特に警戒せず口にしている。不老不死の身のために毒を仕込まれようが気にしないということか。
「こちらが求めるのは住人の移住の自由を公式に認めていただきたい。あとはこちらの作物などの販売を認めてもらいたい」
「作物?」
「主にスパイスと茶葉です。他にも野菜果物や肉なども卸したいと思います」
「スパイスと茶葉、だと?」
王が身を乗り出した。どちらも高級品だ。王である自分ですら自由に出来ない希少品である。
この場に出されている紅茶とてこの王城であってもそうそう自由に飲めるものではない。
「だいたいこれくらいの値段での販売を考えております」
アルべニーニョが一枚の羊皮紙を広げる。
そこにはスパイスと茶葉の一覧とキロ単位での価格が書いてあった。
それらは今までの相場を破壊するほど安かった。
「こ、こんな値段で良いのか」
宰相の言葉に敬介はうなずく。
「市場にはもう少し上乗せして出しますが王城へはこの価格で卸させていただきたく思います。これでも私はあなたがたに感謝しているのです。アルべニーニョと出会わせてくれた。これはそのお礼です」
私はあなたがたと敵対したいわけでは無いのです、と敬介は微笑む。
「利用されるのは嫌です。けれど恩は返したいと思ってます」
お互いに謙虚でありたいですね、と敬介は笑った。
「話は纏まりました」
帰城してクシャメラックにスパイスと茶葉の発注書を渡すと本当にこの価格で良かったんです?と聞かれた。
「ええ、いくらでも収穫できるし帝国には恩を売っておきたいので」
「スパイスのある生活を知ってしまったらもう元には戻れないでしょうね」
「それが狙いだからね。私たちに依存させないと。逆らう気など起きないくらいに」
「わるいひとですね」
アルべニーニョの甘い声に敬介はふふっと笑う。
「伴侶に似たんだよ」
「おや、あなたの伴侶は性悪なんですね?」
「ううん、私にはとっても優しくて素敵な旦那さまだよ」
いちゃつきだした国王と宰相にクシャメラックはシッシッと手を振る。
「部屋でやってください」
「あ、ごめん。とにかく今週末までにそれだけ用意して運ばせたいから手配よろしくお願いします」
「かしこまりました。今日はおふたりでごゆっくりなさってください」
「ありがとう、クシャナ」
愛称で呼んでくれた国王にクシャメラックは微笑んでごゆっくり、と頭を下げた。
「あ!ケイスケ様!どうでした?」
ガウマノリッテが通路の向こうからやってきて駆け寄ってきた。
「上手くいったよ。特に無理難題を言われたりもしなかった。たぶん下手を言って交易を断たれても困ると思ったんだろうね」
「帝国の上層部ってバカですけど素直ですもんね!」
にこっと悪気のない笑顔で言うガウマノリッテに敬介は苦笑する。
「そうだね、私でも簡単に交渉できたから根は素直なんだろうね」
「王は賢王ではないですけど愚王でもなかったので上手くいくと思ってました!」
にこにことして言うガウマノリッテの頭を敬介はよしよしと子供にするように撫でる。
敬介からしたらガウマノリッテはまだまだ子供だ。そこに来て彼の童顔である。ついつい子供のように撫でてしまう。
しかしガウマノリッテもガウマノリッテでそれを快く思っているらしくて嬉しそうに笑っている。
「マノリ、私たちは少し休むからあとは任せて良いかな」
「はい!任せてください!」
ガウマノリッテは誇らしげに胸を張るととんと己の胸を叩いた。
ガウマノリッテと別れて自室へと向かっていると庭園でなにやら立ち話をしているサルベルーニャとウスラキノフを見つけた。
「サルー!ラキッフ!」
声をかけるとふたりはぱっとこちらを見てサルベルーニャは満面の笑みを浮かべた。
「お!おかえんなさい!上手くいきました?」
サルベルーニャが明るく声をかけてくる。ウスラキノフは軽く会釈した。
首尾を説明して先の二人のように後を任せて敬介とアルべニーニョは部屋に戻った。
「頼りになるひとが来てくれてよかった」
彼らはアルベニーニョの血を飲んだ。そうして彼らも不老となったのだ。
笑う敬介にアルべニーニョはそうですね、と微笑んで抱き寄せた。
帝国の人々はそれの存在にもう慣れていた。
そんなある昼過ぎ、人々の脳内にピンポンパンポーンと音が響いて続いて穏やかな男の声が響いた。
「私の名はケイスケ・ミズハラ。創世神です。みなさんの頭上に何かあるなぁと思われていると思いますがそれは我が国、アルリヒト王国です。帝国が私の力を利用して私腹を肥やそうとしたためこのような形で抵抗させていただきました。我が国を独立国として帝国との関係を模索していきたいと思っております。ならびに移住者を募集しております。詳しくはアーリナル広場、サイリーン広場、ラシュナー広場でチラシを配っておりますので興味のある方は是非そちらをご覧ください。帝国宰相殿におきましては一度話し合いの場を設けたいと思いますので使者に希望の日時をお伝えください。以上、ミズハラでした」
ピンポンパンポーンと音がして脳内の声は消えた。
慄いたのは王をはじめとする上層部だ。とうとう創世神が動き出した。
ここ最近近衛兵団で、特に第一兵団で不審な退団が相次いでいたがこれだったのだ。
始まりは四人の退団だった。四人はそれぞれ理由もしっかりとしていたから上司も許可していた。同時期というのだけが気になるとの報告を受けていた。
しかし初めのうちは気にしていなかった。代わりなどいくらでもいる。そう思って捨て置けと関知しなかった。
それがひとり、またひとりと例に無い勢いで退団していき、本格的におかしいと思った矢先のこれである。
辞めた者たちはきっとあの天空の街に行ったのだ。
「配られていると言うチラシを手に入れて来い。話はそれからだ」
宰相は部下にそう命じ、部下が部屋を出ていくと深いため息をついてカウチに深く身を沈めた。
「傀儡に出来なかった時点で我らの敗北は決まっておる。従うしかあるまいて」
王の元へ行かねば、と思いながらもその腰は重かった。
「お久しぶりです」
帝国にやってきた敬介はアルべニーニョを従えて特に華美な装いをするでもなく現れた。
そこらの街人に紛れてしまったら分からなくなりそうな地味さだ。
出された紅茶も特に警戒せず口にしている。不老不死の身のために毒を仕込まれようが気にしないということか。
「こちらが求めるのは住人の移住の自由を公式に認めていただきたい。あとはこちらの作物などの販売を認めてもらいたい」
「作物?」
「主にスパイスと茶葉です。他にも野菜果物や肉なども卸したいと思います」
「スパイスと茶葉、だと?」
王が身を乗り出した。どちらも高級品だ。王である自分ですら自由に出来ない希少品である。
この場に出されている紅茶とてこの王城であってもそうそう自由に飲めるものではない。
「だいたいこれくらいの値段での販売を考えております」
アルべニーニョが一枚の羊皮紙を広げる。
そこにはスパイスと茶葉の一覧とキロ単位での価格が書いてあった。
それらは今までの相場を破壊するほど安かった。
「こ、こんな値段で良いのか」
宰相の言葉に敬介はうなずく。
「市場にはもう少し上乗せして出しますが王城へはこの価格で卸させていただきたく思います。これでも私はあなたがたに感謝しているのです。アルべニーニョと出会わせてくれた。これはそのお礼です」
私はあなたがたと敵対したいわけでは無いのです、と敬介は微笑む。
「利用されるのは嫌です。けれど恩は返したいと思ってます」
お互いに謙虚でありたいですね、と敬介は笑った。
「話は纏まりました」
帰城してクシャメラックにスパイスと茶葉の発注書を渡すと本当にこの価格で良かったんです?と聞かれた。
「ええ、いくらでも収穫できるし帝国には恩を売っておきたいので」
「スパイスのある生活を知ってしまったらもう元には戻れないでしょうね」
「それが狙いだからね。私たちに依存させないと。逆らう気など起きないくらいに」
「わるいひとですね」
アルべニーニョの甘い声に敬介はふふっと笑う。
「伴侶に似たんだよ」
「おや、あなたの伴侶は性悪なんですね?」
「ううん、私にはとっても優しくて素敵な旦那さまだよ」
いちゃつきだした国王と宰相にクシャメラックはシッシッと手を振る。
「部屋でやってください」
「あ、ごめん。とにかく今週末までにそれだけ用意して運ばせたいから手配よろしくお願いします」
「かしこまりました。今日はおふたりでごゆっくりなさってください」
「ありがとう、クシャナ」
愛称で呼んでくれた国王にクシャメラックは微笑んでごゆっくり、と頭を下げた。
「あ!ケイスケ様!どうでした?」
ガウマノリッテが通路の向こうからやってきて駆け寄ってきた。
「上手くいったよ。特に無理難題を言われたりもしなかった。たぶん下手を言って交易を断たれても困ると思ったんだろうね」
「帝国の上層部ってバカですけど素直ですもんね!」
にこっと悪気のない笑顔で言うガウマノリッテに敬介は苦笑する。
「そうだね、私でも簡単に交渉できたから根は素直なんだろうね」
「王は賢王ではないですけど愚王でもなかったので上手くいくと思ってました!」
にこにことして言うガウマノリッテの頭を敬介はよしよしと子供にするように撫でる。
敬介からしたらガウマノリッテはまだまだ子供だ。そこに来て彼の童顔である。ついつい子供のように撫でてしまう。
しかしガウマノリッテもガウマノリッテでそれを快く思っているらしくて嬉しそうに笑っている。
「マノリ、私たちは少し休むからあとは任せて良いかな」
「はい!任せてください!」
ガウマノリッテは誇らしげに胸を張るととんと己の胸を叩いた。
ガウマノリッテと別れて自室へと向かっていると庭園でなにやら立ち話をしているサルベルーニャとウスラキノフを見つけた。
「サルー!ラキッフ!」
声をかけるとふたりはぱっとこちらを見てサルベルーニャは満面の笑みを浮かべた。
「お!おかえんなさい!上手くいきました?」
サルベルーニャが明るく声をかけてくる。ウスラキノフは軽く会釈した。
首尾を説明して先の二人のように後を任せて敬介とアルべニーニョは部屋に戻った。
「頼りになるひとが来てくれてよかった」
彼らはアルベニーニョの血を飲んだ。そうして彼らも不老となったのだ。
笑う敬介にアルべニーニョはそうですね、と微笑んで抱き寄せた。
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