上 下
9 / 20

09

しおりを挟む
 その時、というのは思っていたより早くやってきた。

「ケイスケ、あなたを抱きたいと言ったら私を拒みますか……?」

 来た、と思った。敬介は何度も頭の中で繰り返した言葉を思い出す。

「あの、その、その前にひとつ聞きたいんだけど……」
「はい」
「凄く失礼なことを聞くんですけど、猫ってその、性器に棘がありますよね……」
「……」

 アルべニーニョはぱちぱちと瞬きをした後ふはっと吹き出した。

「ああ、そういう……アハハ!」

 声を上げて笑い出したアルべニーニョに敬介は恥ずかしくなってすみませんと謝りながら両手で顔を覆った。

「獣人の知識がないので失礼かとは思ったんですけど……!」
「笑ってすみません、ふふ、顔をあげてください」

 手を取られて顔を上げさせられる。きっといま自分は耳まで赤くなっていることだろう。

「大丈夫、私の性器は人間と同じですよ」
「わ、わかり、ました……」
「他に心配なことは?」
「あっ、あと私男同士のやり方とかよく知らないんですけど中とかきれいにしないとですよね?」
「それは魔法で解決できます」
「魔法で?」

 きょとんとアルべニーニョを見上げるとええ、と彼は微笑んだ。

「生活魔法というものがありまして。その中に直腸内をきれいにする魔法があるんです」
「そんな便利なものが?」
「魔法使いの男性同士のカップルに重宝されている魔法です」
「どうやればいいんですか?」
「他の魔法と同じです。きれいになるようイメージをして指を鳴らす。それだけです」
「だ、大丈夫でしょうか……」

「失敗したという報告は聞いたことがないので大丈夫だと思いますよ。怖ければ洗浄方法をお教えしますが」
「洗浄……」
「ええ、まず浣腸で中をあらかたきれいにしてそしてシャワーのヘッドを外してもらって先端を中に入れて洗う方法です」
「……魔法でやります」

 なんとも言えない顔でそう言う敬介にアルベニーニョはふふっと笑ってそうですか、と言った。

「では今夜、もう一度ここへ来ます。それまでに風呂を済ませておいて下さい。お腹の魔法は一緒にやりましょう。サポートします」
「は、はい……」

 敬介はおどおどとうなずいた。


 夕食後、敬介は風呂に入って念入りに体を洗った。
 とうとうこの日が来てしまった。こちらの世界に来て約半月。あっという間と言えばそうだ。けれど敬介もアルベニーニョもいい歳をした大人なのだ。これくらい普通なのだろう。
 世の中には出会ってその日に体の関係を持つ人たちだって溢れているのだ。半月待ってくれただけありがたい。
 少しずつ触れ合いを進めてくれたアルベニーニョに感謝こそすれ手が早いだなんてことは思わない。

 敬介はこういうことは初めてだったからアルベニーニョをすべてをかけて愛しているのかはっきりとは答えられない。それでも、体を預けてもいいと思うくらいには愛があった。
 この身が愛を知っているのだと思うと不思議な気持ちだった。
 アルベニーニョとこれからも一緒に生きていきたい。そう思う。
 これはそのための一歩なのだ。通過点なのだ。

 夜着を纏ってカウチに座りながら本を読む。と言っても先程から同じところをずっと視線が滑っている。中身なんて入ってこない。
 すると時間ちょうどにメイドが来客を告げた。アルベニーニョが来たのだ。
 カウチから立ち上がってアルベニーニョを出迎えると、彼はいつもの軍服ではなくラフな姿だった。
 元の世界で言うなら中華風というべきだろうか。白地の服に赤のチャイナボタンの付いた服を彼は纏っていた。手には小さなポーチを持っている。

「お待たせしました」
「い、いえ、時間通りです」

 アルベニーニョは敬介に歩み寄るとその手を取って寝室にいきましょう、と誘った。
 高鳴る鼓動を抑えながらエスコートされて寝室に入る。
 並んでベッドサイドに座るとアルベニーニョがポーチを置いてベッドヘッドにあるスイッチを操作して照明を間接照明に切り替えた。
 淡い光が部屋を包み込む。一気にムーディーな雰囲気になって心拍数が一気に跳ね上がった。
 アルベニーニョが敬介を抱き寄せる。そして胸元にそっと触れてすごくどきどきしてる、と笑った。

「は、初めてなので……」
「ええ、優しくします」

 まずはお腹の中をきれいにしましょう、と言われて下腹部に左手を当てるとアルベニーニョがその上から手を重ねてきた。

「お腹の中がきれいになるイメージをして。はい、ぱちん」

 ぱちん、と指を鳴らすとお腹の中がふわっと温かくなった。

「お腹の中、温かくなりました?」
「はい」
「じゃあ成功です」
「よかった……」
「必要なものは持ってきました。あなたに痛い思いはさせたくないので」

 ポーチの中身はローションと避妊具だった。そういう物をまざまざと見せられるとああこれからするんだなあという気分になる。
 右手を掬い取られてその指先や甲に口付けが落とされる。くすぐったくて気持ちがいい。

「ゆっくりとしましょう。夜は長い」

 しゅるりと夜着の帯を解かれてアルべニーニョの手が腹から胸元へと這う。

「貧相な体で申し訳ない……」

 敬介がそう言うととんでもない、とアルべニーニョは笑った。

「誰よりも私を興奮させるからだですよ」

 そうしてキスからそれは始まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

本日のディナーは勇者さんです。

木樫
BL
〈12/8 完結〉 純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。  【あらすじ】  異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。  死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。 「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」 「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」 「か、噛むのか!?」 ※ただいまレイアウト修正中!  途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...