上 下
14 / 43

14

しおりを挟む
 私のアデミル様に抱かれたいだとかそんな思いをあざ笑うように急遽王都に行くことになり、ミミアを始めとするメイドたちは慌てて旅準備をしてくれた。
 こうなると私の思惑なんて後回しだ。荷物にコルセットとドレス一式が含まれているのを見てげんなりとした。
 王城からの呼び出しなんて絶対悪いことに決まっている。
 私は旅路を楽しむこともできずアデミル様も思うところがあるらしくじっと考え込んでいた。
 そして十日をかけて王都へたどり着き、一旦宿屋に入る。ここはお忍びの貴族が使うような高級宿屋だ。
 そこでひとっ風呂浴びてからドレスアップする。久々のコルセットに私の胃は飛び出そうだ。
 髪も丁寧に巻かれて真珠の髪飾りを飾られる。くそう、ここまでしてやっているんだから下らない用だったら王を呪ってやる。見てろよこれでも闇魔法マスターなんだからな私。
「シオリ」
 部屋にやってきたのは白銀の鎧に身を包んだアデミル様だった。歩きに合わせて純白のマントが翻って格好いい。
「アデミル様、格好いいです。惚れ直しました」
 私が素直に感想を言うと彼は少しだけ照れたけれどシオリ、ともう一度私の名を呼んだ。
「はい」
「今回呼ばれたのは多分、きみが聖女だとバレたためだと思う」
「え、あの巫女の人ポンコツなんじゃないんですか」
 ポンコツ、と私の言いように彼は少しだけ笑った。
「道中早馬をやって調べさせたのだがどうやら巫女が代替わりしたようでな。新しい巫女がきみを正しい聖女だと宣託を下ったたそうなんだ」
 宣託。ということは神様がばらしたんだな。あの野郎、こっちの味方かと思ったらなんだかんだで巫女にも良い顔してやがった。神は平等。そういうことか。
 けれど嵐が来ると教えてくれただけ儲けものだ。まあそれもたまたま私が供え物をしたからだが。
「アデミル様」
「なんだ」
「もしそうだったとして、アデミル様はどうなさいますか」
 もちろん、とアデミル様は私の目をしっかと見て言った。
「みすみすきみを渡すつもりはない」
「王命に背いてでもですか」
「それは……」
 言い淀んだアデミル様に大丈夫です、と私は笑った。
「神様が先日、教会で言いました。私は誰よりも強いって。そして世界の全てを壊してでもアデミル様を選ぶくらいの強欲であれ、と」
 欲張っていいですか、と問いかけると彼はハーとため息を吐いて視線を伏せるともう一度私を見た。
「無茶はしてもいいが無理はしないこと」
 私はにっこりと笑ってはい!と頷いた。


 王城に上がると、謁見の間に通された。
「アデンミリヤム・イル・ヴィルフォア辺境伯、御前に上がりました」
「同じくシオリ・オサナイ・ヴィルフォア、御前を失礼します」
 膝をつくと王はうむ、と鷹揚に頷いて控えていた巫女さんに視線を向けた。
「シオリ・オサナイ・ヴィルフォア。そなたが真なる聖女だとの宣託が下ったがそれは誠か」
 巫女さんの偉そうな声にアデミル様が視線をそちらに向ける。
「誠にございます」
「なぜそれを報告しなかった」
「シオリは既にわたくしに下賜されたもの。今更聖女だからと返す必要性を感じませんでしたので」
「聖女は王室のためのものである。返還を願う」
「お返しすることはできません。わたくしと妻は愛し合っております。やすやすと手放すことはできませんな」
「妻なら他の女を与えよう。聖女は代わりが聞かぬ」
 そんなやりとりを聞きながら、私はイライラとしていた。
 苦しいのだ、コルセットが。早くこの場を後にして脱いでしまいたい。
 なのにいつまでたっても話が終わらない。聖女を返せ、返せません、そのやりとりを言葉の表現を変えてひたすら延々とやり取りをしている。
 イライライラ。私は自分が思っているより気が短い。こちらの世界に来てそれを思い知らされている。
 でもイライラしているのは私だけではなかったようだ。
「もうよい!」
 王がとうとう苛立った声を上げて伝家の宝刀を抜いた。
「聖女を返還せよ。これは王命である」
 それを聞いた途端、私の中でも何かがぶちっと切れた。
 私はすっくと立ち上がるともういいです、と王に向かって宣言した。
「私はアデミル様の妻です。そちらの良いように使われるつもりはありません」
「きさま、王命に逆らうのか」
「そもそもなぜ異世界人の私があなたの命令に従わなければならないんですか?今ままでの聖女がどうだったかは知りませんが私はあなたに従いません」
「辺境伯の立場がどうなっても良いのか」
「では聞きますが、いまここにいる貴族の方々」
 ぱちん、と私が指を鳴らすと左右に控えていた貴族たちがばたばたと倒れた。
 王と巫女と私とアデミル様。息をしているのはその四人と衛兵たちだけになった。
「な、なにをした!」
「殺しました。今ならまだ生き返らせれます。私の言う事、理解できますか?」
「王を脅すのか!」
「あなただって私を脅したじゃないですか。だからやり返しただけです。私にはその力がある。神が与えてくれた力です。それはあなたより強いしそこの巫女より強い。アデミル様を守るために神が与えてくれた力です。私という異端児が現れた時点であなた方は神に見放されているんですよ。いい加減気づいてくれませんか」
「か、神よ!」
 巫女が慌てて空を見上げる。するとふっとあの声が降ってきた。
「私はね、面白い子が好きなんだ。お前たちはいい加減面白くない。一度滅びた方がいい」
「そんな、神よ、神よ!」
 巫女が悲鳴じみた声を上げる。声は王にも届いていたのか絶望的な顔をしている。あ、ちゃんと贔屓してくれてたんだ神様。
「シオリ、生き返らせるには光魔法を使う必要がある。それはお前の魂を削る行為だ。その金喰らいの役立たずたちはそのまま死なせてやりなさい。この中で有用な人間は私が生き返らせよう。ふむ、十三人だな。一人につきケーキひとつだぞ」
「はーい!屋敷に戻ったら毎日お届けします!」
 神の言葉ににこっと笑って片手を上げると巫女がへなへなとその場にへたり込んだ。
「こんな、こんなこと……神は私たちの味方ではなかったのか」
 その問いへの応えはもうない。みなまで言わすなということだろう。
「今後、私たちへの不用意な干渉はやめてください。それを約束してくださるならあなたがたは殺しません」
「わ、わかった、約束する!約束するから命だけは……!」
 完全に立ち位置が逆転したことを確認して私は約束ですよ、とにっこりと笑った。
「私はあなたを指先一つで殺せます。それを忘れないでくださいね。聖女に逆らうということがどういうことか、理解してください」
 こくこくと頷く国王にフーとため息を吐いてアデミル様が立ち上がった。
「無茶は許したが……」
「無理はしてませんよ」
「まあいい。帰ろう。私たちの屋敷へ」
「はい!」
 大量の死体の間を私たちは花道のように歩いて帰路についたのだった。



(続く)
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

呪われ令嬢、王妃になる

八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」 「はい、承知しました」 「いいのか……?」 「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」 シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。 家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。 「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」 「──っ!?」 若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。 だがそんな国王にも何やら思惑があるようで── 自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか? 一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。 ★この作品の特徴★ 展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。 ※小説家になろう先行公開中 ※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開) ※アルファポリスにてホットランキングに載りました ※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)

運命の恋人は銀の騎士〜甘やかな独占愛の千一夜〜

藤谷藍
恋愛
今年こそは、王城での舞踏会に参加できますように……。素敵な出会いに憧れる侯爵令嬢リリアは、適齢期をとっくに超えた二十歳だというのに社交界デビューができていない。侍女と二人暮らし、ポーション作りで生計を立てつつ、舞踏会へ出る費用を工面していたある日。リリアは騎士団を指揮する青銀の髪の青年、ジェイドに森で出会った。気になる彼からその場は逃げ出したものの。王都での事件に巻き込まれ、それがきっかけで異国へと転移してしまいーー。その上、偶然にも転移をしたのはリリアだけではなくて……⁉︎ 思いがけず、人生の方向展開をすることに決めたリリアの、恋と冒険のドキドキファンタジーです。

世界を救いし聖女は、聖女を止め、普通の村娘になり、普通の生活をし、普通の恋愛をし、普通に生きていく事を望みます!

光子
恋愛
 私の名前は、リーシャ=ルド=マルリレーナ。  前職 聖女。  国を救った聖女として、王子様と結婚し、優雅なお城で暮らすはずでしたーーーが、 聖女としての役割を果たし終えた今、私は、私自身で生活を送る、普通の生活がしたいと、心より思いました!  だから私はーーー聖女から村娘に転職して、自分の事は自分で出来て、常に傍に付きっ切りでお世話をする人達のいない生活をして、普通に恋愛をして、好きな人と結婚するのを夢見る、普通の女の子に、今日からなります!!!  聖女として身の回りの事を一切せず生きてきた生活能力皆無のリーシャが、器用で優しい生活能力抜群の少年イマルに一途に恋しつつ、優しい村人達に囲まれ、成長していく物語ーー。  

処理中です...