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いい加減、私もアデミル様とセックスがしたい。
でも街を行き交う人々を見ているとこの国の女性は多くがグラマラスだ。
胸はばいんと出てお尻も安産型というか、大きい。
私のような小柄で貧相な体、アデミル様はがっかりするんじゃないだろうか。
アデミル様がそんなことを気にする方ではないことは分かっている。だからこれは私自身の心の問題なのだ。
私は自分の体に自信が持てない。コンプレックスを持っている。
それを克服しない限り彼の前に裸体を晒すことなんてできない。
そんなある日のこと。
午後のティータイムをアデミル様ととっていたら彼は私を抱き寄せてこんなことを言った。
「シオリは小さくて細くて、でもそこがかわいい」
「私、かわいいですか?こんな貧弱な体でもかわいいですか?」
アデミル様は笑って言った。
「シオリは貧弱なんかじゃない。細いけれど芯はしっかりとしているじゃないか」
「でもこの国の人たちみたいに胸も大きくないし肉付きだって良くないです」
「まあ確かにそうかもしれないがそれが何か問題でもあるのか?」
そう首を傾げられて私はいえ、としか答えられなかった。
私がずっと抱いていたコンプレックスはアデミル様からすればなんの問題もないことだったのだ。
言われてみればアデミル様はいつも私のことを小さいなとは言うけれどその後に必ずだからかわいいと言ってくれていた。
私は「アデミル様は気にしないだろう」と言いながらも結局自分のコンプレックスのことばかりでアデミル様の言葉を聞き流していたのだ。
このひとはこんなにも私を可愛がって愛してくれているのに私はいつまでもつまらないことにばかり囚われて。
世界がひらけた気がした。目の前の霞んでいた膜のようなものが取り払われるのを感じた。
今ならこのひとに抱かれてもいい。
そう思ったのに。
私はその日から生理になってしまった。
生理の間は自室で別々に寝ている。万が一経血でアデミル様のベッドを汚したら嫌だったからだ。臭いだって気になる。あの人は嗅覚も鋭いから近くにいたら必ず血の匂いに気づいてしまう。
だから寝る時は必ず自室で寝ていた。
もどかしかった。せっかく彼に抱かれたいと思ったのにこの有様だ。
一週間がとても長く感じた。
生理が終わりに近づいていたある日、私はミミアと二人で教会にいた。
アローナ先生やアデミル様に聞き辛いことを神様に聞いてみようと思ったのだ。
賄賂として手作りのシフォンケーキを供えて祈りを捧げる。するとシフォンケーキが光って消えて耳元で声が聞こえた。
「今日はなんだい、聖女よ」
私とアデミル様の間に子供はできますか?
「することすればできるよ」
その場合、生まれてくる子は人間ですか?獣人ですか?それとも半獣人ですか?
「人間七割獣人三割だな。半獣人はこの世界にはいない」
そうなんですね。ありがとうございます。
「それだけか?」
そうですけど?
「ふむ、この菓子に見合うだけの宣託を下してやろう」
ありがとうございます?
「嵐がくる。しかしお前の力は強い。誰よりも強い。その力で伴侶を導き守ってやりなさい」
嵐?
「お前はそもそも何故聖女召喚が十年に一度毎度毎度行われているか考えたことはあるか?」
そういえば、私の前の代の聖女とか話を聞かないですね。
「聖女の光の力は使えば使うだけ魂を消費する。水をワインに変える程度なら影響はないが大量の作物を実らせたり大いに使えば魂が欠けてゆく。故に酷使された聖女は十年と持たず死んでゆくのだ」
なにそれ、最悪じゃないですか。
「今までの聖女はそれに気づかずただ王に従いその命を散らせていった。さてお前はどうなるかな」
王様になんて従いません。私が従うのは私自身とアデミル様だけです。
「良き良き。それで良い。もっとわがままになれ。お前はちと無欲すぎる。世界の全てを壊してでもあの伴侶を選ぶくらいの強欲であれ」
いやそこまでは……。
「いずれその時が来る。選ばねばならぬ時が。嵐はそこまでやってきているのだからな」
……アデミル様は私が守ります。何を賭しても。
「それでよい。今日はまっすぐに帰ると良い。伴侶が待ち侘びているぞ」
はい、ありがとうございました。
私は教会を出ると馬車に乗って屋敷に戻った。
屋敷に着くとアデミル様が直々に出迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「おかえり、シオリ。お茶にしよう」
「お仕事は終わったんですか?」
私が笑ってそう言うと、終わらせたとも、と彼は胸を張って言った。
「シオリが帰ってくるまでに終わらせておこうと誓っていたからな」
「嬉しいです」
ティールームでお茶を楽しむ。今日のお茶菓子は私が余分に作っていったシフォンケーキだ。
「うむ、シオリの作る菓子はいつ食べても美味いな」
「褒めても何も出ませんよ」
そう笑うと出るとも、と彼は微笑んだ。
「そうやってシオリが笑ってくれる。それが私の何よりもの力になる」
「アデミル様……」
ああ、なんて愛おしいんだろう。私はこのひとに抱かれたい。
できることなら、その子を宿して産みたい。
私とアデミル様の愛の証を未来に繋いでいきたい。
そう思って口にしようとしたその時、ルーイングさんが入ってきた。
「旦那様、失礼します。王都から早馬が」
「王都から?」
アデミル様が訝しげな顔をする。ルーイングさんから書状を受け取ってそれを広げる。
「……これは」
「何が書いてあるんですか?」
「シオリを連れて城に来いと書かれている。獣人のアカデミーを作っていることが知られたか?しかしそれにしては早すぎるな」
今、獣人のアカデミーは教師の説得に成功して校舎を建てている最中だ。遠く離れた王都からそうも早く呼び出しが来るとは考え難い。
嵐がくる。神様の声が頭の奥で響いた。
嵐ってこのことですか、神様。
応えなどあるはずもなかった。
(続く)
でも街を行き交う人々を見ているとこの国の女性は多くがグラマラスだ。
胸はばいんと出てお尻も安産型というか、大きい。
私のような小柄で貧相な体、アデミル様はがっかりするんじゃないだろうか。
アデミル様がそんなことを気にする方ではないことは分かっている。だからこれは私自身の心の問題なのだ。
私は自分の体に自信が持てない。コンプレックスを持っている。
それを克服しない限り彼の前に裸体を晒すことなんてできない。
そんなある日のこと。
午後のティータイムをアデミル様ととっていたら彼は私を抱き寄せてこんなことを言った。
「シオリは小さくて細くて、でもそこがかわいい」
「私、かわいいですか?こんな貧弱な体でもかわいいですか?」
アデミル様は笑って言った。
「シオリは貧弱なんかじゃない。細いけれど芯はしっかりとしているじゃないか」
「でもこの国の人たちみたいに胸も大きくないし肉付きだって良くないです」
「まあ確かにそうかもしれないがそれが何か問題でもあるのか?」
そう首を傾げられて私はいえ、としか答えられなかった。
私がずっと抱いていたコンプレックスはアデミル様からすればなんの問題もないことだったのだ。
言われてみればアデミル様はいつも私のことを小さいなとは言うけれどその後に必ずだからかわいいと言ってくれていた。
私は「アデミル様は気にしないだろう」と言いながらも結局自分のコンプレックスのことばかりでアデミル様の言葉を聞き流していたのだ。
このひとはこんなにも私を可愛がって愛してくれているのに私はいつまでもつまらないことにばかり囚われて。
世界がひらけた気がした。目の前の霞んでいた膜のようなものが取り払われるのを感じた。
今ならこのひとに抱かれてもいい。
そう思ったのに。
私はその日から生理になってしまった。
生理の間は自室で別々に寝ている。万が一経血でアデミル様のベッドを汚したら嫌だったからだ。臭いだって気になる。あの人は嗅覚も鋭いから近くにいたら必ず血の匂いに気づいてしまう。
だから寝る時は必ず自室で寝ていた。
もどかしかった。せっかく彼に抱かれたいと思ったのにこの有様だ。
一週間がとても長く感じた。
生理が終わりに近づいていたある日、私はミミアと二人で教会にいた。
アローナ先生やアデミル様に聞き辛いことを神様に聞いてみようと思ったのだ。
賄賂として手作りのシフォンケーキを供えて祈りを捧げる。するとシフォンケーキが光って消えて耳元で声が聞こえた。
「今日はなんだい、聖女よ」
私とアデミル様の間に子供はできますか?
「することすればできるよ」
その場合、生まれてくる子は人間ですか?獣人ですか?それとも半獣人ですか?
「人間七割獣人三割だな。半獣人はこの世界にはいない」
そうなんですね。ありがとうございます。
「それだけか?」
そうですけど?
「ふむ、この菓子に見合うだけの宣託を下してやろう」
ありがとうございます?
「嵐がくる。しかしお前の力は強い。誰よりも強い。その力で伴侶を導き守ってやりなさい」
嵐?
「お前はそもそも何故聖女召喚が十年に一度毎度毎度行われているか考えたことはあるか?」
そういえば、私の前の代の聖女とか話を聞かないですね。
「聖女の光の力は使えば使うだけ魂を消費する。水をワインに変える程度なら影響はないが大量の作物を実らせたり大いに使えば魂が欠けてゆく。故に酷使された聖女は十年と持たず死んでゆくのだ」
なにそれ、最悪じゃないですか。
「今までの聖女はそれに気づかずただ王に従いその命を散らせていった。さてお前はどうなるかな」
王様になんて従いません。私が従うのは私自身とアデミル様だけです。
「良き良き。それで良い。もっとわがままになれ。お前はちと無欲すぎる。世界の全てを壊してでもあの伴侶を選ぶくらいの強欲であれ」
いやそこまでは……。
「いずれその時が来る。選ばねばならぬ時が。嵐はそこまでやってきているのだからな」
……アデミル様は私が守ります。何を賭しても。
「それでよい。今日はまっすぐに帰ると良い。伴侶が待ち侘びているぞ」
はい、ありがとうございました。
私は教会を出ると馬車に乗って屋敷に戻った。
屋敷に着くとアデミル様が直々に出迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「おかえり、シオリ。お茶にしよう」
「お仕事は終わったんですか?」
私が笑ってそう言うと、終わらせたとも、と彼は胸を張って言った。
「シオリが帰ってくるまでに終わらせておこうと誓っていたからな」
「嬉しいです」
ティールームでお茶を楽しむ。今日のお茶菓子は私が余分に作っていったシフォンケーキだ。
「うむ、シオリの作る菓子はいつ食べても美味いな」
「褒めても何も出ませんよ」
そう笑うと出るとも、と彼は微笑んだ。
「そうやってシオリが笑ってくれる。それが私の何よりもの力になる」
「アデミル様……」
ああ、なんて愛おしいんだろう。私はこのひとに抱かれたい。
できることなら、その子を宿して産みたい。
私とアデミル様の愛の証を未来に繋いでいきたい。
そう思って口にしようとしたその時、ルーイングさんが入ってきた。
「旦那様、失礼します。王都から早馬が」
「王都から?」
アデミル様が訝しげな顔をする。ルーイングさんから書状を受け取ってそれを広げる。
「……これは」
「何が書いてあるんですか?」
「シオリを連れて城に来いと書かれている。獣人のアカデミーを作っていることが知られたか?しかしそれにしては早すぎるな」
今、獣人のアカデミーは教師の説得に成功して校舎を建てている最中だ。遠く離れた王都からそうも早く呼び出しが来るとは考え難い。
嵐がくる。神様の声が頭の奥で響いた。
嵐ってこのことですか、神様。
応えなどあるはずもなかった。
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