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第一部
20.ミートソースパスタ
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金曜日。無事残業もなく帰ることができて勝臣はほっとしたような残業が合ってほしかったような複雑な思いでいた。
今夜はセレスティノに抱かれる日だ。はじめてのことなので緊張する。
女をはじめて抱いたときはさほど緊張しなかったのにいま一歩一歩マンションに向かっていっているという事実が緊張を高めていく。
「……ついてしまった」
白一色の壁のマンションを見上げる。見慣れた外観のはずなのに初めて入るような心地だ。
ええい、と扉をくぐってキーをセキュリティ盤に差し込んで自動ドアを開ける。
一応ポストを見て空っぽなのを確認したらエレベーターに乗って五階で降りる。
部屋の前に立って、すーはーと深呼吸をして鍵を差し込む。
「ただいま」
「おかえりー!」
セレスティノは例に漏れず勉強していたんだろう、ローテーブルの前に座っていてこちらを仰け反って見てきた。
「残業なくてよかった」
「……おう」
立ち上がって歩み寄ってくるセレスティノに、そういえばこいつ、俺より背が高かったな、と今更ながらに思った。
「ちょっとビビってる?」
「び、ビビってる……」
素直に認めるとセレスティノはくすりと笑ってだろうね、と言った。
「俺は抱く方だから結構気楽っていうか楽しみっていう気持ちばっかりだけど兄さんは抱かれる側だもんね。想像はできるよ」
そっと抱き寄せられる。うん、とうなずいて勝臣もセレスティノの背に腕を回した。
「でも頑張ろうって思ってくれてるんでしょう?」
「うん」
「俺はそれが嬉しい。だからもし今日上手く行かなくても気にしないで。また今度チャレンジしよう?」
「……うん」
見つめ合い、唇を合わせる。
「ん……こら」
舌が入ってこようとしたので勝臣が顔を離してジト目で見る。
「勃つから舌は入れるな」
「ごめん。ご飯作ろうよ」
「ん、着替えてくる」
セレスティノから離れて寝室に入る。リュックを下ろしてクローゼットを開けた。
今夜はミートソースパスタだ。
このミートソースは母親が作っているのを見て覚えたものだ。だから具材がこれで本当に合っているののか勝臣は知らない。けれどこれがおふくろの味ってやつだなんて思っているのでレシピサイトでもミートソースを見たことはない。
スウェットに着替えて寝室を出るとすでにエプロン姿のセレスティノが材料を取り出していた。
「まずセロリと玉ねぎをみじん切りにしまーす」
勝臣も手を洗ってエプロンをつけたら早速ミートソースづくりに取りかかる。
「ディーノ、ケトルで湯を沸かしてくれ。あとパスタを茹でるための湯も沸かして」
「了解ー」
セロリと玉ねぎを手早くみじん切りにして深めのフライパンにオリーブオイルを引いて合い挽きのひき肉と切ったものを炒めていく。
「ディーノ、コンソメとトマト缶」
「あいさ」
暫く炒めていると火が通ってきて、横からセレスティノが顆粒コンソメとトマト缶を入れた。
少し煮詰めたら醤油、ウスターソース、ケチャップを入れてまた煮詰める。その間にセレスティノが湯の沸いた鍋にパスタを投入する。
仕上げに塩コショウして味を整えたらパルメザンチーズを入れてコクを出す。
するとちょうどパスタが茹で上がったのでザルにあけて湯を切る。
深皿にパスタを盛って、出来上がったミートソースをたっぷりとかけた。
セレスティノが皿を運んだりしているうちにインスタントのコーンスープを茹で溶いてそれもローテーブルに持っていく。
サラダも勝臣がミートソースを作っている間にセレスティノがささっと作ってくれたのでもうできている。
「さて、食うか」
「はい、いただきます!」
「いただきます」
ミートソースをたっぷりパスタに絡めて食らいつく。うん、いつもの味だ。母親から勝手に引き継いだ味。ひとまわし入れた醤油が味をぎゅっと締めている。
「おいしいー!」
セレスティノがいつもみたいに子供みたいな声を出して食べている。
こいつはベッドの中でどんな声で自分を呼ぶのだろう。そう思ったら途端に味がしなくなった。忘れていた緊張、再び、である。
もそもそと食べていたらそれに気づいたセレスティノが苦笑した。
「また意識しちゃった?」
「うん……」
「兄さんは可愛いね」
「かわいくねーよ」
「かわいいよ」
にこりと言い返されてしまって勝臣はぐぬぬと唸る。
「確かに今夜は腹八分目にしておいたほうが良いかもね」
「あ?」
「お腹いっぱいで揺さぶられたら吐いちゃうでしょ?」
「ばっ、おま……おう」
まあ言われたとおりなのでパスタは少し残した。明日の朝温め直して食べるつもりで冷蔵庫に入れる。
いつものようにふたりで洗い物をして風呂はセレスティノが入れてくれた。
「先に入りなよ」
「さんきゅ」
「ゆっくり入って緊張解いてきて」
「努力する」
ぽんと背中を叩いてくるセレスティノに苦笑を返して勝臣は風呂に入ることにした。
とりあえず念入りに体を洗った。言い難いが下半身は特に念入りに洗った。
体を洗い終わると気分的にはそのまま出てしまいたい気分だったがせっかくセレスティノがゆっくりしてこいと言ったのだ。湯に浸かってゆっくりすることにした。
「はー」
とうとう俺も年貢の納め時か。いやそれもなんか違うのか。
セレスティノはきっと優しくしてくれるだろう。例えばギリギリのところでやっぱり待ってと言っても止まってくれるだろう。
そんなセレスティノ相手だからこそきちんと覚悟を決めていきたい。最後までやり遂げたい。
「……よしっ」
ぱんっと頬を叩いて風呂を出る。体を拭いてスウェットを纏い、脱衣所を出た。
「おかえりー」
セレスティノは呑気にバラエティ番組を見ていた。勝臣はお前も入ってこい、と言って冷蔵庫を開ける。喉が渇いたので麦茶を飲みたかった。
「うん、行ってくるね」
「おう」
セレスティノも着替えを持って風呂場に向かった。
勝臣は麦茶を飲みながら落ち着け俺、と心の中で何度も唱えたのだった。
今夜はセレスティノに抱かれる日だ。はじめてのことなので緊張する。
女をはじめて抱いたときはさほど緊張しなかったのにいま一歩一歩マンションに向かっていっているという事実が緊張を高めていく。
「……ついてしまった」
白一色の壁のマンションを見上げる。見慣れた外観のはずなのに初めて入るような心地だ。
ええい、と扉をくぐってキーをセキュリティ盤に差し込んで自動ドアを開ける。
一応ポストを見て空っぽなのを確認したらエレベーターに乗って五階で降りる。
部屋の前に立って、すーはーと深呼吸をして鍵を差し込む。
「ただいま」
「おかえりー!」
セレスティノは例に漏れず勉強していたんだろう、ローテーブルの前に座っていてこちらを仰け反って見てきた。
「残業なくてよかった」
「……おう」
立ち上がって歩み寄ってくるセレスティノに、そういえばこいつ、俺より背が高かったな、と今更ながらに思った。
「ちょっとビビってる?」
「び、ビビってる……」
素直に認めるとセレスティノはくすりと笑ってだろうね、と言った。
「俺は抱く方だから結構気楽っていうか楽しみっていう気持ちばっかりだけど兄さんは抱かれる側だもんね。想像はできるよ」
そっと抱き寄せられる。うん、とうなずいて勝臣もセレスティノの背に腕を回した。
「でも頑張ろうって思ってくれてるんでしょう?」
「うん」
「俺はそれが嬉しい。だからもし今日上手く行かなくても気にしないで。また今度チャレンジしよう?」
「……うん」
見つめ合い、唇を合わせる。
「ん……こら」
舌が入ってこようとしたので勝臣が顔を離してジト目で見る。
「勃つから舌は入れるな」
「ごめん。ご飯作ろうよ」
「ん、着替えてくる」
セレスティノから離れて寝室に入る。リュックを下ろしてクローゼットを開けた。
今夜はミートソースパスタだ。
このミートソースは母親が作っているのを見て覚えたものだ。だから具材がこれで本当に合っているののか勝臣は知らない。けれどこれがおふくろの味ってやつだなんて思っているのでレシピサイトでもミートソースを見たことはない。
スウェットに着替えて寝室を出るとすでにエプロン姿のセレスティノが材料を取り出していた。
「まずセロリと玉ねぎをみじん切りにしまーす」
勝臣も手を洗ってエプロンをつけたら早速ミートソースづくりに取りかかる。
「ディーノ、ケトルで湯を沸かしてくれ。あとパスタを茹でるための湯も沸かして」
「了解ー」
セロリと玉ねぎを手早くみじん切りにして深めのフライパンにオリーブオイルを引いて合い挽きのひき肉と切ったものを炒めていく。
「ディーノ、コンソメとトマト缶」
「あいさ」
暫く炒めていると火が通ってきて、横からセレスティノが顆粒コンソメとトマト缶を入れた。
少し煮詰めたら醤油、ウスターソース、ケチャップを入れてまた煮詰める。その間にセレスティノが湯の沸いた鍋にパスタを投入する。
仕上げに塩コショウして味を整えたらパルメザンチーズを入れてコクを出す。
するとちょうどパスタが茹で上がったのでザルにあけて湯を切る。
深皿にパスタを盛って、出来上がったミートソースをたっぷりとかけた。
セレスティノが皿を運んだりしているうちにインスタントのコーンスープを茹で溶いてそれもローテーブルに持っていく。
サラダも勝臣がミートソースを作っている間にセレスティノがささっと作ってくれたのでもうできている。
「さて、食うか」
「はい、いただきます!」
「いただきます」
ミートソースをたっぷりパスタに絡めて食らいつく。うん、いつもの味だ。母親から勝手に引き継いだ味。ひとまわし入れた醤油が味をぎゅっと締めている。
「おいしいー!」
セレスティノがいつもみたいに子供みたいな声を出して食べている。
こいつはベッドの中でどんな声で自分を呼ぶのだろう。そう思ったら途端に味がしなくなった。忘れていた緊張、再び、である。
もそもそと食べていたらそれに気づいたセレスティノが苦笑した。
「また意識しちゃった?」
「うん……」
「兄さんは可愛いね」
「かわいくねーよ」
「かわいいよ」
にこりと言い返されてしまって勝臣はぐぬぬと唸る。
「確かに今夜は腹八分目にしておいたほうが良いかもね」
「あ?」
「お腹いっぱいで揺さぶられたら吐いちゃうでしょ?」
「ばっ、おま……おう」
まあ言われたとおりなのでパスタは少し残した。明日の朝温め直して食べるつもりで冷蔵庫に入れる。
いつものようにふたりで洗い物をして風呂はセレスティノが入れてくれた。
「先に入りなよ」
「さんきゅ」
「ゆっくり入って緊張解いてきて」
「努力する」
ぽんと背中を叩いてくるセレスティノに苦笑を返して勝臣は風呂に入ることにした。
とりあえず念入りに体を洗った。言い難いが下半身は特に念入りに洗った。
体を洗い終わると気分的にはそのまま出てしまいたい気分だったがせっかくセレスティノがゆっくりしてこいと言ったのだ。湯に浸かってゆっくりすることにした。
「はー」
とうとう俺も年貢の納め時か。いやそれもなんか違うのか。
セレスティノはきっと優しくしてくれるだろう。例えばギリギリのところでやっぱり待ってと言っても止まってくれるだろう。
そんなセレスティノ相手だからこそきちんと覚悟を決めていきたい。最後までやり遂げたい。
「……よしっ」
ぱんっと頬を叩いて風呂を出る。体を拭いてスウェットを纏い、脱衣所を出た。
「おかえりー」
セレスティノは呑気にバラエティ番組を見ていた。勝臣はお前も入ってこい、と言って冷蔵庫を開ける。喉が渇いたので麦茶を飲みたかった。
「うん、行ってくるね」
「おう」
セレスティノも着替えを持って風呂場に向かった。
勝臣は麦茶を飲みながら落ち着け俺、と心の中で何度も唱えたのだった。
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