異世界の弟とごはんを。

高槻桂

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第一部

11.パンケーキ

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 セレスティノのおつかいの毎日は一週間問題なく過ごせた。
 明日は土曜日だ。セレスティノが来て一週間祝いにパンケーキを焼こうかと思って材料を買ってきてもらっていた。
 そうして頬へのキスももう慣れたものだ。と言ってもまだ完全には気恥ずかしさは消えてくれなくて、ええいままよ!といつも思いながらやっている。

 そうして眠りについて、気づいたら一週間ぶりのあの白い部屋にいた。
 いつものカウチに座っていた勝臣は向かいに座る航によう、と笑いかけた。

「どうかな、調子は」
「順調かな。あんたは俺らのこと見てたりするのか?」
「俺にもやることがあるからいつもは見てないけど、そちらの時間で二、三日に一度は見るようにしているよ」

「そっか。あ、金ありがとな。助かってる」
「足りなかったら言って。無駄遣いしないなら支援するよ」
「その時は頼むよ。それで、ディーノなんだがあいつの履歴書とかってどうしたら良いんだ?」

 勝臣の言葉に航はああ、と思い至ったようだった。

「見本を枕元に置いておくよ。だいたいはあなたの経歴をベースにしてあるから」
「覚えやすくていいな」
「ただあなたと違って大学には行っていない設定だから。大学を出ている割には物知らずってことになるからね」
「それもそうか。パソコンも使えないしな、あいつ」
「その辺は追々教えてあげてよ」
「ああ」

「会社に務めるのはしばらくはちょっと難しいかもしれないけれど、ちょっと飲食店とかでバイトするってくらいなら受かりやすいよう印象操作もしておくから」
「何から何まで悪いな」
「押し付けちゃったからね。これくらいはさせてよ」
「あんたは神様代理みたいなものなんだよな?」
「そうだよ?」
「神様はその、俺たちをあんたが贔屓して何も言わないのか?天罰とか、その……」

 すると彼は可笑しそうに笑った。

「大丈夫、彼は地球に全く興味がないんだ。だから俺が口出ししても好きしていいよって言ってくれている。だから俺があなたを贔屓することになんとも思ってないんだよ」
「なんていうか、神様が地球に興味がないっていうのは複雑な気分だがまああとでなんかしっぺ返しが来ないならいいさ」
「うん、大丈夫」

 そこで勝臣はふと気づく。

「じゃあ俺とあんたがこうして仲良く話していることは良いのか?」

 すると航はちょっとだけ視線をそらした。おい。

「神様は俺にべた惚れでね。でもそんなに嫉妬深いわけじゃないから大丈夫。あなたと会っていることもちゃんと許可をもらっていることだから」

 ちょっと早口になったそれに一抹の不安を覚えながらも頼むぜ?と勝臣は航を見る。

「大丈夫、どっちにしろあなたが俺にあまり興味無いでしょう?」
「べ、つにそんなわけじゃ」
「だってこの一週間で何度俺のこと思い出した?三日目くらいからもう忘れてたでしょう」
「あーまあ」
「あなたは俺に対して罪悪感を持っているけれどそれ以上の感情は持ち合わせていない。神様もそれをわかっているから何も言わないんだ。当然、俺も彼への愛情が揺らぐことはないから彼はそれで満足なんだよ」
「へえ」

 神様の恋人だって。すげえなあ。なんて思いながら勝臣はカウチにもたれかかった。

「それで?他に連絡事項は?」
「特にないよ。一週間経ったからどんなものかなって話が聞きたかっただけだから。順調に暮らしているならそれでいい」
「そうか。また何かあれば呼んでくれ」
「うん。そっちも俺に何か用がある時は強く念じて。出来るだけ早めに呼び出すから」
「ありがとう」
「それじゃあ、また」

 ぶつっと意識が途切れた。

「……」

 そして目を開けると、そこはいつもの自分の寝室の天井がカーテンの隙間から入る朝日に照らされて微かに見えていた。
 枕元には一枚の履歴書。おお、とそれを手に取って勝臣は目を通した。


「今日の昼はパンケーキを作るぞー」
「パンケーキ!食べたい!」

 昼になってエプロンをつけながら言うとセレスティノは大喜びした。

「まずバナナとキウイを切りまーす」

 それぞれ皮を剥いて適当な大きさに切って小皿に乗せる。

「みかんの缶詰を開けます。開けてみろ」
「うん」

 開け方を教えるとセレスティノは言われた通りプルタブを起こして引っ張って蓋を開ける。

「缶詰のシロップは牛乳で割って飲むからグラスに入れておきます」

 グラスに二等分してシロップを入れて牛乳を注ぐ。軽く混ぜてセレスティノに運ばせた。

「生地はパンケーキミックスに牛乳と卵を入れてかき混ぜる。ふっくらさせたいから混ぜすぎないように」

 フライパンを熱してマーガリンを落とす。それが溶けたらじゅわっと生地を流し込んだ。
 蓋をしてその間にチョコレートソースとはちみつとジャムを出してセレスティノに運ばせる。
 蓋を開けると表面にふつふつと穴が空いていた。ひっくり返す。うん、いい色だと勝臣は満足する。

 そうして一枚焼いたら皿に乗せてマーガリンを上にひとかけら乗せる。
 そして二枚目を焼き始める。その間にカトラリーを出してフルーツの皿もローテーブルに運ぶ。
 部屋中にいい匂いに満ちて気分が良い。
 二枚目も焼き上がって同じように皿に移したら上にマーガリンを乗せる。

「さ、食べようぜ」
「うん!」

 いただきますと手を合わせて思い思いのフルーツを乗せてソースやらはちみつやらをかけて食べる。

「んー!チョコソース美味しい!俺の知ってるチョコレートとまろやかさが違う!」
「そうだろそうだろ」
「あー美味しいー!どんだけでも食べれちゃいそう!」
「足りなかったらまた焼いてやるからな」
「やったー!」

 勝臣はシロップの混ぜた牛乳を飲む。甘くてほのかにみかんの味がして美味しい。
 パンケーキもふっくらと焼き上がっていて表面が溶けたマーガリンとはちみつを吸ってじゅわ、と味が広がった。
 セレスティノはこのあとおかわりをしてそれも平らげていた。

「ディーノ」
「なあに?」
「これからもよろしくな」

 勝臣がそう笑いかけると彼も笑ってこちらこそ、と頭を下げたのだった。
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