異世界の弟とごはんを。

高槻桂

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第一部

02.準備

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 とりあえず、とベッドの上にあぐらをかいてセレスティノなる青年を見つめる。

「こっちの知識ってどれくらいあんの」

 セレスティノはううーんと考えたあと、あんまり、と言った。

「こっちでの両親のこととあなたのことは最低限わかってると思う」
「最低限ってどれくらい」
「顔がわかるくらい」

 本当に最低限だな、と思ったがまあ今更ああだこうだ言っても仕方ない。

「まあ、預かったものは仕方ないから預かるけど、まずは常識を覚えるところからだろうなあ」
「ものの名前とかならだいたいわかると思うよ。あの神様代理って人が俺の頭になんか流し込んだから」
「え、じゃあこれは?」

 手っ取り早くそこにあったスマートフォンを手に取って見せると彼はスマートフォン、と答えた。

「でも、名前はわかるけど何をするものかはよくわからない」
「あーそこんとこも補完しておいてほしかったなー!じゃああれは?」

 壁掛けの時計をさせばそれはわかる、と言った。

「時計は俺の世界にもあったから」
「ああ、そういうのもあるのか。そうだよな」
「あとこの世界には魔法がないから人前では使っちゃダメって言われた」

「え!お前の世界、魔法あるのか?!」
「あるよー。俺の適性属性は風と水だからそれに関する魔法は大体できる」
「なんか使ってみせろよ!」

 わくわくして催促すると、彼はええと、とベッドを指差してじゃあその布団浮かせるね、と言って指をぱちんと鳴らした。
 すると掛け布団がふわっと浮き上がってふよふよとその場に留まった。

「おおー!すげー!」

 またぱちんと指を鳴らすと布団は何事も無かったようにベッドの上に収まって沈黙した。

「魔法詠唱とかないのか?こう、かっこいい呪文とか!」
「んー、できるけど俺は聖女の息子だから詠唱なしで大抵の魔法は使える」
「聖女。ああ、お前のお母さんってこっちの世界の人間なんだっけ。こっちの人間なのに魔法使えるのか」

「どういう原理かは知らないけど聖女は全属性の魔法が使えるようになるよ。母上は聖女召喚でこっちの世界から俺たちの世界に召喚されたんだけど今はあっちでこっちの知識を活かして商売とかしてる。俺、ラーメン好きだよ」
「お、ラーメンわかるのか!」
「母上が自分の記憶を元に再現して売り出してる。でも本物はもっと美味しいのよって母上言ってたからこっちの世界に来たならラーメン食べたいな」

 呑気なことを言うセレスティノにラーメンかぁと勝臣は腕を組む。

「一言でラーメンつっても色々あるからなあ。まあそれは追々食いに連れてってやるよ」
「わーい」

 にへーと笑うセレスティノにそういえば、と勝臣は思う。

「お前何歳なんだ?」
「二十三歳」
「俺より三つ下か。そのわりに子供っぽいっていうか。のんびりしてるのか?それ素の性格か?」
「そうだよー。母上にもよくディーノはのんびりやさんって言われてたなー」

「お前、ディーノって呼ばれてたのか」
「うん、セレスティノだからディーノ」
「ふうん。じゃあ俺もディーノって呼ぶわ。セレスティノって言いにくいしな」
「いいよー。そのほうが兄弟らしいでしょ」
「はいはい」

 すると勝臣の腹がぐうと鳴った。

「……昨日の夜もなんも食べずに寝たんだったな。あー体はすっきりしてるし、なんか食うか!」

 勝臣は伸びをしてカーテンを開けた。よく考えたらこんな薄暗い中で話す必要なかった。
 じゃっとカーテンを開いて、セレスティノを振り返ってはっとした。
 セレスティノの瞳が光を受けて金色に輝いていた。

「お前、綺麗な目してるんだな」
「ああ、この目?父上譲りなんだ。黒髪は母上譲りだけど」

 だからダブルという設定になったのだなと勝臣は理解した。こんな瞳、純粋な日本人にはあり得ない。
 そして光の元で改めてまじまじとセレスティノの顔を見るとその顔も彫りが深くて日本人離れしている。やはりこれでは日本人設定は無理があるなと思った。

 イタリア人に金眼のやつがいるかなんて知らないけれど、とりあえずイタリア人とのダブルという設定は生かした方が良いようだった。

「とりあえず、俺は今日は仕事休みだからお前の教育に専念するとするわ。最低限、近所のスーパーに買い物に行けるくらいにはなって貰わないと」

 ベッドから降りてまず部屋を出ると勝臣はキッチンに向かった。セレスティノもぽてぽてとついてくる。

「材料がないからとりあえずメシ炊いておにぎりだな」
「おにぎり、好きだよ。小さい頃は母上と一緒に作った」
「よし、じゃあまずは米を炊くか。お前食う方か?」
「ふつう」

「じゃあとりあず五合炊くか。残っても昼にアレンジして食えば良いしな」
「おにぎりにアレンジとかあるの?」
「んー、まあ後のお楽しみな」

 その前に残ればだけど、と思いながら米を研ぐ。うちの懸賞で当てた炊飯器の限界値の五合を炊くなんて初めてだけれど大丈夫だろうか。
 ちょっとだけ不安に思いながらも勝臣は米をセットして炊飯ボタンを押した。

「これだけでいいのか?」
「ああ、お前の世界にはこういうのはないのか?」
「ない。米を炊くときは火の魔法で炊く」
「あー、キャンプとかでやるあれと同じ原理か。じゃあ機械とかないんだ?」

「ないよ。機械というものは母上からの話で知っていたが見るのは初めてだ。あとはあの神様代理のひとがいろんな知識を植え付けてくれたからなんとなくは知ってるけど」
「そっか。じゃあとりあえずこの部屋のものについて、炊けるまでいろいろ教えてやるよ」
「ありがとう」

 そうして勝臣はキッチンのものの名称からトイレの使い方、そして昨日入れなかったからとついでに風呂の入れ方も実地で教えてまあこんなところかな、と思った。
 テレビを見せたときはセレスティノは「おっ?!」とびくりとして固まっていた。

「こんな小さな箱にひとが入っているの?」

 何かのライトノベルで読んだような反応をされて勝臣は腹を抱えて笑った。
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