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何故、妹は姉をざまぁするに至ったか⑭
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ラス兄様と、私付きの侍女達の協力を得て、私はお姉様のノートの中身を写す事に成功した。相変わらず、私にはどういう文字なのか分からない。
……私付きの侍女達が余計な詮索をしてくるような人たちじゃなくて本当に良かった。
詮索されたら、何を言ったらいいか分からないもの。それに私はお姉様やウーログが別世界の記憶を持っていたとしても気にはならないけれど、気にする人は気にするだろうから。……私はそういう好奇の目で大好きな人達が見られるのは嫌だもの。
だからこそ、ほっとした。
それから私は、沢山の写したもの――ただ、これは本当にばらばらに写したのでどこがどうつながっているか分からないからウーログに苦労させてしまうかもしれないけれど――をウーログに見せた。
「へぇ……」
ウーログはその写したものを見て、何とも言えない表情で感心している。
「ウ、ウーログ、どうしたの。それには何が書いてあるの?」
「ええっと、ね。ちょっと待ってね。イエルノ。少し、僕の頭も混乱しているから、頭の中でまとめるから」
お姉様のまとめていたノートの内容は、ウーログさえも混乱させてしまうものだったらしい。正直ノートの中身を知る事は恐ろしいと思う。
でも私はその中身を知りたいと思っている。恐ろしいという感情以上に知りたいという欲の方が強い。
しばらく待つと、ウーログの頭の中で纏まったのか、ウーログが口を開く。
「イエルノが理解出来るように頑張って言うけど、分からなかったら聞いてね」
「うん」
「えっとね……、僕やイエルノのお姉さんの前世では、ゲームっていうのがあってね。何て説明すればいいんだ……。その、小説とかあるよね? それで主人公の未来を、こちらが選択肢で決めていくような遊びがあったんだよ」
「……こちらで、主人公の未来を決めていく?」
「そうそう。そういう遊びがあってね。その遊びの中で乙女ゲームっていうのがあるんだよ」
「乙女げぇむ?」
乙女げぇむ? 聞きなれない単語で頭が混乱してくる。
「主人公の女の子の選択肢を選んでいって、攻略対象――異性を落としていくゲームなんだけど」
「なっ……殿方を落とす遊びですって、なんてはしたない!!」
その乙女げぇむという物を理解して、思わず私は叫んでしまった。だ、だって主人公の女性の未来を選んでいって、殿方を落とす遊びなんて、なんて、はしたない!!
「まぁまぁ、あくまでそういう遊びがあったっていうだけだよ。実際にはしないから」
「……でもその乙女げぇむというものがお姉様の事と何が関係があるの?」
「僕も信じられないんだけど、ここって、イエルノのお姉さんが遊んでいた乙女ゲームの世界らしいんだ」
「え?」
遊びの世界? 正直何を言われているかさっぱり分からなかった。そんな私に、ウーログは分かるように説明してくれる。
「……イエルノにはこう言ったほうがいいかな。例えばあの、イエルノが今読んでいる小説の世界に、死んだ後生まれ変わったみたいな感じなんだよ」
「まぁ……」
「その空想的だった世界が、イエルノのお姉さんにとっては現実になったみたいな感じだね」
……例えば、私が今読んでいる小説の世界へと、生まれ変わりをしたら――それはとても混乱する事だと思う。
お姉様はその混乱の中にいる?
「……それに加えて、その、乙女ゲームには悪役が居るんだ」
「悪役?」
「ああ。物語にも悪役がいたりするだろう? この場合は主人公と異性の仲を邪魔する立場なんだけれど……、その悪役の役割がイエルノのお姉さんみたいだね」
「お姉様が悪役?」
生まれ変わった世界が、空想だった世界。それでいてその世界で自分が悪役だった。……それは混乱する事だと思うけれど、でもだからって、どうして私に対する態度とかを変えるのだろうか。
「イエルノのお姉さん――アクノール様は悪役令嬢という立場で、主人公の選択肢次第では処刑や国外追放になる恐れがあるらしい」
「え? 何を言ってらっしゃるの? 王族の婚約者でもあり、公爵家の長女でもあるお姉様がそんな事になるわけないでしょう?」
正直、何を夢物語を、としか思えなかった。
だってお姉様は王族の婚約者であり、公爵家の長女である。よっぽどの事をしなければ、そんな事にはならない。いや、よっぽどの事をしたとしても、悪くて修道院に入るぐらいだと思う。
「その、乙女げぇむの中でお姉様は何をしたの? 何をしてそうなったの?」
「……主人公をいじめた事に激怒した、婚約者の手によってそうなるんだ」
「え……。何を言っていらっしゃるの? デル兄様はそのような方ではありません。恋は盲目とはいえ、きちんと王族としての責務を理解している方です。もし誰かを好きになったとしてもきちんと対応なさるでしょう。その方を側妃にするなり、手順を踏んでお姉様との婚約を破棄するなり。そのような虐めに激怒して処刑などと言ったことをデル兄様はする方ではありません」
私は思わず驚いて、そう反論してしまった。
というか、お姉様がデル兄様への対応がおかしくなったのってそのせいなの? どうして? デル兄様がどういう人であるか、お姉様の方がずっとずっと、知っているはずなのに……。
……私付きの侍女達が余計な詮索をしてくるような人たちじゃなくて本当に良かった。
詮索されたら、何を言ったらいいか分からないもの。それに私はお姉様やウーログが別世界の記憶を持っていたとしても気にはならないけれど、気にする人は気にするだろうから。……私はそういう好奇の目で大好きな人達が見られるのは嫌だもの。
だからこそ、ほっとした。
それから私は、沢山の写したもの――ただ、これは本当にばらばらに写したのでどこがどうつながっているか分からないからウーログに苦労させてしまうかもしれないけれど――をウーログに見せた。
「へぇ……」
ウーログはその写したものを見て、何とも言えない表情で感心している。
「ウ、ウーログ、どうしたの。それには何が書いてあるの?」
「ええっと、ね。ちょっと待ってね。イエルノ。少し、僕の頭も混乱しているから、頭の中でまとめるから」
お姉様のまとめていたノートの内容は、ウーログさえも混乱させてしまうものだったらしい。正直ノートの中身を知る事は恐ろしいと思う。
でも私はその中身を知りたいと思っている。恐ろしいという感情以上に知りたいという欲の方が強い。
しばらく待つと、ウーログの頭の中で纏まったのか、ウーログが口を開く。
「イエルノが理解出来るように頑張って言うけど、分からなかったら聞いてね」
「うん」
「えっとね……、僕やイエルノのお姉さんの前世では、ゲームっていうのがあってね。何て説明すればいいんだ……。その、小説とかあるよね? それで主人公の未来を、こちらが選択肢で決めていくような遊びがあったんだよ」
「……こちらで、主人公の未来を決めていく?」
「そうそう。そういう遊びがあってね。その遊びの中で乙女ゲームっていうのがあるんだよ」
「乙女げぇむ?」
乙女げぇむ? 聞きなれない単語で頭が混乱してくる。
「主人公の女の子の選択肢を選んでいって、攻略対象――異性を落としていくゲームなんだけど」
「なっ……殿方を落とす遊びですって、なんてはしたない!!」
その乙女げぇむという物を理解して、思わず私は叫んでしまった。だ、だって主人公の女性の未来を選んでいって、殿方を落とす遊びなんて、なんて、はしたない!!
「まぁまぁ、あくまでそういう遊びがあったっていうだけだよ。実際にはしないから」
「……でもその乙女げぇむというものがお姉様の事と何が関係があるの?」
「僕も信じられないんだけど、ここって、イエルノのお姉さんが遊んでいた乙女ゲームの世界らしいんだ」
「え?」
遊びの世界? 正直何を言われているかさっぱり分からなかった。そんな私に、ウーログは分かるように説明してくれる。
「……イエルノにはこう言ったほうがいいかな。例えばあの、イエルノが今読んでいる小説の世界に、死んだ後生まれ変わったみたいな感じなんだよ」
「まぁ……」
「その空想的だった世界が、イエルノのお姉さんにとっては現実になったみたいな感じだね」
……例えば、私が今読んでいる小説の世界へと、生まれ変わりをしたら――それはとても混乱する事だと思う。
お姉様はその混乱の中にいる?
「……それに加えて、その、乙女ゲームには悪役が居るんだ」
「悪役?」
「ああ。物語にも悪役がいたりするだろう? この場合は主人公と異性の仲を邪魔する立場なんだけれど……、その悪役の役割がイエルノのお姉さんみたいだね」
「お姉様が悪役?」
生まれ変わった世界が、空想だった世界。それでいてその世界で自分が悪役だった。……それは混乱する事だと思うけれど、でもだからって、どうして私に対する態度とかを変えるのだろうか。
「イエルノのお姉さん――アクノール様は悪役令嬢という立場で、主人公の選択肢次第では処刑や国外追放になる恐れがあるらしい」
「え? 何を言ってらっしゃるの? 王族の婚約者でもあり、公爵家の長女でもあるお姉様がそんな事になるわけないでしょう?」
正直、何を夢物語を、としか思えなかった。
だってお姉様は王族の婚約者であり、公爵家の長女である。よっぽどの事をしなければ、そんな事にはならない。いや、よっぽどの事をしたとしても、悪くて修道院に入るぐらいだと思う。
「その、乙女げぇむの中でお姉様は何をしたの? 何をしてそうなったの?」
「……主人公をいじめた事に激怒した、婚約者の手によってそうなるんだ」
「え……。何を言っていらっしゃるの? デル兄様はそのような方ではありません。恋は盲目とはいえ、きちんと王族としての責務を理解している方です。もし誰かを好きになったとしてもきちんと対応なさるでしょう。その方を側妃にするなり、手順を踏んでお姉様との婚約を破棄するなり。そのような虐めに激怒して処刑などと言ったことをデル兄様はする方ではありません」
私は思わず驚いて、そう反論してしまった。
というか、お姉様がデル兄様への対応がおかしくなったのってそのせいなの? どうして? デル兄様がどういう人であるか、お姉様の方がずっとずっと、知っているはずなのに……。
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