5 / 6
彼が私に近づいてくる。
しおりを挟む
彼が私を見ている、というその事実が私の心をどうしようもないほど鼓動させていた。私の彼を好きという気持ちがあるからこその、その鼓動。
彼が見ている、そのことに気づいているだけで私は前世も含めてこんなに緊張した事がないというほどに心臓をバクバクさせていた。
彼はどうして私を見ているのだろうか。私の事を見つめて何をしようとしているのだろうか。……私に近づこうとしている?
どうしましょう。見られているだけでこんなに心臓がバクバクしているのに、どうなるのかしら。近づかないでほしい。近づかれたら、私は、自分を保ているのか分からない。私は、正気を保てる自信はない。私は人に対して関心が持てない。だから、人に対して一定の態度をしている。それでなぜか周りは私に優しいという。私は多分、彼には一定の態度を保ていないと思う。
それだけ、彼は私にとって特別だから。
でも……前世も含めて特別な人なんていた事はない。彼が近づいて来たら、私はどうなってしまうのだろう。そう思うと不安になった。私は彼に特別を抱いているけれど、彼は私を気にしているだけ。気にされているだけでどうしようもない気持ちなのに近づかれたら……駄目だわ。逃げましょう。近づかれたら……怖いもの。あれだけ壊れかけている彼が私なんかに近づいていいわけがない。私は冷たい人間だから、彼の事を傷つけてしまう。
私はだから、彼が私を見ているのを気づかないふりをする。彼が近づきたそうにしていても気づかないふりをする。
彼が——私の事を見て、近づこうとしている。
それを私は拒むことが出来るだろうか。……いいえ、出来ないわ。私は誰であろうと近づかれたら、受け入れてしまう。それが私だから……。そもそも今、近づきたそうにしているのを気づかないふりをしているのも、私にしては珍しいのに。ああ。シュアがとてもにこにこしている。……ニヤニヤしているけれども、不快感のない笑み。シュアは……私を害そうと思ってるわけでもはない。それを知っている。……ああ、でもこんな風に誰かに影響をされる事があるなんて考えてもいなかった。これは良い変化なのか、悪い変化なのか……。
どちらにしても私はどんなふうに動くべきなのだろうか。
「リサが珍しく悩んでいるの、可愛いわ!」
「……シュア」
「リサ、貴方は色々深く考えてしまっていると思うけれど……私はリサがやりたいようにやってくれたらそれが嬉しいわ」
シュアはにこにこしている。困って、どうしようと悩んでいる私を笑ってみている。
シュアは、私が彼に惹かれている気持ちを知っている。そして私の性格を……理解したうえで私の目の前にいる。私は自分の冷たさが人に好まれるものではないと分かっている。そもそも誰にも知られないように注意を払っていたはずなのに、知られただけでも驚きなのに、私の本質を知った上で傍に居ようとするシュアは本当によく分からない。
私のしたいように……か。
今まで——前世も含めてそんな風に自分がしたいことなんて考えた事がなかった。私はいつだって周りが求めるままに動いていたし、自分がやりたいからというよりもそうしたほうがいいと思うからという思いで動いていただけで——私がしたいようにと言われてもぴんとこない。
私はどうしたいのだろうか。私は彼をどうしたいのだろうか。――私は彼を傷つけるから近づきたくない。
それが本音なのだけれども……それでも本当に関わらなければならない時に、私を彼をどうしたらいい? どういう風に彼に接する方がいいの? 彼が私に近づこうとしていて、私に話しかけようとしている。私は……どうしたらいいのだろうか。
私は彼に平常な態度が出来る? いや、出来ないわ。
でも彼はそもそも、なんのために私に近づこうとしているのか。私は人の気持ちを感じる事が得意な方だと思ってた。なのに……、彼が何を思っているのかさっぱり分からないのだ。こんな風な気持ちは前世も含めて初めてだ。
「……彼は、私に話しかけるだろうか」
彼が私に近づこうとするのを知らないふりをしている。気づかないふりをしている。でも本当に彼が私に話しかけてきたら私は彼を無視なんて出来ないのだ。ああ、どうしよう。
そんな風に悩んでいたら、遂に彼が私に話しかけてきた。
「リサ・エブレサック。少しいいか?」
私に向かって話しかける彼の声。彼は私を見つめてる。……私はそれだけで正気を保てない。
彼が見ている、そのことに気づいているだけで私は前世も含めてこんなに緊張した事がないというほどに心臓をバクバクさせていた。
彼はどうして私を見ているのだろうか。私の事を見つめて何をしようとしているのだろうか。……私に近づこうとしている?
どうしましょう。見られているだけでこんなに心臓がバクバクしているのに、どうなるのかしら。近づかないでほしい。近づかれたら、私は、自分を保ているのか分からない。私は、正気を保てる自信はない。私は人に対して関心が持てない。だから、人に対して一定の態度をしている。それでなぜか周りは私に優しいという。私は多分、彼には一定の態度を保ていないと思う。
それだけ、彼は私にとって特別だから。
でも……前世も含めて特別な人なんていた事はない。彼が近づいて来たら、私はどうなってしまうのだろう。そう思うと不安になった。私は彼に特別を抱いているけれど、彼は私を気にしているだけ。気にされているだけでどうしようもない気持ちなのに近づかれたら……駄目だわ。逃げましょう。近づかれたら……怖いもの。あれだけ壊れかけている彼が私なんかに近づいていいわけがない。私は冷たい人間だから、彼の事を傷つけてしまう。
私はだから、彼が私を見ているのを気づかないふりをする。彼が近づきたそうにしていても気づかないふりをする。
彼が——私の事を見て、近づこうとしている。
それを私は拒むことが出来るだろうか。……いいえ、出来ないわ。私は誰であろうと近づかれたら、受け入れてしまう。それが私だから……。そもそも今、近づきたそうにしているのを気づかないふりをしているのも、私にしては珍しいのに。ああ。シュアがとてもにこにこしている。……ニヤニヤしているけれども、不快感のない笑み。シュアは……私を害そうと思ってるわけでもはない。それを知っている。……ああ、でもこんな風に誰かに影響をされる事があるなんて考えてもいなかった。これは良い変化なのか、悪い変化なのか……。
どちらにしても私はどんなふうに動くべきなのだろうか。
「リサが珍しく悩んでいるの、可愛いわ!」
「……シュア」
「リサ、貴方は色々深く考えてしまっていると思うけれど……私はリサがやりたいようにやってくれたらそれが嬉しいわ」
シュアはにこにこしている。困って、どうしようと悩んでいる私を笑ってみている。
シュアは、私が彼に惹かれている気持ちを知っている。そして私の性格を……理解したうえで私の目の前にいる。私は自分の冷たさが人に好まれるものではないと分かっている。そもそも誰にも知られないように注意を払っていたはずなのに、知られただけでも驚きなのに、私の本質を知った上で傍に居ようとするシュアは本当によく分からない。
私のしたいように……か。
今まで——前世も含めてそんな風に自分がしたいことなんて考えた事がなかった。私はいつだって周りが求めるままに動いていたし、自分がやりたいからというよりもそうしたほうがいいと思うからという思いで動いていただけで——私がしたいようにと言われてもぴんとこない。
私はどうしたいのだろうか。私は彼をどうしたいのだろうか。――私は彼を傷つけるから近づきたくない。
それが本音なのだけれども……それでも本当に関わらなければならない時に、私を彼をどうしたらいい? どういう風に彼に接する方がいいの? 彼が私に近づこうとしていて、私に話しかけようとしている。私は……どうしたらいいのだろうか。
私は彼に平常な態度が出来る? いや、出来ないわ。
でも彼はそもそも、なんのために私に近づこうとしているのか。私は人の気持ちを感じる事が得意な方だと思ってた。なのに……、彼が何を思っているのかさっぱり分からないのだ。こんな風な気持ちは前世も含めて初めてだ。
「……彼は、私に話しかけるだろうか」
彼が私に近づこうとするのを知らないふりをしている。気づかないふりをしている。でも本当に彼が私に話しかけてきたら私は彼を無視なんて出来ないのだ。ああ、どうしよう。
そんな風に悩んでいたら、遂に彼が私に話しかけてきた。
「リサ・エブレサック。少しいいか?」
私に向かって話しかける彼の声。彼は私を見つめてる。……私はそれだけで正気を保てない。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。


5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜
ぐう
恋愛
アンジェラ編
幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど…
彼が選んだのは噂の王女様だった。
初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか…
ミラ編
婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか…
ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。
小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる