妃は陛下の幸せを望む。

池中織奈

文字の大きさ
上 下
1 / 34
1巻

1-1

しおりを挟む






 永遠の愛を信じるかいなか。
 私――レナ・ミリアムは、それはほとんどまぼろしのようなものだと思っている。
 世の中には、生涯ずっと愛し合っている人たちがいるのは知っている。
 だけど貴族として生きていれば、それがどれだけ珍しいことか、進んで知ろうとしなくてもわかる。
 政略結婚が当たり前の貴族社会では、愛人を囲う者も多いし、愛憎劇あいぞうげきの末に殺傷さっしょう事件を起こすような者もいる。社交界に入ったばかりの私の耳にも、そういう情報が沢山たくさん入ってきていた。
 神様の前で永遠の愛を誓っても、その思いが失われるのはよくあること。
 だから、永遠の愛なんてないのかもしれない。
 けれど私は、それを信じたい。


 私には、十年も前から抱えている愛がある。
 それは敬愛であり、異性に対する愛でもあると私は認識している。
 あの方の役に立ちたい。
 その一心で知識を身につけ、外見を磨いた。
 あの方が私を愛してくれなくてもいいのだ。あの方のためになにかできればいい。
 それはただの自己満足。だから、見返りなんて求めない。


 初めてあの方に会ったのは、十年前の、あるパーティーでのこと。
 そこであの方は、泣いていた私にハンカチを差し出してくださった。
 初めて彼を見た時、なんて綺麗きれいな人なんだろうと、思わず見惚みとれてしまったことを覚えている。
 私に微笑みかけて、どうしたんだと聞いてくださった。
 まだ子供で、ちょっとしたことで泣いてしまった私の涙をぬぐい、私を安心させるような笑みを浮かべてくださった。
 その笑顔に、なぜか運命を感じてしまうくらい強くかれたのだ。
 彼と話すうちに落ち込んでいた気持ちは浮上していて、私の心にはあの方の笑顔と、あの方と交わした些細ささいな会話だけが残った。
 彼にとっては記憶さえ残っていないであろう、本当に小さな出来事。だけど、私はそれだけで単純にも恋に落ちてしまった。
 それから、ずっとずっと、あの方が好きだ。もしかしたらこの気持ちは、淡い初恋として消えていくのではないかと思ったこともあるけれど、そうはならなかった。
 いまでも鮮明に思い出せる。おさない頃に出会った彼のことを……


 出会った頃、王太子だったあの方――アースグラウンド様は、このたび王となった。
 そして私は侯爵家の令嬢として、あの方の後宮に入ることになっている。
 あの方の妃の一人になれる。愛するあの方のために、なにかできる。
 それだけで、私はどうしようもなく幸せだ。
 だから私は誓う――

「後宮できっとあの方の力になりますわ!!」



   第一章


「ようこそおいでくださいました。レナ・ミリアム様」

 後宮の門の前で、女官長が頭を下げた。その後ろには、三人の侍女が控えている。

「お出迎えありがとうございます。これからよろしくお願いしますわ」

 私は貴族令嬢らしく挨拶あいさつし、にっこりと笑いかけた。
 私の名前は、レナ・ミリアム。
 ミリアム侯爵家の長女で、この国で成人として認められる十六歳になったばかりだ。
 私は今日から、王の妃の一人になった。
 この国の後宮は、普段は閉鎖されている。正妃を決める時にのみ建物がひらかれ、そこに各地から妃たちが集められる。そしてその中から、陛下が相応ふさわしい者を選ぶという仕組みだ。
 先日、陛下の正妃選びがおこなわれるとのお触れがあり、それとともに各地の令嬢たちに妃として後宮に入るよう、勅令ちょくれいくだった。
 私もそれに従い、ここにやってきたというわけだ。
 目の前で、女官長がまた深々と頭を下げた。

「こちらこそよろしくお願いします、レナ・ミリアム様。ご要望通り、三人の侍女を手配させていただきました。これだけ少人数で大丈夫でしょうか」
「ええ。問題ありません」

 私の後ろには、実家から連れてきた四人の侍女――チェリ、カアラ、メルディノ、フィーノが控えていた。
 この国の貴族の令嬢は、普通は侍女を十五人は連れている。これは、単に身の回りの世話をさせるためだけでなく、その数で自分の権力を誇示こじするためでもあるからだ。家の爵位が高ければ高いほど、連れている侍女の数も多い。
 けれど私は、実家から連れてきた侍女四人と、今日から私付きになった侍女三人がいれば十分だ。
 それに、実家から連れてきた侍女たちは信頼できるけれど、後宮から手配された侍女のことは正直信頼できない。私の目的のためにも、新しい侍女の数は少ないほうがよかった。
 私の目的。それは、愛する陛下を幸せにすること。
 陛下は、前国王夫妻が事故で急死したことにより王位を継いだ。まだ即位されたばかりで、毎日政務に追われていることだろう。
 ご両親である前国王夫妻がお亡くなりになってから日も浅く、きっと心身ともにお辛いにちがいない。
 そんな中、正妃選びまでしなければならない陛下のご負担を、少しでもいいから軽くしたいと思っている。
 あの方に恋をしてからずっと、私はあの方の力になるために様々な努力をしてきた。彼のために行動できる機会を色々想定して、自分を磨いた。
 その成果をかす時が来たのだ。
 私はこの後宮で、きっと陛下の力になってみせる!
 そう心の中で意気込んでいた私に、女官長が三人の侍女を紹介してくれる。
 彼女たちはそれぞれ緊張した面持おももちで頭を下げた。
 三人とも素直で、一生懸命仕事をしてくれそうな印象だ。私はひとまず安心した。
 女官長は、見ている者をほっとさせるような笑みを浮かべていて、好感が持てた。後宮を統括している彼女は、妃たちの住まう部屋の準備、妃に仕える侍女たちの手配や教育といった様々な仕事をしている。また王宮と後宮をつなぐ重要な役割をになっていて、豊富な人脈を持つ。

「お部屋にご案内いたします」

 女官長がそう言って歩き出した。
 後宮は王宮と同様、外観も内装も白で統一された美しい建築物だ。王宮の敷地内にあり、王宮の入り口からもっとも遠い位置にあった。
 男子禁制の女のそのである。一部の特例を除いて、男は入ることすらできない。
 妃として後宮に入ると、外部との接触はいちじるしく制限される。手紙は中身を確認され、出入りには事前に申請が必要だ。外出の審査はとても厳しく、妃たちはほとんど後宮の外に出ることがない。
 そのため、後宮内は妃たちを退屈させないようにと趣向しゅこうがこらされており、庭園も綺麗きれいに整備されていた。たいてい一年もしないうちに正妃と側妃そくひが正式に決まり、他の妃たちは家に帰されるので、こうして工夫してあれば特に不満も出ないのだと聞く。
 後宮は四階建てのようで、私は一番上の階の豪華な部屋に通された。

「レナ様には、この睡蓮すいれんの間をご用意いたしました。では、私は失礼します」

 女官長はそう告げて、その場をした。
 部屋の名前を聞いて、昔後宮にいた伯母様から聞いた話を思い出した。そのころと変わってなければ、この部屋は後宮の中で二、三番目に広いはずだ。侯爵家令嬢という私の身分を考えて割り当てられているのだろう。
 私は自分に与えられた部屋の中を見回す。
 後宮に来る前に、必要な家具や調度品の希望を伝えて、自分好みの部屋に整えてもらっている。
 私が事前に運び込むようお願いしていた荷物もきちんと置いてあった。
 部屋の中を見回して満足した私は、椅子いすに腰かけて、これからなにをするべきか思考を巡らすことにした。


 後宮のあるじであるアースグラウンド様は、今年二十歳になる。
 彼は即位してまだ五ヶ月だけれど、既に正妃や側妃そくひの候補として、それなりの数の令嬢が後宮に入っているはずだ。
 この国では、王太子になればいつでも後宮に妃を集められるようになる。けれどたいていは、王位を継いでから正妃を選ぶものだ。
 正妃と同時に側妃そくひを選ぶ場合もあれば、生涯側妃そくひを持たない場合もある。側妃そくひが必要になった時に、また後宮に妃を集めることもあった。
 今回は前王が急に亡くなられたため、陛下が即位されるとともに慌てて令嬢たちを集めることになった。
 私は陛下のことを心からおしたいしている。どんな形でもいいから陛下のためになりたいと、ずっと考えていた。
 折角せっかく妃になれたのだから、後宮にいるからこそできることをしようと思っている。
 そんな私が、まずするべきことは……
 考えがまとまると、私は彼女たちに指示を出す。

「チェリ、カアラ、メル、貴方たちは後宮を見てきてちょうだい」

 これは情報収集をお願い、という命令である。彼女たちとは十年近い付き合いだから、これだけ言えば私の意図をきちんと理解してくれる。もちろん、私の侍女たちが優秀だというのもあるのだけど。
 情報とは武器である。特に女の戦場ともいえる後宮では、どんな些細ささいな情報でも必要だ。
 後宮に入る前にも情報収集をしてみたけれど、外から後宮内の事情を探るのは簡単なことではなかった。後宮がひらいてまだ日が浅いのもあって、詳しい情報は集められていない。
 私が知っているのは、昔後宮に入っていた伯母様から聞いた話や、噂話ぐらいだ。
 なにをするにしても、まず後宮の現状を把握しなければ。

「わかりました。レナ様」
「行ってまいります。レナ様」
「では、レナ様のことを頼みますよ。フィーノ」

 三人はすぐさまそう言った。

「ええ、レナ様のことは任されました」

 お留守番のフィーノは私のそばに立ち、満面の笑みでうなずく。フィーノはいつもにこにこしている陽だまりのような子だ。背が高くて、力持ちで、だけど女性らしい。藍色あいいろの髪を腰まで伸ばしていて、夜色の瞳を持っている。
 彼女がうなずいたのを合図に、チェリたちは部屋を出ていった。

「それから、誰か二人でディアナ様のもとへ手紙を届けてください。手紙はいまから書きますわ」

 次に、新しい侍女たちにそう指示を出す。

「は、はい」
「わかりました」

 侍女たちは緊張した様子で答えた。
 手紙を届けるのに二人で行かせるのは、不測の事態に備えてのことだ。
 後宮は様々な陰謀が渦巻うずまく場所で、ライバルを排除しようと妃同士で嫌がらせし合うのは当たり前。ひどい時には暗殺事件なども起きるのだ。
 後宮に入ってすぐになにかを仕掛けられることはないと思うけど、手紙を奪われるくらいのことはあるかもしれない。実家から連れてきた侍女たちならばそういうことにも対処できるけれど、この子たちでは難しいだろう。
 私が手紙を出したい相手――ディアナ様は、王家とつながりのある公爵家の令嬢だ。先代国王の弟君の娘で、陛下の幼馴染おさななじみでもある。
 彼女の実家であるゴートエア公爵家は、陛下からの信頼が厚い。若くして王位を継いだ陛下の後ろ盾になり、足固めを手伝っている。
 私が陛下の役に立つためには、ディアナ様と良好な関係を築いておくべきだろう。
 それに、彼女は後宮で一番地位の高い方だ。だから私から挨拶あいさつを申し出るのは当然のことだ。
 逆に他の妃たちは私よりも地位が低いので、向こうから挨拶あいさつしに来てもらわなければならない。こちらからおもむけば、私がめられる原因になる。そんな事態はごめんだ。陛下のために行動するのが難しくなってしまう。

「あの、私はなにをすればいいのでしょうか」

 用を言いつけなかった侍女が口をひらいた。そんな彼女に微笑んでお願いする。

「それじゃあ、手紙を書くための紙とペンを用意してもらえるかしら」
「はい、わかりました」

 仕事を頼むと、彼女は嬉しそうに笑った。
 持ってきてもらった紙に、簡単な挨拶あいさつと、お茶をご一緒したいむねを書いた。マナーとして、ディアナ様を褒めたたえる言葉ももちろん書く。
 私は社交界デビューしたばかりで、いま後宮にいる妃たちとは直接話したことがない。
 だからディアナ様と会うのも初めてだった。
 陛下の幼馴染おさななじみに会えるのだと思うと心がはずむ。
 思わず笑みをこぼしたら、フィーノに「落ち着いてください」と小声で言われた。
 手紙を書き上げると、侍女の二人に渡す。それを届けてもらっている間に、フィーノにお茶とお菓子を用意してもらった。
 その後、二人が帰ってきてディアナ様からの返事を渡してくれた。その手紙には、明日の午後一時にディアナ様の部屋でお茶するのはどうか、といったことが書いてある。
 明日ディアナ様に会いに行くなら、その準備をしなければならない。その他にすべきなのは、チェリたちが持ってくる情報をまとめることと、こちらに挨拶あいさつに来る妃たちの対応だ。
 そう思っていたら、早速面会を申し込む手紙が届き始めた。今日中に彼女たちと会えるように、すぐに返事を出す。
 しばらくすると、部屋をノックする音が聞こえた。フィーノが扉を開けると、妃の一人が入ってくる。

「レナ・ミリアム様、これからよろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします」

 挨拶あいさつにやってくる妃たちの本心なんてわからない。ただ、事務的なやり取りを交わす。
 そうして他の妃たちとの面会を終えた頃、チェリたちが帰ってきた。

「レナ様、後宮内を見て回ってきましたわ」
「お疲れ様」

 戻ってきた侍女たちにねぎらいの言葉をかけると、新しい侍女三人に言った。

「貴方たちはこれを片づけてください」

 彼女たちを部屋から出ていかせるため、お茶の片づけを命じる。三人はいい子たちに見えるけれど、まだ信用はできない。
 彼女たちが出ていったのを確認して、私は帰ってきたばかりの三人に指示を出す。

「まず、カアラは後宮の見取り図を描いてくれる?」
「はい。了解しました。レナ様」

 彼女はうなずいて作業を始めた。

「じゃあ、他の二人は後宮内で集めた情報を教えてね」
「はい、レナ様」
「わかりました。レナ様」

 チェリとメルは嬉しそうに笑って返事をすると、私に向かって報告を始めた。

「まずは、レナ様が面会なさいますディアナ・ゴートエア公爵令嬢についての情報を、最優先で集めてきました」

 そう言ったのはチェリである。真紅しんくの髪を一つに結んでいて、目の色は私と同じ茶色。私より二つ年上で、頼りになる侍女だ。
 続いてメルが、ディアナ様について語ってくれる。

「ディアナ様の様子をこっそりうかがってきたのですが、素晴らしい方に思えましたわ。社交界での評判通り美しく、それでいてできた方ですね。侍女への気配りもきちんとなさっていましたわ」

 メルは私より四つ年上で、濃い茶色の髪を二つに結んでいる真面目な子。
 そんなメルの言葉に、チェリもうんうんとうなずいて言った。

「他の侍女達からの評判もよかったですわ。あのような方に仕える侍女たちは幸せでしょう。あ、もちろん、レナ様に仕えるほうが私にとっては幸せですわ!」
「私もですわ。可愛いレナ様のそばに控え、お守りすることができて嬉しく思いますわ」

 彼女たちは優秀で、私の欲しい情報をきちんと届けてくれる。でも、報告の際にこうして脱線して、私の話になることがあった。『可愛い』なんてあるじに言う言葉ではないけれど、彼女たちとはおさない頃から一緒に育ってきたこともあり、いつもこの調子なのだ。
 相変わらずの様子に、私は笑ってとがめる。

「もう、私のことはいいから報告を続けてちょうだい。二人が私のことをそんな風に言ってくれるのは嬉しいけれど、いまは報告を聞きたいわ」

 彼女たちのまっすぐな思いは心地よくて好きだ。両親や、お兄様が私に向けてくれるような、家族愛にも似た愛情を持ってくれて嬉しい。
 私だって、侍女たちのことが大好きだ。血のつながりはないけれど、私にとって家族のような存在。だから後宮に彼女たちがついてきてくれて、本当に心強い。

「はっ、すみません。レナ様」
「すみません、続きを報告させていただきます」

 二人はそう言って、報告に戻る。

「ディアナ様は陛下の幼馴染おさななじみで仲が良いということでしたが、調べてみたところ、陛下はディアナ様のもとへは通われていないようなのです」
「陛下が通っていない?」
「そうなのです。他の妃たちのもとには、後宮入りした日に必ず訪れていらっしゃるようですのに、ディアナ様のもとには一度も訪れていないとか」

 私はそれを聞いて驚いた。
 この国では、後宮に多くの令嬢を妃として招く。そして集めた妃の中から、正妃にする者を選ぶのだが、その過程で、妃たちと体の関係を持つのが通例だ。
 正妃が決まる前に誰かが妊娠すれば、その妃は正妃か側妃そくひになる。陛下が望めば妃を降嫁こうかさせ、子供だけを王宮に置くこともあるけれど、そういうことはあまりない。
 ちなみに、正妃や側妃そくひに選ばれなかった妃は家に帰されるが、それは令嬢たちにとって不利益にはならない。処女ではなくなっていても、高貴な血の流れる王族の手がついていることは逆に名誉なこととされている。
 だから、一度も陛下のお渡りがないということは、ディアナ様の評判を傷つける。
 それは陛下もディアナ様もわかっているだろう。
 私は、陛下がディアナ様のもとへ頻繁ひんぱんに通っていると思っていた。少なくとも彼女が恥をかかない程度には通っていて当然だと思う。
 恋愛感情があるかないかは別として、ディアナ様と陛下の仲が良いことは、社交界でもよく噂になっている。だから、陛下にとってディアナ様は、共に過ごしていて居心地のいい相手なのだろうと思っていた。
 ところが、陛下はディアナ様のもとへ通っていないという。なにか理由があるのだろうか。
 その後の侍女の話によると、陛下は王位を継いで間もないこともあり、後宮の管理までは手が回っていないようだった。とはいえ、妃たちの実家に配慮して、夜に彼女たちのもとを訪れてはいるそうだ。
 それが本当だとすると、ますますおかしい。陛下が理由もなしに幼馴染おさななじみであるディアナ様の評判を傷つけることはないはずだ。
 とはいえ、私は陛下と親しいわけではない。公式の場でお会いする時以外は大して接点もない。そんな私が勝手に決めつけるのは、陛下に対して失礼だろう。

「そのことについては詳しく調べていきましょう。なにか理由があると思うのよ。だから、よろしくね」
「はい、もちろんです。レナ様」
「レナ様のためなら頑張って調べてきますわ」
「ありがとう。じゃあ、他の方々の情報もくださる?」

 そう言うと、彼女たちは他の妃について報告してくれた。
 現在後宮入りしているのは、私とディアナ様以外に豪商の娘が一人、伯爵令嬢が二人、子爵令嬢が三人、男爵令嬢が三人だ。
 後宮に入るには、いくつか条件がある。
 一つは、それなりの身分であること。実際に後宮に入るのは貴族の娘がほとんどなのだが、中には豪商のように平民ながら力のある家の娘が妃となるケースもある。
 二つ目は、婚約者や配偶者がいないこと。歴史を振り返れば、婚約者や配偶者のいる女性に目をつけた王が、無理やり後宮に召し上げたこともあるそうだが、近年はあまりない。
 三つ目は、陛下と年齢が近いこと。陛下と歳が離れすぎていると、正妃に適さないと見なされるのだ。歳が近くても陛下より年上の令嬢はほとんどが結婚しているため、今回集められた妃はあの方より年下の娘ばかりだ。
 これらの条件に合致する令嬢には、後宮に入るよう勅令ちょくれいくだる。
 そして、準備が整った者から順に後宮入りしていく。

「伯爵令嬢であるリアンカ様とベッカ様は、互いに敵対しているという話ですの。なんでも、ディアナ様が正妃になることはないと馬鹿にしているようで、二人で正妃の座をきそっているみたいですわ。互いに相手を排除しようと動いているようです。彼女たちは他の妃へのいじめもおこなっていると聞きました」

 メルがそう言った。

「公爵令嬢で、陛下の幼馴染おさななじみでもある方を馬鹿にするなんて、おろかね」

 正直、そんな感想を抱いてしまった。陛下のお渡りがないとはいえ、ディアナ様は社交界で非常に評判のいい公爵令嬢だ。美しく、気品に溢れた完璧な方を、たったそれだけのことで見下すなんて浅はかだと私は思う。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。