上 下
125 / 127
第3章 エルフ大公国を襲う悪意!

第43話(累計・第124話) クーリャ116:頑張るわたし! だって皆を不幸から守りたいんだもん!

しおりを挟む
「そんなに急に社会を変えようとするから悲劇は起きてしまうのです。確かに世の中には間違った事は沢山あります。それでも、世の中を恨んでしまうのは間違ってますの!」

 わたしは、ニーニエルさんに説法をする。
 ニーニエルさんが行おうとしている行為は、彼女と同じ不幸な子供を生み出すと説明すると、彼女は矛盾に気が付き、深く苦悩したから。
 そのままでは、誰も救えない。
 だから、わたしは少しでもよりよい世界をつくるために提案する。

「では、どうすれば良かったのぉ! 何の力も無いわたしは、苦しんで死ねと言うのぉ!」

 ……良い傾向ね。このまま説得して投降してもらうの。それがこれ以上、誰も悲しまないもん。

 わたしの話に耳を貸しだしたニーニエルさん。
 ここから、最後の説得に向かうわたし。

「いいえ。誰しも幸せになる権利はあります。もちろん他者の幸せを踏みにじって得る幸せには、何の価値もありません。ニーニエルさんのような小さな声、しかし強い思いを社会に伝える仕組みが必要なのです。そうですわよね、大公様」

「あ、ああ。クーリャちゃん、いえ、クーリャ殿の言う通りです。今までの政治形態では、一部の貴族の意見だけが通り、多くの国民の願いが踏みにじられていました。それを打開する方法を現在、私は考えています」

 わたしは、うまく話を大公様に振る。
 ちょうど、わたしのアイデアを取り入れて大公様は改革をしようとしている。
 そこに話を繋げれば、説得の成功率も上がる。

 ……ここまでお膳立てしたんだから、大公様。後は頑張ってね。

「それは一体どんな方法なのですか、大公様?」

「まだ確定ではないけれども、選挙を使って一般国民の間から国の運営に携わる人、議員を選ぼうと思っています」

 大公様は、冷静にニーニエルさんに話しかけている。
 また、ニーニエルさんも先ほどよりは落ち着いて話を聞けている。

 ……ちゃんと大公様に敬語付きでお話出来ているものね。この隙に、キュルヴィさんの容態を確認するの!

 わたしは、ニーニエルさんからの視線が外れたのを確認して、まだ処置が行われているキュルヴィさんの元へ向かった。

「どんな容態でしょうか、シルヴァリオ様?」

「まったくクーリャ嬢ちゃんは何を言い出すか分からんよ。敵を簡単に倒してみたり、倒した敵を助けてと言ってみたり、自分を殺しに来た敵を説得したり……」

 手を血に染めながら、わたしに苦言を言うシルヴァリオ様。

「クーリャ姫様が意味不明なのは、今に始まった話でも無いですわね。今回も意図があっての事でしょうし。多分ニーニエルさんの説得をするためでしょう」

「ワシ、この歳になってワクワクが止まらんぞ! こりゃ、毎日がイベント続きなのじゃぁ!」

「クーリャちゃんってば、非情な事を口で言いながら、無茶苦茶甘いもん。でも、ボク大好きだよ!」

 全員が全員、苦笑しながらわたしに文句を言う。
 でも、その笑顔にわたしは助けられる。

「いつも無理言ってごめんなさい。でも、このまま悲劇に終わっては、世の中は何も変わらないと思ったのです。で、助かりそうですか?」

「まあ、もう大丈夫であろう。問題は出血量と動脈に突き刺さったままの弾丸だったからな。すぐに動けはしないであろうが、死は免れたと思うぞ」

 シルヴァリオ様は、手の上に摘出した弾丸を載せてわたしに見せてくれた。

「これは? なるほどです。別のターゲットに当たった弾が貫通変形して、その一部が彼に当たったのですね。それで、即死しなかったのでしょう」

 鉛製の弾丸は花が開くようにフラグメンテーション変形分裂しており、体内比較的浅い場所で停弾していた。
 しかし、本来の威力、7ミリ口径クラスの小銃弾であれば確実に一撃で断片化貫通し、即死するダメージを与えられる。
 たぶん、先にゴブリンに当たって、変形貫通し威力が半減した弾丸の一部がキュルヴィさんに当たったのだろう。

 ……この世界じゃ、ダムダム弾やホローポイント弾の軍用使用は禁止じゃないし。一撃必殺を狙うのは当たり前なの。

「姫様達、急に移動するのはおやめくださいませ。まだ危険でございます」

「えー、アデーレ。だって、もー大丈夫だろ? アタイ、クーリャが心配なんだから」
「そうなのじゃ! わらわもクーリャと一緒に居るのじゃ!」

 わたしがシルヴァリオ様から説明を受けていると、どやどやとダニエラとクラーラちゃんが、マスカーやアデーレさん、ゲッツを連れてこちらにやって来た。

「ダニエラ、クラーラちゃん。まだ危ないですよ。もー無茶しないでくださいませ」

「無茶はクーリャ様です! まったく一体どんだけ配下を心配させるんですか!?」
「ええ、ゲッツ殿が言ってましたが、クーリャ様を見ていたらドワーフ族でも早死にしそうです」
「もう俺、死にそうですよ、姫様!」

「ご、ごめんなさい。マスカー、アデーレさん、ゲッツ。わたくし、また考える前に突撃しちゃいましたぁ」

「今回は、緊急避難からでしたが、もう少し自らの安全を優先なさってくださいませ。そうそう、そろそろニーニエルさんを説得して、投降なさるようにお話しください。もう、この方は助かりましたから」

 先生は、手を血に濡らしながらも、温かい眼差しでわたしを見てくれる。

「はい。分かりましたの。ニーニエルさん、大公様とお話し中申し訳ありません!」

「忙しい時に何? わたし、今大事な話をしているの!」

 わたしは大きな声で、大公様と真剣に話し合うニーニエルさんに呼びかけた。

 ……あらあら。面白い結果になったのね。大公様とニーニエルさんが政治について、ちゃんと語り合っているの。

「そのお話は一旦その短剣を捨て、投降なさってからに致しませんか? 幸い、キュルヴィさん一命を取り留めましたよ。もう、戦う必要は何処にも無いんです」

「え、え、えぇぇぇ。キュ、キュルヴィは生きているのぉ!」

「はい。危ないところでしたが、弾の当たりどころが良かったので、なんとか助かりました。お二人には、この先お話を聞く事がたくさんありますが、まずは武器なんて捨ててゆっくり話し合いませんか?」

「よ、良かったぁ。うわぁぁぁ!」

 わたしが、キュルヴィさんの方を指し示し、彼が息をしていることを見せるとニーニエルさんは、カタンと短剣を取り落としてキュルヴィさんへと駆け寄った。

「生きてる。生きてるのぉ!」

「ええ。世界最高峰の魔法使い2人、そして優秀なわたくしの先生と友達が頑張ったのですから、当たり前です」

 おもわずドヤ顔で仲間自慢をしてしまう、わたし。
 大きな声で泣きながらキュルヴィさんにそっと抱き着き、彼の血染めの顔を拭うニーニエルさん。

「あ、ありがとう。ありがとう」

「いえいえ。先に彼を撃ってしまったのは、わたくしです。事情があるのなら、なんとかするのも考えます!」

  ◆ ◇ ◆ ◇

 こうして、大公様暗殺未遂事件は、無事解決をした。
 大人しくなったニーニエルさんは大公様に投降し、同じく逮捕保護されたキュルヴィさん共々城内の隔離室へと収監された。
 その後、意識を取り戻したキュルヴィさんは、看病をしていたニーニエルさんから詳しい話を聞き、2人とも助けてもらった事を感謝して、すべてを自白した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。 そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。 冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

1964年の魔法使い

鷲野ユキ
ファンタジー
オリンピックにかこつけたファンタジー

処理中です...