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第3章 エルフ大公国を襲う悪意!

第21話(累計・第102話) クーリャ94:寝込んでしまったわたし。弱音は吐いていられないの!

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「クーリャ姫様、もう大丈夫なのですか?」

「ご心配頂き、ありがとう存じます、先生。ゴブリンに襲われていた方々が動き始めていますのに、少し戦っただけのわたくしが寝込んでも居られません」

 わたしは、2日ぶりにベットから起きだした。

 ゴブリン討伐戦直後、わたしは発熱をして寝込んでしまった。
 そんな状態のわたし、そしてゴブリンによる被害者達を放置はできないと、この地域、モスラヴィナ領の領主が動いてくれた。
 彼の名は、モスラヴィナ子爵エフセイ・アナトリエヴィチ・ブルラコフ。

 討伐隊から緊急連絡を受けた子爵様は、大量の馬車及び兵団をゴブリンの巣だった遺跡に送り、半分は遺跡の追加調査及びゴブリンの殲滅確認。
 半分を被害者達の回収、そのまま領地内にある神殿付属の孤児院や医療施設へと収容した。

 わたしに関しては、ゴブリン討伐の立役者&大恩人扱いをしてくれた。

「本当に姫様が倒れられた時は、びっくりしました。やはり、ご無理なさっていましたのですね」

「先生にも、ご迷惑をお掛け致しました。慣れない運転、大変でしたよね」

「いえいえ。自分で運転することで、姫様が楽しそうに運転なさるのを理解出来ました。もし良ければ、わたくしも一台欲しいくらいです」

 わたしが倒れたことで、テストゥード号を動かせる人が居なくなってしまった。
 ゲッツも運転自体は可能だけれども、領主館まで運転する程の魔力量余裕は無い。
 そこで、時折運転練習をしていた先生がハンドルを握り、寝込んでいたわたしを後部座席に乗せ、そして容態が芳しくなく急を要する被害者を後ろの荷馬車キャリーに乗せ搬送した。

「では、またゲッツの仕事に余裕が出来ましたら頼んでみますね。これでウチではモーターライズ改革が起きそうですわ」

 寝込んでいる間、わたしは血まみれになったゴブリン達の夢を見てうなされた。
 わたしの銃撃で頭部が破裂したホブゴブリンが、恨めしそうにわたしを見るのが怖かった。

 ……司祭を事故気味に殺したのと違って、今度は望んで殺したからかなぁ。なまじヒト型生物だから、罪悪感あるの。でも、あそこで倒しておかないと被害者がたくさん出ちゃうから、引き金を引いた事は後悔ないわ。

 口では非情な事、大きな事を言っても、わたしはか弱い11歳の女の子。
 殺す、殺されるのきわになってすら、相手を殺す事に躊躇ちゅうちょしてしまう。

「姫様、まだお顔が青いですわ。ご無理なさらないでも良いのですよ」

「本当にありがとう存じます、先生。わたくし、大きな事を言っていても、殺し合いになってすら相手を殺すのが嫌なのです。実は殺したゴブリンの悪夢に悩まされていますの」

「それは、しょうがないですわ。わたくしも、数少ないとはいえ、この手を血に染めています。最初に殺した相手の顔は、今も忘れられません。ですが、後悔はしていません。なぜなら、そうしないと今わたくしは生きていません。そして姫様達を守る事は出来ませんもの。お優しい姫様、貴方様がこれ以上手を血に染めることは無いのです。これは、側仕えたるわたくし達の仕事ですから」

 先生は、わたしの事を心配してくれ、もう殺さなくても良いと言ってくれる。

「いえ、そういう訳にはまいりません。先生やマスカー達は、言わばわたくしの『手』。『手』が血に染まるのを『頭』が否定しては駄目です。今後も、わたくしは誰かを守るために血塗られた道を進むでしょう。全員で笑って昔話が出来るようになるまで、戦い抜きます! 仲間を誰一人失わさせません。全て、わたくしが守るのです!」

 この世界に爆裂令嬢ボンバーガールとして生まれ変わった時点から、わたしの進む道は血塗られたものになる。
 犠牲を最低限にしていく為にも、こんなところで立ち止まっては居られない。
 誰一人、仲間を失うような事には絶対させない。

「姫様……。なんてお優しくてお強いのでしょうか。わたくし達仕える者達の事を仲間と言って下さり守ってくださるなんて……」

「だって、こんな暴走娘を大事に愛してくださるのは、先生達とお父様、お母様くらいですものね」

「姫さまぁ……」

「くっ。このような姫様に御仕え出来て、騎士として名誉でございます」

 わたくしが後ろを振り返りながら、背後にいるカティやマスカーにも言葉をかける。
 すると先生含めて3人は泣きそうな顔をしていた。

 ……こちらこそ感謝なの! さあ、気合い入れて頑張るの! まだ、今回の旅は本題に入っていないものね!

◆ ◇ ◆ ◇

「モスラヴィナ子爵様、今回は色々とお世話になりました」

「いえいえ、クーリャ様がいなければ討伐隊は全滅。更にゴブリン被害が増大していた事でしょう。こちらこそ感謝しております」

 今、わたしはダニエラやエル君と一緒に子爵、エフセイ様と歓談をしてる。
 わたしは、エフセイ様に寝込んでいた間の面倒を見てくれた事の礼を言った。
 白いお髭の好々爺に見えるエフセイ様、まるで孫娘を見るような優しい眼差しで、わたしを見てくれる。

「わたくしこそ、余所者で幼き者であるのに、勝手に戦闘指揮までしてしまい申し訳ありませんでした」

「いえ、その指揮と数々の秘策や見たことも無い武具。そのおかげでこちらは最小限の被害で、ゴブリン共を殲滅する事が出来ました。逆にどうやったら、貴方様の幼さでそこまで優秀なのか、教えて頂きたいものです」

 ……あちゃー! また今回もやりすぎちゃったの。でも、ああしないとマジ全滅だったよね。あのゴブリンキング、強かったし。

 毎度、自分の秘密を自ら暴露する様に動いてしまうわたし。
 今回も、やっと動けるようになった昨晩に、魔法通信札ごしにお父様からみっちりとお小言を頂いた。

「そ、そこの辺りに関しましては父と相談しまして解答したいと思いますぅ」

「あ、突っ込んだ話をしてしまい、すみません。クーリャ様の事情は、男爵様からある程度聞いています。当方としては、勝利の女神を決してないがしろに致しません」

 元々王都で事務方をしており、引退後に自領に戻った子爵様。
 お父様とも面識があった様で、どうやら最悪の事態は免れた様だ。

 ……平民の被害者救済に迅速に動く方だから、どこかの公爵様みたいな事は無いよね。まあ、技術供与くらいはしてあげたら大丈夫かな?

「でしたら、今後とも宜しくお願い致しますの。さて、今回のゴブリン大繁殖、不自然ではなかったですか? あまりにゴブリン達の装備が良すぎますの」

「クーリャ様も気が付きましたか。ええ、ゴブリンのサイズに合わせた武具など、普通あり得ません。彼らは物を作る知恵はございませんが、略奪する知恵はあります。通常は略奪物を使用するのですが、それにしては装備のサイズがあまりにぴったりですし、かなり上質なものが多かったです」

 どうやら、今回のゴブリンスタンピードには裏がありそうだ。
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