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第2章 ドワーフ王国動乱!
第30話(累計・第69話) クーリャ62:悪は闇の中でうごめく。クーリャに迫る恐怖!
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時間は少し遡る。
ここは、ドワーフ王国王都にある商業地域。
夕焼けの街、その中にある比較的大きな商家、そこの二階から少年の叫び声が聞こえる。
「ちきしょー。あのメスちびガキに、またしてもやられたー!!」
少年は周囲の家具・食器に八つ当たりをし、床には割れたガラスや皿、カップ等が転がる。
「アントニー様、落ち着いてくださいませ。既にここも敵にバレております。迂闊に騒ぐと、敵に攻め入る口実を作ってしまいます」
既に老齢に入った白髪の側仕えが、室内で暴れまわる少年、キリキア公爵家次男アントニーを落ち着かせようとしている。
「何が落ち着けだ! どうせ、メスちびガキの事だ。俺をバカにして笑い転げているに違いない。俺を捕まえる気なら、こんな封書を送ってはこまい。だからこそ、逆にバカにされている様で腹立たしい!!」
少年の手には植物紙で作られた封筒があり、鷹と剣を組み合わせたニシャヴァナ男爵の紋章が押し付けられた蜜蝋封印が砕けたものが見える。
封筒の中には、おそらく女性の字で「御痛は駄目ですよ!」とだけ書かれている。
「お、おそらくですが、今回の事案が公になった場合、ドワーフ王国とロマノヴィッチ王国が戦争になる可能性があります。ですので、この程度の警告で済んだのではないかと。不幸中の幸いにもドワーフ王は健在ですし……」
「何ぃ!! つまり、俺が上手くやらなかったから、王は死なずに済んで大事にならなかったとでも言うのか! それこそ、俺に対する侮辱だ! ちきしょー、また父上や兄上にバカにされてしまう!」
更に激高し、机を激しく叩くアントニー。
今回のドワーフ王暗殺という策略、実は公爵としては上手くいこうが失敗しようが大して意味がないもの。
ニシャヴァナ男爵への攻撃が封じられ、他にすぐ動ける案件がこれだけだったから動いたに過ぎない。
もっと長期的な計画、いずれは王になり替わる事をも考えている公爵にとっては、小さな策略の成否に大した意味は無い。
成功してドワーフ王が死に、ドワーフ王国内が乱れれば、そこへの出兵を公爵が主体になる。
策略が失敗し、ドワーフ王国との戦争になった場合でも、それは同じこと。
公爵という立場を利用して、そう簡単な事では身分はく奪も無いうえに、罪にも問われない。
そしてゴーレム軍団という、王国最強の軍事力を持つ以上、王も公爵には迂闊な事は言えない。
世界に戦乱が吹き荒れれば「王国の剣」たる自分の出番であり、武勲を上げることで地位の更なる向上、派閥の増大化を狙い、最終的に王国を簒奪することまで考えていた。
なので今回は経験を積ませる為に、まだ幼いアントニーに自分の側近を付かせて策略を行わさせてみた。
それは、このところクーリャに負け続けているアントニーへの気分転換かつ自信を持たせる意味もあったのは、公爵の貴族らしい父の愛だ。
だが、それもこれも全てクーリャが台無しにした。
アントニーから見れば、クーリャは疫病神。
彼女と関わりだしてから、何もかもが上手くいかない。
もともと優秀な兄と絶えず比較されてきたアントニー、このままでは家督、公爵家も兄の物。
この先には分家、おそらく子爵として、今より格下になるのが我慢できない。
日頃からメイドや下働きの者をいじめ倒し、死ぬ寸前まで追い込んで楽しみ、傷つき歪んだプライドを慰めていたのに、それすらも難しくなる。
「なんで、いつも! いつも!! 俺の前にあのメスちびガキが出てくるんだ! またアイツが全部台無しにしやがったぁ!」
ドワーフ王暗殺の為に送り付けていた公爵お抱えの毒師イゴーリ、そして城内の情報収集及び情報かく乱用の「草」として送っていた者達。
彼ら全員が捕縛され、なぜか城内にいた王立魔法学院の学院長に身柄を確保されてしまった。
「あのイゴーリとかいうやつ、父上が自慢していたやつだろ? 一滴で人が死ぬ毒を作ったとか、徐々に人を弱らせる誰も知らない毒を使うとか。どうして誰も知らないはずの毒がバレたんだぁ! まさか、またあのくそメスちびガキの仕業かぁ!!」
「城内の『草』が全滅しましたので、情報としては酒場の噂レベルですが只人の令嬢が王を救ったみたいな話があるらしいので、おそらくは……」
本来であれば公爵の筆頭側近である側仕えの老人、今回はアントニーの補佐として動いていたが、三度クーリャが計画の邪魔をした。
クーリャはまだ11歳程度の女児で、本来は無力で無知な存在。
しかし、彼女が動くたびに公爵が行っている策略がすべて潰される。
……一体、クーリャ様とは何者なのでしょうか? とてもアントニー様と同い年のお子様とも思えません。
幼子のように駄々を捏ねるアントニーを見ながら、脳内で婚約会見の際に見たクーリャと比較して思わずため息を付いてしまう老側仕えだった。
「アントニー様、このままでは御身も危険になります。早急な撤退を進言致します」
「俺におめおめと逃げ帰ろとでも言うのか! それでは気が済まぬ。あのメスちびガキに痛い目を見せてやらんと……。そ、そうだぁ!」
アントニーは、その年齢に似合わぬ暗闇を思わせる邪悪な笑みを浮かべた。
それは、長年荒事に係ってきた老側仕えすらも、ぞっとさせた。
「ここには、緊急事態用に大型ゴーレムが一体あったな。アレを起動させてメスちびガキをターゲットにして街中に放つんだ。そうすれば城下は大混乱になる。その隙に証拠隠滅を兼ねて屋敷に放火して逃げれば、ドワーフ共を混乱させるという名目は立つな。ははは!!」
狂気の笑いを放つアントニー。
その姿は、とても11歳の少年には見えない。
……公爵様。アントニー様は、もはや手遅れなのかもしれませぬ。
老側仕えは、仕える主君を誤った事を今更ながら思った。
ここは、ドワーフ王国王都にある商業地域。
夕焼けの街、その中にある比較的大きな商家、そこの二階から少年の叫び声が聞こえる。
「ちきしょー。あのメスちびガキに、またしてもやられたー!!」
少年は周囲の家具・食器に八つ当たりをし、床には割れたガラスや皿、カップ等が転がる。
「アントニー様、落ち着いてくださいませ。既にここも敵にバレております。迂闊に騒ぐと、敵に攻め入る口実を作ってしまいます」
既に老齢に入った白髪の側仕えが、室内で暴れまわる少年、キリキア公爵家次男アントニーを落ち着かせようとしている。
「何が落ち着けだ! どうせ、メスちびガキの事だ。俺をバカにして笑い転げているに違いない。俺を捕まえる気なら、こんな封書を送ってはこまい。だからこそ、逆にバカにされている様で腹立たしい!!」
少年の手には植物紙で作られた封筒があり、鷹と剣を組み合わせたニシャヴァナ男爵の紋章が押し付けられた蜜蝋封印が砕けたものが見える。
封筒の中には、おそらく女性の字で「御痛は駄目ですよ!」とだけ書かれている。
「お、おそらくですが、今回の事案が公になった場合、ドワーフ王国とロマノヴィッチ王国が戦争になる可能性があります。ですので、この程度の警告で済んだのではないかと。不幸中の幸いにもドワーフ王は健在ですし……」
「何ぃ!! つまり、俺が上手くやらなかったから、王は死なずに済んで大事にならなかったとでも言うのか! それこそ、俺に対する侮辱だ! ちきしょー、また父上や兄上にバカにされてしまう!」
更に激高し、机を激しく叩くアントニー。
今回のドワーフ王暗殺という策略、実は公爵としては上手くいこうが失敗しようが大して意味がないもの。
ニシャヴァナ男爵への攻撃が封じられ、他にすぐ動ける案件がこれだけだったから動いたに過ぎない。
もっと長期的な計画、いずれは王になり替わる事をも考えている公爵にとっては、小さな策略の成否に大した意味は無い。
成功してドワーフ王が死に、ドワーフ王国内が乱れれば、そこへの出兵を公爵が主体になる。
策略が失敗し、ドワーフ王国との戦争になった場合でも、それは同じこと。
公爵という立場を利用して、そう簡単な事では身分はく奪も無いうえに、罪にも問われない。
そしてゴーレム軍団という、王国最強の軍事力を持つ以上、王も公爵には迂闊な事は言えない。
世界に戦乱が吹き荒れれば「王国の剣」たる自分の出番であり、武勲を上げることで地位の更なる向上、派閥の増大化を狙い、最終的に王国を簒奪することまで考えていた。
なので今回は経験を積ませる為に、まだ幼いアントニーに自分の側近を付かせて策略を行わさせてみた。
それは、このところクーリャに負け続けているアントニーへの気分転換かつ自信を持たせる意味もあったのは、公爵の貴族らしい父の愛だ。
だが、それもこれも全てクーリャが台無しにした。
アントニーから見れば、クーリャは疫病神。
彼女と関わりだしてから、何もかもが上手くいかない。
もともと優秀な兄と絶えず比較されてきたアントニー、このままでは家督、公爵家も兄の物。
この先には分家、おそらく子爵として、今より格下になるのが我慢できない。
日頃からメイドや下働きの者をいじめ倒し、死ぬ寸前まで追い込んで楽しみ、傷つき歪んだプライドを慰めていたのに、それすらも難しくなる。
「なんで、いつも! いつも!! 俺の前にあのメスちびガキが出てくるんだ! またアイツが全部台無しにしやがったぁ!」
ドワーフ王暗殺の為に送り付けていた公爵お抱えの毒師イゴーリ、そして城内の情報収集及び情報かく乱用の「草」として送っていた者達。
彼ら全員が捕縛され、なぜか城内にいた王立魔法学院の学院長に身柄を確保されてしまった。
「あのイゴーリとかいうやつ、父上が自慢していたやつだろ? 一滴で人が死ぬ毒を作ったとか、徐々に人を弱らせる誰も知らない毒を使うとか。どうして誰も知らないはずの毒がバレたんだぁ! まさか、またあのくそメスちびガキの仕業かぁ!!」
「城内の『草』が全滅しましたので、情報としては酒場の噂レベルですが只人の令嬢が王を救ったみたいな話があるらしいので、おそらくは……」
本来であれば公爵の筆頭側近である側仕えの老人、今回はアントニーの補佐として動いていたが、三度クーリャが計画の邪魔をした。
クーリャはまだ11歳程度の女児で、本来は無力で無知な存在。
しかし、彼女が動くたびに公爵が行っている策略がすべて潰される。
……一体、クーリャ様とは何者なのでしょうか? とてもアントニー様と同い年のお子様とも思えません。
幼子のように駄々を捏ねるアントニーを見ながら、脳内で婚約会見の際に見たクーリャと比較して思わずため息を付いてしまう老側仕えだった。
「アントニー様、このままでは御身も危険になります。早急な撤退を進言致します」
「俺におめおめと逃げ帰ろとでも言うのか! それでは気が済まぬ。あのメスちびガキに痛い目を見せてやらんと……。そ、そうだぁ!」
アントニーは、その年齢に似合わぬ暗闇を思わせる邪悪な笑みを浮かべた。
それは、長年荒事に係ってきた老側仕えすらも、ぞっとさせた。
「ここには、緊急事態用に大型ゴーレムが一体あったな。アレを起動させてメスちびガキをターゲットにして街中に放つんだ。そうすれば城下は大混乱になる。その隙に証拠隠滅を兼ねて屋敷に放火して逃げれば、ドワーフ共を混乱させるという名目は立つな。ははは!!」
狂気の笑いを放つアントニー。
その姿は、とても11歳の少年には見えない。
……公爵様。アントニー様は、もはや手遅れなのかもしれませぬ。
老側仕えは、仕える主君を誤った事を今更ながら思った。
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