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第1章 爆裂令嬢、爆誕!!

第31話 クーリャ27:わたし、色々頑張る。御菓子作りも作戦なの! 

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「まだ、主犯は貴君で、誰からも頼まれていない。夜盗らを雇ったのも貴君だと言うのか?」

「ああ、そうだ。だから、早く俺を殺せ! こんな惨めな姿でいるなんて、真っ平だ!」

 今日もローベルトは、下半身不随になったヴァルラムの病室へ赴き、事情聴取を行う。
 しかし、ヴァルラムは頑として自分が犯人で公爵は関係無いと叫ぶ。
 そして、死なせろとばかりに飲食を行わない。
 既に水を飲まなくなって二日目、そろそろ危険な状態。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「マクシミリアン様、どうしましょうか?」

「そうだな。このまま死なれても困るが、何か無理にでも飲ませる方法は無いのか? クーリャ、君なら何か知っているかい?

 夕食後の一休み時間、家族とローベルト、デボラ、カティ、そしてゲッツを加えての今後の相談をしている。

「『アタシ』の世界ですと、点滴による輸液で血管、静脈に水分や栄養を送って命を長らわせる方法がありますの。でも、この世界では、ゴム管が入手できませんので、まだ難しいですわ。ちなみに同じ方法で輸血といって血液を分け与える事もできますの。もちろん血が似た型でないと身体の中で血が固まって大変な事になりますが」

「そんな方法があるんですか! 姫様は医学にもお詳しいとは興味深いです。しかし残念ですね。そのゴムとは、どんなものですか?」

 先生は、わたしの示した医療行為にびっくりの様子。

「『アタシ』の世界では南米、たぶんこちらでも南西の方角にある大陸の熱帯雨林で生えている木の樹液を固めたものです。柔らかさと弾力、ボヨンと弾む力が強い素敵な素材なんですよ。馬車の車輪にとかも使えて乗りごこちが格段に良くなりますね」

「ボヨン? それ、アタシ知っているかも!」

 皆にゴムを説明した時、何故かカティが食いついてきた。

「カティ、貴方はゴムの木を知っているんですか?」

「直接は見たことは無いですし、昔お父ちゃんに寝物語で聞いたくらいですぅ。確か、獣族の住む南の方にある木に傷をつけて出た樹液にお酢を加えると固まり、道具とかに塗ると滑り止めとか、雨具にもなるって言ってました」

 酸で固まる、雨具になるとは、まさしくゴム。

「それは、間違いなくゴムの木です! やったぁ、新大陸まで行かなくてもゴムが手に入るのぉ!」

「姫様、嬉しいのは分かりますが、飛び上がってはしゃぐのはハシタナイでございます。それに例えカティの話が事実だとしても、今からでは間に合いません」

「デボラ、ごめんなさい。そうですわよね。まず大事なのはヴァルラムが死なないようにする事ですから」

 ゴムの木発見があまりに嬉しくて飛び上がってしまったわたしは、デボラに怒られてしまった。

 ……ゴムの事は先送りなの。

「では、無理やりにでもヴァルラムに飲食をさせる必要がありますわね。ローベルト、彼には何か好きなものとかは、ありませんか?」

「そうですねぇ。実は彼は酒はあまり強くは無いですね。先日の決闘の原因になった時も、ほぼ素面でした。今思えば、自分は狙われていたんですね。あ! 確か甘いものが好きで王都の菓子店を巡ったみたいな話は聞いた事があります」

 ヴァルラムについて、少しでも情報が知りたいわたしは、ローベルトに話を聞いた。

 ……甘いもの好きってのは使えそうなの。菓子店を巡ったというのも良いわ。今の手持ちで、甘くてヴァルラムが食べた事が無いデザートって……! あ、あれ、作れるのぉ!

「うふふ、イイモノを思いつきましたのぉ!!」

「はぁ、姫様がその『悪い顔』をしたのは勝利のきっかけで良いのですが、とても男爵令嬢には見えないですよ」

「何か、またハシタナイ事になるんでしょうねぇ」

「アタシ、姫様の『悪い顔』も好きですぅ」

「なるほど、姫様が悪巧みをするのは、こんな感じかよ」

「自分も、巻き込まれるんでしょうねぇ」

 先生、デボラ、カティ、ゲッツにローベルト。
 彼らに何か好き勝手いわれている気がするけど、今は時間が大事。

「お父様、お母様、デボラ、先生。わたくしには策があるのですが、宜しいでしょうか? 大丈夫ですの、今回はお料理ですわ!」

「ああ、話を聞こう、クーリャ」

 お父様も、にやりと「悪い顔」でわたしに笑ってくれた。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「なんで、まだ俺を殺さないのか! 早く殺せ!」

 病床から毒づくヴァルラム。
 しかし水も2日間以上飲んでいないからか、声に力も無く肌もかさついている気がする。

「ヴァルラム! 今日は姫様も一緒だ。最後に何か言う事は無いのか!?」

「ヴァルラム。貴方はわたくしやお父様達を害しようとしました。貴方が主犯だと言っていますが、それが真実では無いのは、様々な証拠から明らかです。でも貴方は『あの方』に忠義を示しているのですね。それは立派だとは思いますの。しかし、あの方は貴方を切り捨て、更に侮辱なさりました。それでも良いのですか?」

「う、は、早く殺せ! もはや剣も握れぬ俺は生きていてもしょうがないんだぁ!」

 わたしが、淡々と事実を述べると、ヴァルラムは少し動揺をする。

 ……もう一押しかな?

「別にわたくしは、貴方に、『あの方』を裏切れとは言うつもりはありませんの。まずは生きてみませんか? ここで死ねば貴方は騎士の資格すら奪われ罪人として死ぬだけ。家族にも二度と会えず、汚名を聞かせるだけです」

「お、俺が生きていたって誰も喜ばない! それに、俺はもう何も出来やしない!」

「あら、そうかしら? 貴方のお母様は悲しみますわよ。生きていれば汚名返上の機会なら、いくらでもありますのに」

 わたしの説得に、反応を示すヴァルラム。
 このまま押し切るのが、アタシ流儀。

 ……ゲームで説得イベントを何回もやったし、このまま死なせちゃうのは可哀想だもん!

「とにかく、生きなさい。そこが始まりですわ。はぁ、一杯お話ししましたので、喉が渇きましたの。カティ、水菓子を持ってきてくださりませんか?」

「はいですぅ!」

 ……うふふ。これは凶悪だよぉ。お菓子好きで空腹の人の前でデザートなんて。

「わたくし、少々忙しいので、ここで食べさせて頂きますわ。うふ、あー美味しいですのぉ!」

 わたしは、ヴァルラムに見えるように、カティから給仕してもらったお皿から半透明なゼリーをスプーンにすくい、一口食べた。

 体温でホロリと口内で融けるゼラチンゼリー。
 柑橘とミントの香り、そして砂糖の甘さ。
 ひんやりと冷えた、実に美味しい水菓子だ。

 ……今は夏から秋に入りかけだから、ちょうど良いの!

「な、なんだ!? それは……?」

 見たことも無い水菓子に、ヴァルラムは大きく動揺する。
 おそらく柑橘とミントの香りに、空腹が刺激されたに違いない。

「あら、ごめんあそばせ。空腹の怪我人の前で食べるなんてハシタナイですわね。これはゼリーという水菓子なのですわ。製法は……。これから死なれる方には言う必要は無いですわね。あー、甘くて美味しいですのぉ」

「甘いだとぉ!! なぜ、水がそのように固まる?? そして、硬すぎもせずにスプーンで掬えるだとぉ!?」

 ……ほうほう、反応イイですわね。ローベルトに聞いたとおりですの。

「あら、菓子に興味が有りますの? 美味しいものには老若男女、誰でも同じですの。良かったら食べますか、ヴァルラム? こちら、わたくしが食べていますので、毒は無いですの」

「そ、そこまで言うなら、よこせ! 味に煩い俺が吟味してやる!」

 ……作戦成功なの! まんまと食事をさせる事に成功しましたわ。

「では、スプーンを変えますわね。カティ、御願いしますわ」

「はい、姫様」

 わたしは、用意していた新しいスプーンでゼリーを掬って、口を大きく開けたヴァルラムへと放り込んだ。

「う、う、旨いぞぉぉ。なんだ! この口当たりは?? そして、甘い。更に柑橘とミントが後味を良くしている! どうして、王都でも見たことが無い、このような菓子が男爵領なぞにあるのだぁ!」

「もう一口食べますか?」

「もう一口といわぬ。ソレを全部よこせ!」

「はい、良いですわ。カティ、わたくし、ローベルト、そしてヴァルラム用におかわりを御願いしますの」

「はいですぅ!」

 カティは満面の笑みで、厨房へと走っていった。
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