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第1章 爆裂令嬢、爆誕!!

第8話 クーリャ6:内政スタート、まずは紙生産!

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「ありがとう存じますぅ」

 わたしは、涙やら鼻水をカティやバージョヴァ先生に拭ってもらった。
 隠し事を話せたので、眼元は腫れて少し痛いけど、気分はすっきり。

 ……ここから逆転劇のスタートをするのよ!

「姫様、さっきのお話。アタシには半分くらいしか分からなかったけど、アタシ達を守る為に戦うんだよね。アタシ、絶対姫様を応援して、アタシが姫様を守るの!」

「ありがとね、カティ。でもね、すぐに危ない事は無いし、まずは皆を幸せにする前準備から始めるの。手伝ってくれるよね?」

「もちろんですぅ!」

 わたしに力強く抱きついてくるカティ。
 ローティンの成長途上でも柔らかい身体にわたしは、半分押しつぶされる。

「ちょ、息できないのぉ!」

「あ、ごめんなさい」

 わたしは、窒息の危険を回避して一息入れた。

「姫様。お話しでは、この男爵領を襲う敵の正体をご存じなのですね?」

「ええ、知っています。ですが、今の時点で彼を討っても、その先どのように物事が動くのか分かりません。なら、ギリギリまで彼を泳がせて、今後シナリオ通りに動くだろう彼の行動を封じ、その上でバカなアイツが自爆する様に追い込むのが得策だと思いますの」

「なるほど。わたくしにあえて敵を教えないのは、既にわたくしが彼、その男性を知っていて、先に暗殺するのを阻止したわけですね。そうなれば、運命がどう動くか分からないと」

 ……あ、しまったの! 賢い先生だから、わたしの出した情報から先読みされちゃったのぉ! ばれちゃったよね、アントニーが諸悪の根源って……。

「そ、そうなのです、先生。なので、か、彼の事は当面は放置して頂けると助かりますの……」

「分かりましたわ。なるほど、あの子ね。確かに逆恨みしそうな顔でしたわね。さて、では最初は何から始めますか、姫様?」

 ……うわぁ、完全にバレちゃったよぉ。先生って探偵も出来そうなのぉ!

 イタズラっぽい笑顔の先生に、わたしはギコチない笑顔で返した。

「最初は情報記録媒体、植物紙の量産ですの!」

「紙ですか? 羊皮紙や東方よりの輸入紙では足りないのですか?」

「ええ。これから一番大事なのが情報、知識です。それを誰もが気軽に残せるようになれば、どこかで役に立ちます。しかし、現在のように紙が高価では、気楽に書く事も出来ません。もちろんインクもです!」

 この世界、18世紀相当の西洋文明がモデルなので、植物紙も無い訳では無い。
 アタシの世界同様、東洋の国々からの輸入品があるし、一部地域での手すきも開始されている。
 しかし昔ながらの羊皮紙もまだ多い。
 特殊な書籍は手書き写しの羊皮紙と、高額になるしかないのだ。
 活版印刷もどこかで始まったらしいが、まだ聖書など宗教関係に限られている。

「では、姫様は紙を大量生産する方法をご存じなのですね」

「ええ、クラフトパルプ法を使いますの!」

 クラフトパルプ法、それはアルカリ溶液を使って木材を茹でる方法。
 和紙や、この世界でも行われている手漉きに使うコウゾ、ミツマタなどの特殊な木では無く、どんな草や木材でもパルプ、紙の原料にしてしまうのが、クラフトパルプ。

「材料は、何を使いますのですか?」

「アルカリ剤として灰を溶かした汁。後は何でも良いですので木材を沢山、出来たら細かい破片、チップになっていれば良いですわ。それと大釜、蓋がしっかり閉まるのがあれば助かります」

 わたしは、「アタシ」時代の記憶から物を選ぶ。
 小学校時代に自由研究で行った事が今役立つ。

「それなら、アタシ準備できますぅ! ハウスキーパーのデボラ様に上手く話して、大釜借りてきます! 灰も準備しますのぉ!」

「では、わたくしはたきぎを含めて木材確保と釜を掛ける場所ですわね。確か、農園近くに今使っていない納屋がありましたわ」

「2人ともありがとう存じます。この方法、悪臭が出るので、納屋で出来るのは嬉しいですの!」

 2人を仲間にした事で、一気に話は動き出す。
 やはり相談して良かった。
 わたしは、前世の先生、そしてバージョヴァ先生には感謝しても仕切れない。

 そして、第一歩。
 わたしの紙作り作戦が実行された。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「姫様ぁ。臭いですぅ」

「確かにこれは大変。屋敷の台所でやらなくてよかったですわ」

「ごめんなさい。わたくしも、ここまで酷いとは思いませんでしたのぉ」

 大釜の中で木材が灰汁、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムからなるアルカリ剤で半日以上茹でられている。
 その液は真っ黒になっていて、中まで見えない。
 因みに木材は、木工所などからの廃材や木屑を貰ってきた。

「この灰汁は石鹸を作るのにも役立ちますし、この黒い液体は水分を飛ばせば燃えるそうなので、今後は何かに使いましょうか。あ! でも眼に入ると眼を傷付けるので、注意してください」

 わたしは、鼻をつまみながら釜を覗きこんだ。

「そろそろパルプを取り出しますの。釜をひっくり返しますわ」

「あいよ! 姫様は危ないから、下がっていな」

 背が低いけど、物凄く腕が太いヒゲもじゃの一見オジさん。
 ドワーフ族で当家の鍛冶仕事をしてくれているゲッツが、釜を持ち上げてくれた。

 彼もわたしとは、いつも「イタズラ」、実験の準備を手伝ってもらっている仲良し。
 今回もわたしの「悪巧み」を面白がって助けてくれた。

「お! 木材がこんなバラバラになるんだな! さすが姫様だな」

 釜から黒汁を捨てると、中には茶色っぽい繊維が沢山ある。

「では、この繊維と薄めた糊を混ぜて網の上に平らに薄く広げます」

「アタシやりますぅ!」

 カティは熱々のパルプを糊と混ぜながら、ホイホイと準備していた目の細かい網の上に広げていく。

「次は上から板で押して水分を押し出します」

「これでどーだい!」

 ゲッツが重しの石を乗せてくれた。

「後は、水気が無くなったら、天日干しで完成ですの!」

「これが紙になるのかい? ただの灰と木屑が紙になるなら、十分商売になるんじゃないかい?」

「ええ、ゲッツ。出来たら、これも領内の産業にしたいですの!」

 こうして、わたしの紙作りは始まった。
 なお、最初の作品は厚みがバラバラで、漂白していないから茶色。
 それでも一応は紙の形はしていた。

 ……まずは、第一歩なの!
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