7 / 10
えぴそーど・しっくす:豆まきと狐娘。
しおりを挟む
今日は立春。
四国某所の遍路道沿いにある喫茶店兼探偵事務所「六波羅探題」。
店内には、子供たちの声が響く。
「鬼はそーとー! 福はーうち!」
「悪い子はおらんかねぇ!」
「ハジュンさん、それ混ざってますよぉ!」
子供たちが、紙製鬼のお面を被ったハジュンに向けて豆を投げている。
もちろん店内が汚れたら大変なので、後で回収しやすい様に炒めた大豆を包装したものを投げている。
中には殻付き落花生を投げる子もいる。
「何か混ざっていましたっけ?」
「それは鬼は鬼でも『なまはげ』じゃないですか?」
「そですか? 本来なら『なまはげ』は来訪神、豊穣を与える異世界から来た神様なんですけど、何処かで鬼と混ざっちゃったとは聞いてますが?」
「マスター。鬼は豆投げられたら負けなきゃダメですぅ」
「あ、そでした。あ痛ぁ。やーらーれーたー!」
「やったぁ! 鬼を倒したぞー!」
はしゃぐ子供たちの声。
毎年恒例の豆まきイベント、鬼神たるハジュンが鬼役をするのが恒例だ。
◆ ◇ ◆ ◇
「お掃除、お疲れ様です。豆、もう落ちていないですか?」
「はい。大丈夫だと思います、ハジュンさん」
「此方、床を全部見たのじゃ。これが最後なのじゃ。鬼はーそと!」
豆まきが終わった後の「六波羅探題」。
夜の営業に向けて店内を掃除していた。
床を隅々まで確認していた身長10センチのカンテラ付喪神のカガリ、拾った豆袋をハジュンに投げつける。
「やーらーれーたぁ! はい、ありがとうございました」
「マスター、毎年このイベントが嬉しそうなのぉ」
「だって、鬼という特性を一番生かせるイベントですものね。楽しくない訳がありませんよ。では、休憩にしましょう。今日は美味しいチョコ仕入れてきたので、食べて下さいね」
ハジュンは、コーヒーとチョコを3人娘に奥から持って来た。
「あれ、ハジュンさんはコーヒー苦手じゃなかったでしたっけ?」
「そうなんですが、今日のチョコに合うのは同じお店で売っているコーヒーだと思いましたので」
「あ、チョコはビターで匂いが良いのぉ」
「こっちのは少し酸っぱいのじゃ!」
チヨとカガリは板チョコを食べて感動している。
「では、わたしはコレを。え! カシューナッツが中に入っているの! おいしい!」
「でしょ、マオさん。ここのチョコは甘さ控えめ、カカオたっぷりの贅沢な一品なんです。チョコレートの世界大会で入賞した名品ですね。焼き菓子は地元産の卵を使用なさっています。コーヒーもご主人が選んだ豆を自家焙煎していますから、美味しいですね。ウチでも使ってみたい一品なんです」
ハジュンは焼き菓子を一つ摘まんで、美味しそうにコーヒーを飲む。
「ハジュンさん、これは何処で売っているんですか?」
「市内の山の中、平家の落人が隠れていたところにお店があるんです。今は改修中で、街中にお店が下りてきてますけど」
「じゃ、キリヤマなんだ! アタシ、生き木地蔵見に行ったよ!」
「なんじゃ? 生き木地蔵とは?」
マオがお店を聞くとハジュンが答えてくれる。
チヨは心当たりがあるのか、近くにあるお地蔵様についてマオやカガリに話した。
「切山は、平家の落人が隠れ住んでいた場所。そのお地蔵様は、生きている木に直接掘り込んで作った木製地蔵像なんです。オリジナルは木が枯れてしまったそうで、今のは二代目だと聞いてます」
「平家の落人? あ、チヨちゃんから前に聞いた平家物語で負けた平家の方々が逃げた場所ですよね?」
「ええ、ここ切山は高松、屋島の合戦後に負けた平氏の方々、確か平清盛様の外孫や八男の方々が、後に真鍋姓を名乗るのですが、彼らが幼い安徳帝と共に半年隠れていた場所です。その後、安徳帝は壇ノ浦の合戦に赴いたのです」
「此方、タダナリから安徳天皇の悲しい話を聞いたことがあるのじゃ!」
ハジュンは市内にある平家の隠れ里、切山について説明をする。
山と谷が重なる場所、現在でも急こう配のまがりくねった道路でしか行けない、秘境である。
なお、近年は豊かな自然を生かして農産物の日曜市や件のチョコレート工場、少し山を下がった場所でチョウザメ養殖からキャビアの生産も行われている。
「ハジュンさんは、その時はもう四国にいらっしゃったから、安徳様をご存じだったら悲しい事でしたね」
「ええ、私はお大師様から人間同士の争いには深く干渉しない様にと言われていますので、戦乱には手出ししませんでした。まあ、安徳様は流石に可哀そうだったので、御救いしてその後は『とある場所』で静かに一生を終えられました」
「え! 歴史が変わっちゃいませんか、それ?」
「なに、もう政治とは一切関係ないお子様になったのですから、大丈夫です。戦う人は勝手に戦っていたらいいんです。幼子まで巻き込むのは違反です。ですので、第二次大戦中は、もー大変でした。空襲に来たB-29を撃墜する訳にはいかないので、落としてきた爆弾をナイナイしたりするのがやっとでした。原爆を知ってたら、落とさせなかったのですけどね」
しんみりと歴史の裏側を話すハジュン。
その驚愕の内容に、マオどころかチヨも驚いた。
「マスター! それ、アタシも初耳ですぅ!」
「そりゃ、悲しい事で女の子は泣かせたくないですからね」
チョコを食べながら和気あいあいと話す3人娘とハジュン。
その時、カランと音を立ててお店のドアが開く。
「チヨはぁぁん! ウチを助けてぇなぁ!」
「ユズハちゃん、こんな時間にどしたの?」
お店に入るや否や、チヨに抱き着き助けを求める少女。
長い茶色の髪をポニーテールにして長身でスリムボディ、今時のギャルファッションに身を固めている、やや釣り目気味の美少女だ。
「チヨはんに紹介してもろうた仕事で失敗してもうたんや! このままじゃ、ウチ路頭に迷うねん。助けてぇなぁ!」
「チヨちゃん。私に話を通さずに仕事をユズハさんに斡旋したんですか?」
「マスター、ごめんなさい。ユズハちゃん、家出してからお金に困っていて、アタシに泣きつきに来たからお父ちゃん経由でお仕事紹介したの」
「あ、あのぉ。わたしにも紹介してくれない? ユズハちゃん?」
マオは、チヨとハジュンが話す事から、ユズハが2人の知り合いだということを察した。
「あ、お姉ぇはん、マオはんって言われますんやね。チヨはんから聞いてますねん。ウチ、篠田 柚葉って言いますねん。チヨはんとは同級生で同じ高校の卒業生なん。あとな、ウチは化け狐娘なんよ」
ドヤ顔で自己紹介をするユズハ。
マオは彼女の頭部に狐色の耳、そしてミニスカート越しのヒップから大きな尾っぽが出ているのを霊視した。
「えぇぇぇ! 狐さんなの、ユズハちゃん?」
「うん。ウチの先祖は、昔お大師様に四国から追い出された狐やねん。その後に陰陽道の安倍晴明様のご母堂だった『葛の葉』様がおって、ウチはそこの分家の分家筋なんや」
「マオさんに説明しますと、弘法大師様がまだお元気の頃、四国では狸と狐が勢力争いをしていたんです。その争いは人間にも被害が広がって、仲介を頼まれたのが弘法大師様なんです。私もそのお話の現場にいました」
人に近い場所、里山に住む狸、人里から離れた山中に住む狐。
本来は居住範囲が重ならないのだが、平地が少ない四国では山林が開発され里山となり、狐が住める地域が減少していった。
狐は人に対して住処を奪われたと反感を持ち、狸側は人と接触が多くどちらかといえば人よりの考えだったので、お互いに争いは激化した。
そして化けることが出来る上位種同士での戦いが発生し、人にも化かされるなど多数の被害が発生した。
「弘法大師様も、狐が人間に住処を奪われた事による怒りがあるのは承知していましたが、このままでは人間による大規模な討伐が行われる危険性があったので、狐、狸の代表を呼び出してお話をなさったのです」
その場で、弘法大師は狐に四国から去る事を提案した。
より山が深く広い本州に行けば、今のような争いは起きないと。
狸側もこのままではお互いに滅ぼしあう事になる、それは悲劇でしかないと話し、狐側は居住地の確保を条件に提案を飲んだ。
「お大師様は京の都の方々とも相談し、狐が住める居住地を確保なさりました。そして、狐は四国から去ったのです。ですが、あまりに可愛そうになったので、とある条件が達成されたら四国に帰って来ても良いとお話しされました」
弘法大師が提案した、狐の四国帰還条件。
それは、瀬戸内海に鉄の橋が出来、四国と本州が繋がったら帰って来て良いという、1000年以上前ではありえない話だった。
「え、それって瀬戸大橋?」
「はい、そういう訳で今では化け狐さん達も四国に帰って来てますね。自然界での分布も高知・愛媛の県境付近で狐の生息が確認されているとか。市内の新宮辺りでも狐の目撃情報があります。因みに瀬戸大橋は瀬戸内海に関係する皆が待ち望んでいた存在です。過去の海難事故、1955年の紫雲丸沈没事故で修学旅行中の小学生が多数亡くなってしまいましたから」
「そうなんやねん。ウチが四国に来たんも瀬戸大橋や明石大橋が出来たからなんよ」
ユズハの家系は関西にある「とある」稲荷神社の神使、神様の仕いをしている。
先祖が四国出身ながら四国に来る機会が無かったものの、アヤカシ関係の会議でユズハの父はチヨの家族と知り合いになり、家族で四国旅行をした。
そこで当時小学生で同い年だったチヨとユズハは出会い、親友になった。
「ウチなぁ、中学は地元の人間の学校へ行ったんやけど、髪の地毛が狐色やろ? で、校則やらで学校で色々もめたんや。それにウチ、人見知りがあるねん」
「あれ? ユズハちゃん、人間に化けられるのなら、髪の色なんかすぐに変えられるでしょ?」
「それが違うんですよ、マオお姉さん。わたし達が使っている術は変化の術じゃなくて、人化の術。自分の存在を人間に置き換えて変身する術だから、この人間の姿もアタシなんです。だから意識せずに、ずっとこの姿で居られるんですぅ」
「じゃあ、皆可愛いのも、元々なのね。てっきり、その姿が可愛いから望んで変身しているんだと思ってたの」
「此方も、今の姿が自分なのじゃ!」
マオは、チヨに説明されて驚く。
マオが知っているアヤカシ、全員美男子だったり美少女ばかりなので、すっかり勘違いをしていた。
……じゃあ、チヨちゃんのお胸とか、ユズハちゃんのスレンダー長身も生まれつきなんだ。カガリちゃんが小さいのは、可愛いから良いとして。
「その辺りは勘違いしそうになる話ですね。変化の術でしたら他人にも化けられますが、不自然なので維持に妖力を沢山使いますし、難しい術になります。私の今の姿も人化の術ですね」
「そんでな、ウチ、イジメや話を聞かねぇ先コーばかりで人間が嫌いになったんやけど、そのままじゃダメだってお父はんに言われて、チヨはんの家から中学に通うことになったんや」
同じアヤカシ同士、チヨはユズハを守り、元々さっぱり明るい性格のユズハは次第に人間にも慣れ、人間の友達もできた。
「高校までチヨはんと一緒やったんやけど、ウチは家業を継ぐために家に帰ったんや。やけど、お父はんは古すぎる考えでウチ付いていけなんだんよ」
表向き稲荷神社の宮司や巫女として働いていたユズハの家族、ユズハは今風のギャルなのでSNSを駆使して神社を宣伝した。
しかし、それがユズハの父にとっては神聖なお役目を汚す行為だと思われたのだ。
「で、喧嘩になってしもうて、ウチは売り言葉に買い言葉で家出してもうたんや。目線隠して巫女姿の写真公開しただけやのに」
「今やアヤカシの世界も情報化が進んでいますが、そこについていけない方が居ますのは人間界と同じですね」
喧嘩別れをして家出をしたユズハ、しばらくは近くの友人宅を流浪しつつ大阪の夜の街で遊んでいたが、すぐに資金難となった。
「お金がのうなったんで、夜の街に出てパパ活なんてしたんや。もちろん、エッチなんてしてないんや。お話しして、良え夢見てもおて、すこしだけお金もろうたんや」
「それ、犯罪じゃないですか? 危ないですよ」
「うん、危なかったんよ、マオ姉ぇはん。しばらくはバレんかったんやけど、ミナミのヤーさん中にはアヤカシも居って、ウチの正体バレたんや。警察にも通報されたしな」
あっけらかんと犯罪スレスレ、いや犯罪行為を話すユズハである。
「それで、アタシに助けてコールしてきたんです。しょうがないから、お父ちゃんに頼んで話を付けてもらって、ユズハちゃんに真っ当な仕事を照会して貰ったんです」
「それがバケモノ退治の手伝いやったんや。徳島の山ん中で首無しの馬と武者が出るっちゅう話なんやが、地元の狸共と喧嘩なって、また売り言葉言うてしもうたんや」
なかなかバケモノ退治が出来ない地元化け狸達。
それに業を煮やしたユズハは、このくらいなら自分だけで退治できると豪語、しかし実際にバケモノに対峙して恐怖で逃げてきたのだった。
「そういう事やから、ハジュンはん、チヨはん。ウチを助けてぇなぁ。マオ姉ぇはん、カガリはんからもお願いしてくれへん?」
「はぁ。全く困ったお話ですね。仕事を受けた以上真面目にこなすのは社会人として当たり前。協力すべき相手と喧嘩して、他所に助けを求めるのは論外ですよ」
両手を合わせて頼み込むユズハに、ハジュンは渋い顔をする。
「ほんま、ウチが悪いのは承知してんねん。やけど、このままじゃウチ、狸のおっさん達の前で裸踊りせなならんのやぁ!」
「ユズハちゃん、一体何を話したらそーなるの? 全く昔から何かやらかしては、アタシに泣きつくのがパターンなんだもの」
「ウチだけで倒せなんだから裸で踊ってやるんって、おっさん達に勢いで言うてしもうたんや。頼むさかい、なんとかしてくれはん? ウチ、一生のお願いや!」
土下座するように頭を下げる残念美少女の情けない顔を見て、ハジュンやマオ達は顔を見合わせてため息を付く。
「ハジュンさん、もうこれはしょうがないかと。お大師様と同じように仲直りの仲介してあげませんか? このままじゃ、狐さんと狸さんが喧嘩になっちゃいます」
「此方も不味いと思うのじゃ。このバカたれ娘、放置しておったら更に不味いこと仕出かしそうなのじゃ!」
マオ、カガリともジト目でユズハを見つつも、ハジュンに執り成しを願う。
「マスター。アタシからもお願いします。この子、バカで残念な子だけど、アタシの大事な親友なんですぅ」
「はぁ。分かりました、皆さん。ユズハさん、あなたをお助けしましょう。ただし、条件があります」
「お、おーきに、ハジュンはん。一生、恩に着ますや。で、条件とはなんやのん?」
ハジュンが助けるというと、パッと顔を上げて笑顔になる残念美少女。
「条件ですが、この事件が解決したらご実家に帰って、お父様と話し合ってください。意見の相違はあるかと思いますが、今のままではお互いに不幸になってしまいますから」
「えー! お父はんと話さなあかんのかえ? うー……。しょーがない、背に腹は代えられん。その条件でお願いします」
ぺこりとハジュンに頭を下げるユズハだった。
「もう困った娘さんですね。私も安部様には幾度となくお世話になりましたし、マオさんとも縁深い方ですのでお助けしましょうか」
「ん? わたしと何方にご縁があるのですか?」
「マオさんのご実家、倉橋家は、安倍晴明様の末裔。おそらく倉橋本家の分家筋になるのでしょうか。初めてお会いした時に、マオさんの『力』で分かりました。後、お大師様とご縁があるのは、お大師様、空海様の幼名は、マオさんと同じ真魚様と言われていたからなんです」
「えー! わたしの家系って、そーだったんだぁ!」
マオは突然語られた自らのルーツにびっくりした。
「へー、マオ姉ぇはんは、ウチの遠縁になるんかいかいな。世間ちゅうのは案外と狭いんやね」
驚くマオの横でウムウムしているユズハだった。
「その前にユズハさんは、もっと反省しなさい!」
「はぁい」
◆ ◇ ◆ ◇
「ここ、木々が青々としてすごいですね。それに谷の下に流れる川が奇麗ですね」
「この川は、四国三郎、吉野川です。川は、この先、池田ダムを経由して徳島県を流れます。この先で、ウチの市内水源の銅山川と合流していますね。石が青く見えてますが、これが阿波の青石と言って庭石に使います。地殻変動で変成した岩と聞いてますね」
ハジュン達は、ハジュンが運転する自動車で徳島県三好市山城町、俗にいう大歩危に来ている。
ここでの妖怪事件を解決するためだ。
この地の名前、大歩危と小歩危は、山の奥深く、谷が迫る峡谷なので足場が悪いから大きい歩幅で歩いても小幅で歩いても危険だという意味から来ている。
なお、今は高速道や国道が四国内に横断、縦断をしており、大歩危は国道32号線沿いにある。
ハジュンも国道11号、192号経由で32号線を走っている。
因みに四国、いや日本有数、屈指の酷い国道、酷道439号線、通称ヨサクも四国横断途中で大歩危を通っている。
「空気も奇麗なの!」
「此方、ここは初めてなのじゃ!」
今どきの街中の子であるチヨ、そして文字通りの秘蔵っ子のカガリは周囲の様子が珍しくてたまらない。
「四国でも秘境中の秘境。同じ三好市内には、平家の隠れ里、祖谷があります。祖谷のかずら橋は、追っ手を振り切るために落としやすい葛の茎でつり橋を編んだとも言われています。こちらでも、安徳様の伝説が残っていて、逃げ延びてこの地で亡くなられたという話です」
「じゃあ、もしかして、ハジュンさん……」
「さて、何処だったのでしょうか。他にも九州は対馬に逃げて、元寇の際に戦った宋氏のご先祖になったという伝説もあります。やはり幼い御子が悲劇の死をなさるのを、誰もが悲しんだのでしょう」
「そうですね。海の底の都に行かれなかったのは幸いです」
ハジュンは、自らが助けた安徳帝の逃げ延びた場所を隠す。
もう歴史の彼方に消え去った話、少なくとも悲劇の死を遂げなかった事だけは確からしいと、マオは納得した。
「さあ、湿っぽい話は後にして、大歩危の狸さん達のところに行きますよ!」
「ウチ、裸踊りは勘弁してほしいんや」
女性4人でますます姦しい車内、ハジュンは笑いながらハンドルを「とある」民家へ向けた。
◆ ◇ ◆ ◇
「……という訳で、この子を許してあげてほしいんです」
「こちらとしても、未成年の女の子に裸踊りさせる気は毛頭ないですよ。それこそ、こちらが逮捕されちゃいます。まったく困った子ですよね」
ハジュンは、大歩危に住む化け狸の代表者宅を訪問している。
大歩危は、四国有数のアヤカシの里でもあり、狸の里。
青木藤太郎という有名な狸を先祖とした一族が人に交じって暮らしている。
「それは助かりました。私としても四国・狸狐戦争再発なんてさせてしまったら、お大師様に会わせる顔が無かったですから」
「ウチが悪かったんです。ごめんなさい」
ハジュンの横で小さくなって謝るユズハであった。
「まあ、何処も若いもんが勝手するのは普通ですしね。ウチでもこんな田舎で終わりたくないって、息子たちは高知市や高松市に出て行っちゃいましたよ」
少し薄くなった髪を撫でて自虐気味の狸代表。
「アヤカシ業界も世代交代が始まっているんですね。アヤカシもSNSやらで情報発信するのは、普通の様ですし」
「千年以上前の狐騒動に関係なされていましたハジュン様がSNSですか? 時代は変わったんですね」
その若い姿に似合わぬ爺むさい会話をするハジュンであった。
「さて、本題に入りましょうか。退治するアヤカシについて教えてもらえませんか?」
「ええ、お話しますね。アレは首の無い馬と首無し武者。おそらくですが、首切れ馬という怪異だと思われます。夜な夜な、シャンゴシャンゴと音をたて夜道を歩いています。アレを目撃した人は、ほぼ全員寝込んでしまいます」
首切れ馬、その不気味な怪異は日本全国で馬単独、もしくは僧侶や武者、神を乗せた姿が目撃されている。
「元々、当地では大晦日や節分に目撃される事があったのですが、ある時から頻繁に目撃されており、被害も発生しています」
首切れ馬を目撃して自動車事故を起こした事例、また寝込んだまま数週間にもなる事例すら発生している。
「首切れ馬でしたら神様の乗り物であって、更に馬自身も高位な存在です。なので、守り無しに見てしまうと神気に当てられて寝込んでしまう様です。普通は決まった時期に季節神を乗せて現れるのですが、首無し武者とは普通では無いですね。頻繁に現れた時期とは?」
「災害復旧工事以降なのです。ご存じの様に当地は四国でも豪雨地域、台風ごとに大雨が降って土砂崩れが発生し、道路が通れなくなることも多いです」
四国の中央部は地形的に豪雨が降りやすい地域、過去幾度となく豪雨災害を受けていた。
高知県香美郡土佐山田町繁藤では、1972年7月5日湿舌と呼ばれる湿った空気による豪雨が発生、今のJR四国土讃線繁藤駅舎が停車中の列車ごと土砂災害で流され、60人の死者が発生した。
また、この豪雨を期待して作られたのが「四国の水瓶」早明浦ダムである。
「なるほど、土砂災害で封印されていた場所が破壊されてしまったのですね」
「ええ、今の工事では祠など危険性がある場所での工事では細心の注意をする様になりましたので、以前の様に工事で遺跡破壊という事例は減っています」
「了解しました。幸い、今は節分過ぎ。タイミングも良いですね。私が対応してみますので、ユズハさんの事は……」
「もう良いです。ユズハちゃんも動かない俺達に怒っていただけですし。俺らも若い者は居ないし、妖力が強いやつらは都会の怪異退治目当てに出て行っちまってたしな」
「おっちゃん……。ウチ、ウチ……」
狸代表の方に頭を撫でられて泣き出してしまうユズハ。
「うんうん。分かってるさ。じゃあ、皆で事件解決といこうや!」
「うん!」
泣きながら笑うユズハであった。
「良かったね、ユズハちゃん」
「うん、アタシ嬉しいですぅ」
「此方も安心したのじゃ! さあ、馬とやらを皆で倒すのじゃ!」
柱の陰から並んでユズハの様子を見ていた3人娘も安堵して涙を流していた。
◆ ◇ ◆ ◇
「首切り馬様、何があってお現われになられているのですか?」
早速、ハジュンが大歩危を訪れた夜に首切れ馬が現れた。
その背には首が無い武者が乗っている。
首切れ馬が現れた現場に赴いたハジュン達。
姦しい娘達は後方で待機しており、ハジュンと対峙する馬と武者を見ていた。
「あれ、答えてくれるんでしょうか? 首が無いのならお話してくれない気もしますね」
「それはそうかもぉ。アタシでも妖気っていうか神気で押し倒されそうなのぉ。マオお姉さん大丈夫ですかぁ?」
「此方、苦しいのじゃぁ。チヨちゃんの胸に隠れるのじゃ!」
「ウチ、逃げたんも分かるっしょ? きっつい!」
案外と平気そうに怪異を見ているマオ、しかしチヨ、カガリ、ユズハは苦しそうにし、特に身体が小さなカガリはチヨの胸元へもぐりこんだ。
「わたしは、別に大丈夫っぽいの。確かに怖いけどね。うーん、あの鎧って武者人形っぽいけど?」
「うーん? 確かに戦国期の鎧、当世具足じゃないね。あれ、平安期の大鎧だよ。じゃ、千年単位のアヤカシじゃん。神様クラスなのも納得なのぉ」
「や、やぱしヤバイんやん。ウチ、ハジュンはんに頼んで正解やったんや!」
日本史に詳しいチヨは、怪異の鎧から年代を当てる。
大鎧とは平安末期に生まれた騎馬弓兵用の重装甲鎧。
両肩から垂れる大袖、胸回りを防御する「栴檀の板」と「鳩尾の板」。
金属部分は少ないものの、硬く煮られ漆と膠で固められた皮の板でつづられており、矢を一切貫通させない。
「そのお姿は、平家に繋がるお方では無いですか? もしや安徳様、言仁様を守護なされていた……」
ハジュンが問いかけると、首の無い鎧武者が頷く動作をした。
「そうですか。では、お休みなされていた祠が壊れて出てこられたのですね。言仁様は、貴方様がお守りになられていたので、この地にて幸せな一生をお送りになりました。ですので、御安心してお眠りくださいませ、教経様」
名前を呼ばれた首無し鎧武者は、大きく息を吸う動作をしたのち、首切れ馬を元来た方向へ戻し、そのまま光の中へと帰っていった。
「ハジュンさん。お疲れ様でした。最後、お名前をお呼びになりましたが、あの武者さんのお名前なのですか?」
「ええ。あのお方は平教経様です。壇ノ浦の戦いで最後まで戦い、安徳様をお守りになられていました。戦に負け、祖谷まで逃げ延びていらっしゃったので、私は安徳様をあのお方にお預けしたんです」
平家物語では義経を最後まで追い詰めながらも八艙飛びで逃げられ、最後は土佐の武者、安芸兄弟と共に海へ飛び込んで亡くなったと語られるつわもの。
彼こそが清盛公の甥、平教経、平家有数の孟将、最後の平家武者である。
「安徳様は、この地で9歳でお亡くなりになりました。その後、教経様はこの祖谷の地を開拓し、阿佐家の祖先になったと伝えられています。無念があられたのでしょうが、丁寧に祀られてお眠りになられていましたのに、眠られていた祠が壊れ、夜な夜な安徳様をお探しに出られていたのだと思います」
ハジュンは、教経とは直接話した事があったため、怪異になった彼もハジュンに気が付き、そのまま帰っていったのでは無いかとマオに話した。
「そうなんですか。安徳様は、せっかく助かったのに幼い頃にお亡くなりになられたんですね。悲しいです」
「とりあえず、これでこれ以上の被害は出ないと思います。後は、祠の修繕とお祀りを行えば事件解決ですね」
「ハジュンはん、あんさん流石はお大師はんの護法鬼神はんや! ウチ、感動してもーたんや。まさか、主君の為にさまよっておったんやな。あの武者のおっさんも可哀そうな人やったんや」
マオに話していたハジュンに飛びついて感謝するユズハ。
「ええ、それだけ忠誠心の高い素晴らしいお方でした。では、後はユズハさんの問題です。頑張ってくださいね。あ、今回の料金ですが、交通費と食事代だけにサービスしておきますので、後からお願いしますね」
「えー! ロハじゃないんや。しもうたぁ。ウチ、どないしよー」
ユズハが困る姿を見て先手を打つチヨ。
「ユズハちゃん、先に言っておくけどお金貸さないからね。お金の貸し借りは友情壊しちゃうもん」」
「えー。マオ姉ぇはん……」
「わたしもお貸しできる余裕は無いんです」
「カガリはん……」
「此方、宵越しの金は持たぬのじゃ!」
他の2人もお金は貸せないと話す。
そしてユズハは悲鳴を上げた。
「ひぇぇ! ハジュンはん、助けてぇぇ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「お客はん、いらっしゃいませ。こっちへどーぞ」
事件解決後、ユズハは実家へ帰り父親と話した。
そして結局再び喧嘩となったが、どこぞに再び家出するくらいならとユズハの父はハジュンに連絡を取り、彼女の身元受け入れ人となってもらうように頼んだ。
「ユズハさん、ちゃんとお客様をご案内くださいね。チヨちゃん、彼女の事をお願いします。マオさんは、こちらの料理配膳をお願いします。カガリちゃんは……とりあえず御接待お願いします」
「ユズハちゃん、ちゃんと制服着て胸元開けないのぉ!」
「はい、ハジュンさん。お客様、ご注文の新宮茶ケーキセットです」
「いらっしゃいなのじゃ!」
春近くなった四国某所。
ますます姦しくなった「六波羅探題」であった。
四国某所の遍路道沿いにある喫茶店兼探偵事務所「六波羅探題」。
店内には、子供たちの声が響く。
「鬼はそーとー! 福はーうち!」
「悪い子はおらんかねぇ!」
「ハジュンさん、それ混ざってますよぉ!」
子供たちが、紙製鬼のお面を被ったハジュンに向けて豆を投げている。
もちろん店内が汚れたら大変なので、後で回収しやすい様に炒めた大豆を包装したものを投げている。
中には殻付き落花生を投げる子もいる。
「何か混ざっていましたっけ?」
「それは鬼は鬼でも『なまはげ』じゃないですか?」
「そですか? 本来なら『なまはげ』は来訪神、豊穣を与える異世界から来た神様なんですけど、何処かで鬼と混ざっちゃったとは聞いてますが?」
「マスター。鬼は豆投げられたら負けなきゃダメですぅ」
「あ、そでした。あ痛ぁ。やーらーれーたー!」
「やったぁ! 鬼を倒したぞー!」
はしゃぐ子供たちの声。
毎年恒例の豆まきイベント、鬼神たるハジュンが鬼役をするのが恒例だ。
◆ ◇ ◆ ◇
「お掃除、お疲れ様です。豆、もう落ちていないですか?」
「はい。大丈夫だと思います、ハジュンさん」
「此方、床を全部見たのじゃ。これが最後なのじゃ。鬼はーそと!」
豆まきが終わった後の「六波羅探題」。
夜の営業に向けて店内を掃除していた。
床を隅々まで確認していた身長10センチのカンテラ付喪神のカガリ、拾った豆袋をハジュンに投げつける。
「やーらーれーたぁ! はい、ありがとうございました」
「マスター、毎年このイベントが嬉しそうなのぉ」
「だって、鬼という特性を一番生かせるイベントですものね。楽しくない訳がありませんよ。では、休憩にしましょう。今日は美味しいチョコ仕入れてきたので、食べて下さいね」
ハジュンは、コーヒーとチョコを3人娘に奥から持って来た。
「あれ、ハジュンさんはコーヒー苦手じゃなかったでしたっけ?」
「そうなんですが、今日のチョコに合うのは同じお店で売っているコーヒーだと思いましたので」
「あ、チョコはビターで匂いが良いのぉ」
「こっちのは少し酸っぱいのじゃ!」
チヨとカガリは板チョコを食べて感動している。
「では、わたしはコレを。え! カシューナッツが中に入っているの! おいしい!」
「でしょ、マオさん。ここのチョコは甘さ控えめ、カカオたっぷりの贅沢な一品なんです。チョコレートの世界大会で入賞した名品ですね。焼き菓子は地元産の卵を使用なさっています。コーヒーもご主人が選んだ豆を自家焙煎していますから、美味しいですね。ウチでも使ってみたい一品なんです」
ハジュンは焼き菓子を一つ摘まんで、美味しそうにコーヒーを飲む。
「ハジュンさん、これは何処で売っているんですか?」
「市内の山の中、平家の落人が隠れていたところにお店があるんです。今は改修中で、街中にお店が下りてきてますけど」
「じゃ、キリヤマなんだ! アタシ、生き木地蔵見に行ったよ!」
「なんじゃ? 生き木地蔵とは?」
マオがお店を聞くとハジュンが答えてくれる。
チヨは心当たりがあるのか、近くにあるお地蔵様についてマオやカガリに話した。
「切山は、平家の落人が隠れ住んでいた場所。そのお地蔵様は、生きている木に直接掘り込んで作った木製地蔵像なんです。オリジナルは木が枯れてしまったそうで、今のは二代目だと聞いてます」
「平家の落人? あ、チヨちゃんから前に聞いた平家物語で負けた平家の方々が逃げた場所ですよね?」
「ええ、ここ切山は高松、屋島の合戦後に負けた平氏の方々、確か平清盛様の外孫や八男の方々が、後に真鍋姓を名乗るのですが、彼らが幼い安徳帝と共に半年隠れていた場所です。その後、安徳帝は壇ノ浦の合戦に赴いたのです」
「此方、タダナリから安徳天皇の悲しい話を聞いたことがあるのじゃ!」
ハジュンは市内にある平家の隠れ里、切山について説明をする。
山と谷が重なる場所、現在でも急こう配のまがりくねった道路でしか行けない、秘境である。
なお、近年は豊かな自然を生かして農産物の日曜市や件のチョコレート工場、少し山を下がった場所でチョウザメ養殖からキャビアの生産も行われている。
「ハジュンさんは、その時はもう四国にいらっしゃったから、安徳様をご存じだったら悲しい事でしたね」
「ええ、私はお大師様から人間同士の争いには深く干渉しない様にと言われていますので、戦乱には手出ししませんでした。まあ、安徳様は流石に可哀そうだったので、御救いしてその後は『とある場所』で静かに一生を終えられました」
「え! 歴史が変わっちゃいませんか、それ?」
「なに、もう政治とは一切関係ないお子様になったのですから、大丈夫です。戦う人は勝手に戦っていたらいいんです。幼子まで巻き込むのは違反です。ですので、第二次大戦中は、もー大変でした。空襲に来たB-29を撃墜する訳にはいかないので、落としてきた爆弾をナイナイしたりするのがやっとでした。原爆を知ってたら、落とさせなかったのですけどね」
しんみりと歴史の裏側を話すハジュン。
その驚愕の内容に、マオどころかチヨも驚いた。
「マスター! それ、アタシも初耳ですぅ!」
「そりゃ、悲しい事で女の子は泣かせたくないですからね」
チョコを食べながら和気あいあいと話す3人娘とハジュン。
その時、カランと音を立ててお店のドアが開く。
「チヨはぁぁん! ウチを助けてぇなぁ!」
「ユズハちゃん、こんな時間にどしたの?」
お店に入るや否や、チヨに抱き着き助けを求める少女。
長い茶色の髪をポニーテールにして長身でスリムボディ、今時のギャルファッションに身を固めている、やや釣り目気味の美少女だ。
「チヨはんに紹介してもろうた仕事で失敗してもうたんや! このままじゃ、ウチ路頭に迷うねん。助けてぇなぁ!」
「チヨちゃん。私に話を通さずに仕事をユズハさんに斡旋したんですか?」
「マスター、ごめんなさい。ユズハちゃん、家出してからお金に困っていて、アタシに泣きつきに来たからお父ちゃん経由でお仕事紹介したの」
「あ、あのぉ。わたしにも紹介してくれない? ユズハちゃん?」
マオは、チヨとハジュンが話す事から、ユズハが2人の知り合いだということを察した。
「あ、お姉ぇはん、マオはんって言われますんやね。チヨはんから聞いてますねん。ウチ、篠田 柚葉って言いますねん。チヨはんとは同級生で同じ高校の卒業生なん。あとな、ウチは化け狐娘なんよ」
ドヤ顔で自己紹介をするユズハ。
マオは彼女の頭部に狐色の耳、そしてミニスカート越しのヒップから大きな尾っぽが出ているのを霊視した。
「えぇぇぇ! 狐さんなの、ユズハちゃん?」
「うん。ウチの先祖は、昔お大師様に四国から追い出された狐やねん。その後に陰陽道の安倍晴明様のご母堂だった『葛の葉』様がおって、ウチはそこの分家の分家筋なんや」
「マオさんに説明しますと、弘法大師様がまだお元気の頃、四国では狸と狐が勢力争いをしていたんです。その争いは人間にも被害が広がって、仲介を頼まれたのが弘法大師様なんです。私もそのお話の現場にいました」
人に近い場所、里山に住む狸、人里から離れた山中に住む狐。
本来は居住範囲が重ならないのだが、平地が少ない四国では山林が開発され里山となり、狐が住める地域が減少していった。
狐は人に対して住処を奪われたと反感を持ち、狸側は人と接触が多くどちらかといえば人よりの考えだったので、お互いに争いは激化した。
そして化けることが出来る上位種同士での戦いが発生し、人にも化かされるなど多数の被害が発生した。
「弘法大師様も、狐が人間に住処を奪われた事による怒りがあるのは承知していましたが、このままでは人間による大規模な討伐が行われる危険性があったので、狐、狸の代表を呼び出してお話をなさったのです」
その場で、弘法大師は狐に四国から去る事を提案した。
より山が深く広い本州に行けば、今のような争いは起きないと。
狸側もこのままではお互いに滅ぼしあう事になる、それは悲劇でしかないと話し、狐側は居住地の確保を条件に提案を飲んだ。
「お大師様は京の都の方々とも相談し、狐が住める居住地を確保なさりました。そして、狐は四国から去ったのです。ですが、あまりに可愛そうになったので、とある条件が達成されたら四国に帰って来ても良いとお話しされました」
弘法大師が提案した、狐の四国帰還条件。
それは、瀬戸内海に鉄の橋が出来、四国と本州が繋がったら帰って来て良いという、1000年以上前ではありえない話だった。
「え、それって瀬戸大橋?」
「はい、そういう訳で今では化け狐さん達も四国に帰って来てますね。自然界での分布も高知・愛媛の県境付近で狐の生息が確認されているとか。市内の新宮辺りでも狐の目撃情報があります。因みに瀬戸大橋は瀬戸内海に関係する皆が待ち望んでいた存在です。過去の海難事故、1955年の紫雲丸沈没事故で修学旅行中の小学生が多数亡くなってしまいましたから」
「そうなんやねん。ウチが四国に来たんも瀬戸大橋や明石大橋が出来たからなんよ」
ユズハの家系は関西にある「とある」稲荷神社の神使、神様の仕いをしている。
先祖が四国出身ながら四国に来る機会が無かったものの、アヤカシ関係の会議でユズハの父はチヨの家族と知り合いになり、家族で四国旅行をした。
そこで当時小学生で同い年だったチヨとユズハは出会い、親友になった。
「ウチなぁ、中学は地元の人間の学校へ行ったんやけど、髪の地毛が狐色やろ? で、校則やらで学校で色々もめたんや。それにウチ、人見知りがあるねん」
「あれ? ユズハちゃん、人間に化けられるのなら、髪の色なんかすぐに変えられるでしょ?」
「それが違うんですよ、マオお姉さん。わたし達が使っている術は変化の術じゃなくて、人化の術。自分の存在を人間に置き換えて変身する術だから、この人間の姿もアタシなんです。だから意識せずに、ずっとこの姿で居られるんですぅ」
「じゃあ、皆可愛いのも、元々なのね。てっきり、その姿が可愛いから望んで変身しているんだと思ってたの」
「此方も、今の姿が自分なのじゃ!」
マオは、チヨに説明されて驚く。
マオが知っているアヤカシ、全員美男子だったり美少女ばかりなので、すっかり勘違いをしていた。
……じゃあ、チヨちゃんのお胸とか、ユズハちゃんのスレンダー長身も生まれつきなんだ。カガリちゃんが小さいのは、可愛いから良いとして。
「その辺りは勘違いしそうになる話ですね。変化の術でしたら他人にも化けられますが、不自然なので維持に妖力を沢山使いますし、難しい術になります。私の今の姿も人化の術ですね」
「そんでな、ウチ、イジメや話を聞かねぇ先コーばかりで人間が嫌いになったんやけど、そのままじゃダメだってお父はんに言われて、チヨはんの家から中学に通うことになったんや」
同じアヤカシ同士、チヨはユズハを守り、元々さっぱり明るい性格のユズハは次第に人間にも慣れ、人間の友達もできた。
「高校までチヨはんと一緒やったんやけど、ウチは家業を継ぐために家に帰ったんや。やけど、お父はんは古すぎる考えでウチ付いていけなんだんよ」
表向き稲荷神社の宮司や巫女として働いていたユズハの家族、ユズハは今風のギャルなのでSNSを駆使して神社を宣伝した。
しかし、それがユズハの父にとっては神聖なお役目を汚す行為だと思われたのだ。
「で、喧嘩になってしもうて、ウチは売り言葉に買い言葉で家出してもうたんや。目線隠して巫女姿の写真公開しただけやのに」
「今やアヤカシの世界も情報化が進んでいますが、そこについていけない方が居ますのは人間界と同じですね」
喧嘩別れをして家出をしたユズハ、しばらくは近くの友人宅を流浪しつつ大阪の夜の街で遊んでいたが、すぐに資金難となった。
「お金がのうなったんで、夜の街に出てパパ活なんてしたんや。もちろん、エッチなんてしてないんや。お話しして、良え夢見てもおて、すこしだけお金もろうたんや」
「それ、犯罪じゃないですか? 危ないですよ」
「うん、危なかったんよ、マオ姉ぇはん。しばらくはバレんかったんやけど、ミナミのヤーさん中にはアヤカシも居って、ウチの正体バレたんや。警察にも通報されたしな」
あっけらかんと犯罪スレスレ、いや犯罪行為を話すユズハである。
「それで、アタシに助けてコールしてきたんです。しょうがないから、お父ちゃんに頼んで話を付けてもらって、ユズハちゃんに真っ当な仕事を照会して貰ったんです」
「それがバケモノ退治の手伝いやったんや。徳島の山ん中で首無しの馬と武者が出るっちゅう話なんやが、地元の狸共と喧嘩なって、また売り言葉言うてしもうたんや」
なかなかバケモノ退治が出来ない地元化け狸達。
それに業を煮やしたユズハは、このくらいなら自分だけで退治できると豪語、しかし実際にバケモノに対峙して恐怖で逃げてきたのだった。
「そういう事やから、ハジュンはん、チヨはん。ウチを助けてぇなぁ。マオ姉ぇはん、カガリはんからもお願いしてくれへん?」
「はぁ。全く困ったお話ですね。仕事を受けた以上真面目にこなすのは社会人として当たり前。協力すべき相手と喧嘩して、他所に助けを求めるのは論外ですよ」
両手を合わせて頼み込むユズハに、ハジュンは渋い顔をする。
「ほんま、ウチが悪いのは承知してんねん。やけど、このままじゃウチ、狸のおっさん達の前で裸踊りせなならんのやぁ!」
「ユズハちゃん、一体何を話したらそーなるの? 全く昔から何かやらかしては、アタシに泣きつくのがパターンなんだもの」
「ウチだけで倒せなんだから裸で踊ってやるんって、おっさん達に勢いで言うてしもうたんや。頼むさかい、なんとかしてくれはん? ウチ、一生のお願いや!」
土下座するように頭を下げる残念美少女の情けない顔を見て、ハジュンやマオ達は顔を見合わせてため息を付く。
「ハジュンさん、もうこれはしょうがないかと。お大師様と同じように仲直りの仲介してあげませんか? このままじゃ、狐さんと狸さんが喧嘩になっちゃいます」
「此方も不味いと思うのじゃ。このバカたれ娘、放置しておったら更に不味いこと仕出かしそうなのじゃ!」
マオ、カガリともジト目でユズハを見つつも、ハジュンに執り成しを願う。
「マスター。アタシからもお願いします。この子、バカで残念な子だけど、アタシの大事な親友なんですぅ」
「はぁ。分かりました、皆さん。ユズハさん、あなたをお助けしましょう。ただし、条件があります」
「お、おーきに、ハジュンはん。一生、恩に着ますや。で、条件とはなんやのん?」
ハジュンが助けるというと、パッと顔を上げて笑顔になる残念美少女。
「条件ですが、この事件が解決したらご実家に帰って、お父様と話し合ってください。意見の相違はあるかと思いますが、今のままではお互いに不幸になってしまいますから」
「えー! お父はんと話さなあかんのかえ? うー……。しょーがない、背に腹は代えられん。その条件でお願いします」
ぺこりとハジュンに頭を下げるユズハだった。
「もう困った娘さんですね。私も安部様には幾度となくお世話になりましたし、マオさんとも縁深い方ですのでお助けしましょうか」
「ん? わたしと何方にご縁があるのですか?」
「マオさんのご実家、倉橋家は、安倍晴明様の末裔。おそらく倉橋本家の分家筋になるのでしょうか。初めてお会いした時に、マオさんの『力』で分かりました。後、お大師様とご縁があるのは、お大師様、空海様の幼名は、マオさんと同じ真魚様と言われていたからなんです」
「えー! わたしの家系って、そーだったんだぁ!」
マオは突然語られた自らのルーツにびっくりした。
「へー、マオ姉ぇはんは、ウチの遠縁になるんかいかいな。世間ちゅうのは案外と狭いんやね」
驚くマオの横でウムウムしているユズハだった。
「その前にユズハさんは、もっと反省しなさい!」
「はぁい」
◆ ◇ ◆ ◇
「ここ、木々が青々としてすごいですね。それに谷の下に流れる川が奇麗ですね」
「この川は、四国三郎、吉野川です。川は、この先、池田ダムを経由して徳島県を流れます。この先で、ウチの市内水源の銅山川と合流していますね。石が青く見えてますが、これが阿波の青石と言って庭石に使います。地殻変動で変成した岩と聞いてますね」
ハジュン達は、ハジュンが運転する自動車で徳島県三好市山城町、俗にいう大歩危に来ている。
ここでの妖怪事件を解決するためだ。
この地の名前、大歩危と小歩危は、山の奥深く、谷が迫る峡谷なので足場が悪いから大きい歩幅で歩いても小幅で歩いても危険だという意味から来ている。
なお、今は高速道や国道が四国内に横断、縦断をしており、大歩危は国道32号線沿いにある。
ハジュンも国道11号、192号経由で32号線を走っている。
因みに四国、いや日本有数、屈指の酷い国道、酷道439号線、通称ヨサクも四国横断途中で大歩危を通っている。
「空気も奇麗なの!」
「此方、ここは初めてなのじゃ!」
今どきの街中の子であるチヨ、そして文字通りの秘蔵っ子のカガリは周囲の様子が珍しくてたまらない。
「四国でも秘境中の秘境。同じ三好市内には、平家の隠れ里、祖谷があります。祖谷のかずら橋は、追っ手を振り切るために落としやすい葛の茎でつり橋を編んだとも言われています。こちらでも、安徳様の伝説が残っていて、逃げ延びてこの地で亡くなられたという話です」
「じゃあ、もしかして、ハジュンさん……」
「さて、何処だったのでしょうか。他にも九州は対馬に逃げて、元寇の際に戦った宋氏のご先祖になったという伝説もあります。やはり幼い御子が悲劇の死をなさるのを、誰もが悲しんだのでしょう」
「そうですね。海の底の都に行かれなかったのは幸いです」
ハジュンは、自らが助けた安徳帝の逃げ延びた場所を隠す。
もう歴史の彼方に消え去った話、少なくとも悲劇の死を遂げなかった事だけは確からしいと、マオは納得した。
「さあ、湿っぽい話は後にして、大歩危の狸さん達のところに行きますよ!」
「ウチ、裸踊りは勘弁してほしいんや」
女性4人でますます姦しい車内、ハジュンは笑いながらハンドルを「とある」民家へ向けた。
◆ ◇ ◆ ◇
「……という訳で、この子を許してあげてほしいんです」
「こちらとしても、未成年の女の子に裸踊りさせる気は毛頭ないですよ。それこそ、こちらが逮捕されちゃいます。まったく困った子ですよね」
ハジュンは、大歩危に住む化け狸の代表者宅を訪問している。
大歩危は、四国有数のアヤカシの里でもあり、狸の里。
青木藤太郎という有名な狸を先祖とした一族が人に交じって暮らしている。
「それは助かりました。私としても四国・狸狐戦争再発なんてさせてしまったら、お大師様に会わせる顔が無かったですから」
「ウチが悪かったんです。ごめんなさい」
ハジュンの横で小さくなって謝るユズハであった。
「まあ、何処も若いもんが勝手するのは普通ですしね。ウチでもこんな田舎で終わりたくないって、息子たちは高知市や高松市に出て行っちゃいましたよ」
少し薄くなった髪を撫でて自虐気味の狸代表。
「アヤカシ業界も世代交代が始まっているんですね。アヤカシもSNSやらで情報発信するのは、普通の様ですし」
「千年以上前の狐騒動に関係なされていましたハジュン様がSNSですか? 時代は変わったんですね」
その若い姿に似合わぬ爺むさい会話をするハジュンであった。
「さて、本題に入りましょうか。退治するアヤカシについて教えてもらえませんか?」
「ええ、お話しますね。アレは首の無い馬と首無し武者。おそらくですが、首切れ馬という怪異だと思われます。夜な夜な、シャンゴシャンゴと音をたて夜道を歩いています。アレを目撃した人は、ほぼ全員寝込んでしまいます」
首切れ馬、その不気味な怪異は日本全国で馬単独、もしくは僧侶や武者、神を乗せた姿が目撃されている。
「元々、当地では大晦日や節分に目撃される事があったのですが、ある時から頻繁に目撃されており、被害も発生しています」
首切れ馬を目撃して自動車事故を起こした事例、また寝込んだまま数週間にもなる事例すら発生している。
「首切れ馬でしたら神様の乗り物であって、更に馬自身も高位な存在です。なので、守り無しに見てしまうと神気に当てられて寝込んでしまう様です。普通は決まった時期に季節神を乗せて現れるのですが、首無し武者とは普通では無いですね。頻繁に現れた時期とは?」
「災害復旧工事以降なのです。ご存じの様に当地は四国でも豪雨地域、台風ごとに大雨が降って土砂崩れが発生し、道路が通れなくなることも多いです」
四国の中央部は地形的に豪雨が降りやすい地域、過去幾度となく豪雨災害を受けていた。
高知県香美郡土佐山田町繁藤では、1972年7月5日湿舌と呼ばれる湿った空気による豪雨が発生、今のJR四国土讃線繁藤駅舎が停車中の列車ごと土砂災害で流され、60人の死者が発生した。
また、この豪雨を期待して作られたのが「四国の水瓶」早明浦ダムである。
「なるほど、土砂災害で封印されていた場所が破壊されてしまったのですね」
「ええ、今の工事では祠など危険性がある場所での工事では細心の注意をする様になりましたので、以前の様に工事で遺跡破壊という事例は減っています」
「了解しました。幸い、今は節分過ぎ。タイミングも良いですね。私が対応してみますので、ユズハさんの事は……」
「もう良いです。ユズハちゃんも動かない俺達に怒っていただけですし。俺らも若い者は居ないし、妖力が強いやつらは都会の怪異退治目当てに出て行っちまってたしな」
「おっちゃん……。ウチ、ウチ……」
狸代表の方に頭を撫でられて泣き出してしまうユズハ。
「うんうん。分かってるさ。じゃあ、皆で事件解決といこうや!」
「うん!」
泣きながら笑うユズハであった。
「良かったね、ユズハちゃん」
「うん、アタシ嬉しいですぅ」
「此方も安心したのじゃ! さあ、馬とやらを皆で倒すのじゃ!」
柱の陰から並んでユズハの様子を見ていた3人娘も安堵して涙を流していた。
◆ ◇ ◆ ◇
「首切り馬様、何があってお現われになられているのですか?」
早速、ハジュンが大歩危を訪れた夜に首切れ馬が現れた。
その背には首が無い武者が乗っている。
首切れ馬が現れた現場に赴いたハジュン達。
姦しい娘達は後方で待機しており、ハジュンと対峙する馬と武者を見ていた。
「あれ、答えてくれるんでしょうか? 首が無いのならお話してくれない気もしますね」
「それはそうかもぉ。アタシでも妖気っていうか神気で押し倒されそうなのぉ。マオお姉さん大丈夫ですかぁ?」
「此方、苦しいのじゃぁ。チヨちゃんの胸に隠れるのじゃ!」
「ウチ、逃げたんも分かるっしょ? きっつい!」
案外と平気そうに怪異を見ているマオ、しかしチヨ、カガリ、ユズハは苦しそうにし、特に身体が小さなカガリはチヨの胸元へもぐりこんだ。
「わたしは、別に大丈夫っぽいの。確かに怖いけどね。うーん、あの鎧って武者人形っぽいけど?」
「うーん? 確かに戦国期の鎧、当世具足じゃないね。あれ、平安期の大鎧だよ。じゃ、千年単位のアヤカシじゃん。神様クラスなのも納得なのぉ」
「や、やぱしヤバイんやん。ウチ、ハジュンはんに頼んで正解やったんや!」
日本史に詳しいチヨは、怪異の鎧から年代を当てる。
大鎧とは平安末期に生まれた騎馬弓兵用の重装甲鎧。
両肩から垂れる大袖、胸回りを防御する「栴檀の板」と「鳩尾の板」。
金属部分は少ないものの、硬く煮られ漆と膠で固められた皮の板でつづられており、矢を一切貫通させない。
「そのお姿は、平家に繋がるお方では無いですか? もしや安徳様、言仁様を守護なされていた……」
ハジュンが問いかけると、首の無い鎧武者が頷く動作をした。
「そうですか。では、お休みなされていた祠が壊れて出てこられたのですね。言仁様は、貴方様がお守りになられていたので、この地にて幸せな一生をお送りになりました。ですので、御安心してお眠りくださいませ、教経様」
名前を呼ばれた首無し鎧武者は、大きく息を吸う動作をしたのち、首切れ馬を元来た方向へ戻し、そのまま光の中へと帰っていった。
「ハジュンさん。お疲れ様でした。最後、お名前をお呼びになりましたが、あの武者さんのお名前なのですか?」
「ええ。あのお方は平教経様です。壇ノ浦の戦いで最後まで戦い、安徳様をお守りになられていました。戦に負け、祖谷まで逃げ延びていらっしゃったので、私は安徳様をあのお方にお預けしたんです」
平家物語では義経を最後まで追い詰めながらも八艙飛びで逃げられ、最後は土佐の武者、安芸兄弟と共に海へ飛び込んで亡くなったと語られるつわもの。
彼こそが清盛公の甥、平教経、平家有数の孟将、最後の平家武者である。
「安徳様は、この地で9歳でお亡くなりになりました。その後、教経様はこの祖谷の地を開拓し、阿佐家の祖先になったと伝えられています。無念があられたのでしょうが、丁寧に祀られてお眠りになられていましたのに、眠られていた祠が壊れ、夜な夜な安徳様をお探しに出られていたのだと思います」
ハジュンは、教経とは直接話した事があったため、怪異になった彼もハジュンに気が付き、そのまま帰っていったのでは無いかとマオに話した。
「そうなんですか。安徳様は、せっかく助かったのに幼い頃にお亡くなりになられたんですね。悲しいです」
「とりあえず、これでこれ以上の被害は出ないと思います。後は、祠の修繕とお祀りを行えば事件解決ですね」
「ハジュンはん、あんさん流石はお大師はんの護法鬼神はんや! ウチ、感動してもーたんや。まさか、主君の為にさまよっておったんやな。あの武者のおっさんも可哀そうな人やったんや」
マオに話していたハジュンに飛びついて感謝するユズハ。
「ええ、それだけ忠誠心の高い素晴らしいお方でした。では、後はユズハさんの問題です。頑張ってくださいね。あ、今回の料金ですが、交通費と食事代だけにサービスしておきますので、後からお願いしますね」
「えー! ロハじゃないんや。しもうたぁ。ウチ、どないしよー」
ユズハが困る姿を見て先手を打つチヨ。
「ユズハちゃん、先に言っておくけどお金貸さないからね。お金の貸し借りは友情壊しちゃうもん」」
「えー。マオ姉ぇはん……」
「わたしもお貸しできる余裕は無いんです」
「カガリはん……」
「此方、宵越しの金は持たぬのじゃ!」
他の2人もお金は貸せないと話す。
そしてユズハは悲鳴を上げた。
「ひぇぇ! ハジュンはん、助けてぇぇ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「お客はん、いらっしゃいませ。こっちへどーぞ」
事件解決後、ユズハは実家へ帰り父親と話した。
そして結局再び喧嘩となったが、どこぞに再び家出するくらいならとユズハの父はハジュンに連絡を取り、彼女の身元受け入れ人となってもらうように頼んだ。
「ユズハさん、ちゃんとお客様をご案内くださいね。チヨちゃん、彼女の事をお願いします。マオさんは、こちらの料理配膳をお願いします。カガリちゃんは……とりあえず御接待お願いします」
「ユズハちゃん、ちゃんと制服着て胸元開けないのぉ!」
「はい、ハジュンさん。お客様、ご注文の新宮茶ケーキセットです」
「いらっしゃいなのじゃ!」
春近くなった四国某所。
ますます姦しくなった「六波羅探題」であった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
薔薇と少年
白亜凛
キャラ文芸
路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。
夕べ、店の近くで男が刺されたという。
警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。
常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。
ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。
アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。
事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。
ゴールドの来た日
青夜
キャラ文芸
人間と犬との、不思議な愛のお話です。
現在執筆中の、『富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?』の中の話を短編として再構成いたしました。
本編ではこのような話の他、コメディ、アクション、SF、妖怪、ちょっと異世界転移などもあります。
もし、興味を持った方は、是非本編もお読み下さい。
よろしくお願いいたします。
モノの卦慙愧
陰東 愛香音
キャラ文芸
「ここじゃないどこかに連れて行って欲しい」
生まれながらに異能を持つひなは、齢9歳にして孤独な人生を強いられた。
学校に行っても、形ばかりの養育者である祖父母も、ひなの事を気味悪がるばかり。
そんな生活から逃げ出したかったひなは、家の近くにある神社で何度もそう願った。
ある晩、その神社に一匹の神獣――麒麟が姿を現す。
ひなは彼に願い乞い、現世から彼の住む幽世へと連れて行ってもらう。
「……ひな。君に新しい世界をあげよう」
そんな彼女に何かを感じ取った麒麟は、ひなの願いを聞き入れる。
麒麟の住む世界――幽世は、現世で亡くなった人間たちの魂の「最終審判」の場。現世での業の数や重さによって形の違うあやかしとして、現世で積み重ねた業の数を幽世で少しでも減らし、極楽の道へ進める可能性をもう一度自ら作るための世界。
現世の人のように活気にあふれるその世界で、ひなは麒麟と共に生きる事を選ぶ。
ひなを取り巻くあやかし達と、自らの力によって翻弄される日々を送りながら、やがて彼女は自らのルーツを知ることになる。
まほろば荘の大家さん
石田空
キャラ文芸
三葉はぎっくり腰で入院した祖母に替わって、祖母の経営するアパートまほろば荘の大家に臨時で就任した。しかしそこはのっぺらぼうに天狗、お菊さんに山神様が住む、ちょっと(かなり?)変わったアパートだった。同級生の雷神の先祖返りと一緒に、そこで巻き起こる騒動に右往左往する。「拝啓 おばあちゃん。アパート経営ってこんなに大変なものだったんですか?」今日も三葉は、賑やかなアパートの住民たちが巻き起こす騒動に四苦八苦する。
天之琉華譚 唐紅のザンカ
ナクアル
キャラ文芸
由緒正しい四神家の出身でありながら、落ちこぼれである天笠弥咲。
道楽でやっている古物商店の店先で倒れていた浪人から一宿一飯のお礼だと“曰く付きの古書”を押し付けられる。
しかしそれを機に周辺で不審死が相次ぎ、天笠弥咲は知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、不思議な出来事により自身の大切な妹が拷問を受けていると聞き殺人犯を捜索し始める。
その矢先、偶然出くわした殺人現場で極彩色の着物を身に着け、唐紅色の髪をした天女が吐き捨てる。「お前のその瞳は凄く汚い色だな?」そんな失礼極まりない第一声が天笠弥咲と奴隷少女ザンカの出会いだった。
超絶! 悶絶! 料理バトル!
相田 彩太
キャラ文芸
これは廃部を賭けて大会に挑む高校生たちの物語。
挑むは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★
そのルールは単純にて深淵。
対戦者は互いに「料理」「食材」「テーマ」の3つからひとつずつ選び、お題を決める。
そして、その2つのお題を満たす料理を作って勝負するのだ!
例えば「料理:パスタ」と「食材:トマト」。
まともな勝負だ。
例えば「料理:Tボーンステーキ」と「食材:イカ」。
骨をどうすればいいんだ……
例えば「料理:満漢全席」と「テーマ:おふくろの味」
どんな特級厨師だよ母。
知力と体力と料理力を駆使して競う、エンターテイメント料理ショー!
特売大好き貧乏学生と食品大会社令嬢、小料理屋の看板娘が今、ここに挑む!
敵はひとクセもふたクセもある奇怪な料理人(キャラクター)たち。
この対戦相手を前に彼らは勝ち抜ける事が出来るのか!?
料理バトルものです。
現代風に言えば『食〇のソーマ』のような作品です。
実態は古い『一本包丁満〇郎』かもしれません。
まだまだレベル的には足りませんが……
エロ系ではないですが、それを連想させる表現があるのでR15です。
パロディ成分多めです。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
ある朝、クルーザーの中で目覚めた一宮深月(いちみや みつき)は、隣にイケメンだが、ちょっと苦手な支社長、飛鳥馬陽太(あすま ようた)が寝ていることに驚愕する。
大事な神事を控えていた巫女さん兼業OL 深月は思わず叫んでいた。
「神の怒りを買ってしまいます~っ」
みんなに深月の相手と認めてもらうため、神事で舞を舞うことになる陽太だったが――。
お神楽×オフィスラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる