最強商人土方歳三

工藤かずや

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3-9シャスポー銃二千丁

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土方は隊士たちの噂から、
勝が京に来ていることを知った。
会わなければならない。

なんとしても。
多分、先日行われた大政奉還で
将軍慶喜に随行して来たのだろう。

近藤が毎日白馬にまたがり、
三人の供を従えて二条城へ通っている。
諸侯との会議に出るためだ。

なんとかしてこの供に紛れ込み
二条城へ行こうと思った。
幕府はフランスのナポレオン三世から、
最新式の後装式連発銃シャスポー二千丁を
贈呈されているはずだ。

しかし、それをなぜか江戸城の奥深くしまい込み、
幕軍にも会津にも使わせようとしない。
宝の持ち腐れだ!

薩長軍は後装式銃スナイドルやミニエー銃、
合わせて数万丁を装備している。
これでは先込め式の単発銃しか持たない
幕軍会津兵は勝負にならない。

兵力ではたしかに幕軍が数倍上回る。
だが、近代戦で物を言うのは最新兵器である。
もしも開戦が始まったら、
最初から勝負の趨勢は見えている。

翌日、土方は白馬にまたがる大名のような近藤に従って、
供の従者と共に二条城へ向かった。
返答次第では勝を斬ろうと思ってさえいた。

しかし、二条城では脱出できないだろう。
近藤や新選組にも迷惑をかけることになる。
勝がシャスポー銃使用を
承諾してくれることを願った。

聞くところによると勝は北辰一刀流の免許者である。
だが、真剣では土方との勝負では問題にななるまい。
近藤の計らいで土方は従者として、
二条城の控えの間で待つことになった。

城内で土方の顔を知るものはいない。
廊下を通る諸侯を見ていたが、
勝はなかなか姿を見せない。

継之助の件で、
土方は一度だけ屯所で彼と会っている。
数刻して、やっと勝の姿を見かけた。

素早く控えの間を出て、勝に声をかけた。
土方の出現に勝は驚いた様子だった。
話があると言うと、
半刻だけ時間をとるとの約束で空いてる部屋へ入った。

勝は恐らく大政奉還の件で
斬られるとでも思ったのだろう。
さすがにそんなことはおくびにも出さず、
部屋で対座した。

二日前なら土方は確実に勝を斬っていた。
勝も竜馬を除こうとしていたことを知っていたからだ。
幕府の海軍奉行の要職にありながら、
勝は佐幕ではなかった。

今の幕府は潰れれ良いとさえ思っていた。
竜馬は勝の愛弟子である。
船中八策を上程したとき、
勝はこれで日本は変わる!と諸手を上げて喜んだ。

だが、そのトップに竜馬が将軍を据えると知った時、
勝の顔色が変わった。
頭が幕府では根本的な日本の変革は望めない。

その怒りが竜馬への殺意に変わった。
土方は竜馬殺害の指示者が勝であっても、
少しも不思議できないとさえ思っていた。

だが、今はシャスポー銃である!
土方は単刀直入にその話を切り出した。
「シャスポーで薩長と戦おうと言うのか」

勝は言った。
「シャスポーがなければ、幕軍は惨敗する」
「確かにシャスポーはフランス軍の正式歩兵銃に指定され、プロシャ戦でもメンタナ戦でも戦果を上げておる」

そこで勝は唇を噛んだ。
「フランス式軍隊教練にブリュネ砲兵大尉とマルラン、フォルタナン、カズヌーブがシャスポーと共に送り込まれて来た」

ならば、シャスポーを使う体制は
できているではないか!
「幕府軍の最精鋭部隊の伝習隊を
ブリュネらがシャスポーを使って教練した。
その結果は・・・」
土方は息を飲んで勝をにらんだ。
「フランスの地では有効でも、
わが国では使い物にならぬことが判明した」

「な、なぜだ!」
言い逃れは許さんとの勢いで、土方は勝に迫った。
「シャスポーは確かに薬莢を使う後装式だが、その薬莢が可燃紙製で湿気に弱い。雨や雪が降れば使えない。直接雨に会わずとも、その湿気で不発となる」

土方は唇を噛んだ。
そんなことか!
最新式銃シャスポーとはそんな代物だったのか。

「雨中の戦闘では、幕軍は二千丁が使い物にならなくなるのだ。湿気の少ないフランスとは所詮使用条件が違う!」
言葉がなかった。

「だが、シャスポーを江戸城奥深くしまい込み
封印した最大の理由はそれではない」
土方は無言で勝の言葉を聞いた。

「シャスポーとブリュネルを幕軍が採用すると、
さらなる数千の大部隊がフランス本国から送り込まれて来る。
そうなると薩長の背後にいるエゲレス、アメレカ、
オランダの本隊も参戦して来る」

勝の言う意味が今度は土方にもはっきりと分かった。
「戦いの様相はすっかりかわり、
幕軍と薩長軍の戦闘ではなく、フランス対エゲレス、アメレカ、オランダ軍の代理戦争となる」

日本本土上が戦場となり、列強の戦争が始まるわけだ。
「どちらが勝っても、
我が国は中国その他のアジアの国々のように
彼らの植民地、属国とならざるを得ない!」

反論できなかった。
勝は大所高所に立った目で、
状況を読んでいる。

幕軍、薩長軍どちらが勝っても、
日本は日本でなければならない。
列強に日本の地を踏ませてはならない!

幕軍がフランスを引き入れれば
それを口実にアメレカ、エゲレス、オランダは参戦して来る。
「お言葉、よっく分かりました!お時間を取らせ申した」

土方は丁重に頭を下げた。
無残な気持ちで屯所へ戻った。
最新兵器なしで薩長軍に勝つ方法などあろうはずもない!。

ついに終わりの始まりが幕を上げる。
公儀は自ら幕府・征夷大将軍の地位を捨てた。
土方は自分の戦い方だけを考えていた。

いつどこで、どうやって俺は死ぬか。
頭の中にそれだけがあった。


                     完

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