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3-6御陵衛士
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夕方、土方は屯所へ戻った。
新たな屯所は東寺近くの不動村にあった。
前川邸や西本願寺と比較にならない広大なものである、
境内で砲撃訓練や鳥獣の肉を平気で焼く
新選組についに、ついに本願寺が業をにやしたのだ。 屯所の格式は大名の上屋敷にも劣らぬ華麗豪華なものある。
近藤はそれが気に入った。
自身の別宅を屯所近くに置いた。
近藤は大満足であった。
朝、白馬にまたがり、三名の友揃いとともにそこから二条城へ通うのが日課であった。
六月十日、新選組は幕府から直参取り立ての沙汰を受け、近藤、土方は旗本格、他の隊士は御家人格となっていた。
これでで新選組は名実ともに幕府直参である。
もう壬生の町人も、壬生狼などとは呼ぶまい。
しかし、白馬にまたがり、槍持など三名の供を従える近藤の風格はどう見ても大名格であった。
それを見るたびに長倉、原田、藤堂らは顔をしかめた。田舎侍の正体ここに極まれりと言った感じだ。得意満面の近藤と対照的に、土方は喜ぶでもなく顔色一つ変えなかった。
万石級とは言っても、近藤には直参家臣が一人もいない。いるのは試衛館時代以来の数十人の仲間だけだ。
当然、給金も増えた。
近藤はじめ、隊士たちは島原通いを正式に認められたようなもので、遊女遊びに拍車がかかった。 土方が竜馬と会って夕方近くに屯所へ着くと、若い隊士が待ちかねたように彼に言った。
「近藤先生がお待ちかねです」
土方がうなづいて兼定を自室へ置きに行こうとすると、
「あ、刀は持参のまま、と言われてます」
と隊士は言った。
屯所内で大刀を帯刀するのは厳禁されている。
近藤、土方と言えども常に脇差一つが鉄則だ。
土方にある種の戦慄が走った。
「近藤さんは誰と会ってるんだ」
「伊東先生です」
なるほど、これは話の成り行き次第では伊東を斬れという暗黙の指令か。
土方はそのまま、近藤の部屋へ向かった。
若い隊士もさすがに状況を悟ったらしく、恐怖の表彰を浮かべている。
近藤の部屋は以前の屯所と比べ、倍以上の広さがあり、まさに大名の居室にふさわしい。
床の間を背に座る近藤と伊東は、向かい合って座っていた。
兼定を手に入って来た土方に、さすがに伊東は驚いたらしく凝視していた。
近藤と土方の意図を察したのだ。
常に刀を帯刀するものには、いつ何時なにが起きるかわからない。まさか!という場所で斬られるのが日常茶飯だ。
兼定を左脇に置いた土方が近藤と並んで座ると、伊東は平然
と笑みを浮かべて会釈した。
土方はそれを無視した。
腕組みした近藤が口を開いた。
「伊東さんは、新選組から分派したいと言っておられる」
分派!要するに脱退ではないか!
「歳はどう思う」
どう思うもこう思うも、明白な局中法度違反だ!死んでもらうしかないだろう。
近藤さんらしくもない。何を迷っている!
伊東が口を開いた。
「先日、制御あそばされた孝明帝の御陵墓を守るべく、朝廷より御陵衛士の大役を任命され申した!」
「それは決まっているのか」
土方の問いにて伊東は平然と答えた。
「昨日、決まり申した」
目を細めて土方は以東を睨んだ。
なるほど!それで近藤さんは、局中法度違反を言い出せずにいたのだ。
それを認めるか、それでも問答無用斬るか!
判断に余った近藤は、帯刀した土方を呼んだのだ。
ここで伊東は斬れない。
伊東はすでに朝廷が背後にいる。
その規制の事実を作った上で、伊東は近藤に報告した、
伊東の作戦勝ちだった。
強行して以東を斬ったら、合図が出て来る。
会津の命令で、伊東を手にかけた土方は切腹、新選組は解体される。
京都守護職とは朝廷を護るのが任務なのだ。
「何名連れて行く」
土方が聞いた。
「十二名だ。まだいるが、伊東君が押さえた」
鎮痛な面持ちでに近藤が答えた。
近藤の答えを聞いていて土方は思った。
いや、この男これで済ますはずがない!
全面降伏の腹のなかで、伊東と御陵衛士壊滅の策をすでに練っている。
近藤なら必ずやる!
すでに伊東の考えの先を読んでいる。
芹沢はじめ、その他十指に余る隊士の粛清は全て近藤が仕組んで来た。
この場で伊東を斬るか、分派を認めるかを近藤は自分に判断を預けていると土方には分かった。
「なら、なにも問題ないでしょう。新選組の分派として伊東先生には活躍してもらいましょう」
伊東は満足そうに土方に頭を下げた。
近藤がどんな、謀略を画策しているか分からない。
だが、それが何であれ、土方は関わりたくはなかった。
総司の病が重くなり、刺客に狙われる竜馬を護らなければならない。
自分にはそんなことをしている時間はないのだ。
近藤さんよ、伊東は永倉、斎藤、山崎らを使って自分で処理してくれ。
伊東は笑みを浮かべて二人に頭を下げ、勝ち誇ったように部屋を出て行った。
土方には近藤が悔しさから、奥歯をギリギリと噛みしめる音が聞こえた。
新たな屯所は東寺近くの不動村にあった。
前川邸や西本願寺と比較にならない広大なものである、
境内で砲撃訓練や鳥獣の肉を平気で焼く
新選組についに、ついに本願寺が業をにやしたのだ。 屯所の格式は大名の上屋敷にも劣らぬ華麗豪華なものある。
近藤はそれが気に入った。
自身の別宅を屯所近くに置いた。
近藤は大満足であった。
朝、白馬にまたがり、三名の友揃いとともにそこから二条城へ通うのが日課であった。
六月十日、新選組は幕府から直参取り立ての沙汰を受け、近藤、土方は旗本格、他の隊士は御家人格となっていた。
これでで新選組は名実ともに幕府直参である。
もう壬生の町人も、壬生狼などとは呼ぶまい。
しかし、白馬にまたがり、槍持など三名の供を従える近藤の風格はどう見ても大名格であった。
それを見るたびに長倉、原田、藤堂らは顔をしかめた。田舎侍の正体ここに極まれりと言った感じだ。得意満面の近藤と対照的に、土方は喜ぶでもなく顔色一つ変えなかった。
万石級とは言っても、近藤には直参家臣が一人もいない。いるのは試衛館時代以来の数十人の仲間だけだ。
当然、給金も増えた。
近藤はじめ、隊士たちは島原通いを正式に認められたようなもので、遊女遊びに拍車がかかった。 土方が竜馬と会って夕方近くに屯所へ着くと、若い隊士が待ちかねたように彼に言った。
「近藤先生がお待ちかねです」
土方がうなづいて兼定を自室へ置きに行こうとすると、
「あ、刀は持参のまま、と言われてます」
と隊士は言った。
屯所内で大刀を帯刀するのは厳禁されている。
近藤、土方と言えども常に脇差一つが鉄則だ。
土方にある種の戦慄が走った。
「近藤さんは誰と会ってるんだ」
「伊東先生です」
なるほど、これは話の成り行き次第では伊東を斬れという暗黙の指令か。
土方はそのまま、近藤の部屋へ向かった。
若い隊士もさすがに状況を悟ったらしく、恐怖の表彰を浮かべている。
近藤の部屋は以前の屯所と比べ、倍以上の広さがあり、まさに大名の居室にふさわしい。
床の間を背に座る近藤と伊東は、向かい合って座っていた。
兼定を手に入って来た土方に、さすがに伊東は驚いたらしく凝視していた。
近藤と土方の意図を察したのだ。
常に刀を帯刀するものには、いつ何時なにが起きるかわからない。まさか!という場所で斬られるのが日常茶飯だ。
兼定を左脇に置いた土方が近藤と並んで座ると、伊東は平然
と笑みを浮かべて会釈した。
土方はそれを無視した。
腕組みした近藤が口を開いた。
「伊東さんは、新選組から分派したいと言っておられる」
分派!要するに脱退ではないか!
「歳はどう思う」
どう思うもこう思うも、明白な局中法度違反だ!死んでもらうしかないだろう。
近藤さんらしくもない。何を迷っている!
伊東が口を開いた。
「先日、制御あそばされた孝明帝の御陵墓を守るべく、朝廷より御陵衛士の大役を任命され申した!」
「それは決まっているのか」
土方の問いにて伊東は平然と答えた。
「昨日、決まり申した」
目を細めて土方は以東を睨んだ。
なるほど!それで近藤さんは、局中法度違反を言い出せずにいたのだ。
それを認めるか、それでも問答無用斬るか!
判断に余った近藤は、帯刀した土方を呼んだのだ。
ここで伊東は斬れない。
伊東はすでに朝廷が背後にいる。
その規制の事実を作った上で、伊東は近藤に報告した、
伊東の作戦勝ちだった。
強行して以東を斬ったら、合図が出て来る。
会津の命令で、伊東を手にかけた土方は切腹、新選組は解体される。
京都守護職とは朝廷を護るのが任務なのだ。
「何名連れて行く」
土方が聞いた。
「十二名だ。まだいるが、伊東君が押さえた」
鎮痛な面持ちでに近藤が答えた。
近藤の答えを聞いていて土方は思った。
いや、この男これで済ますはずがない!
全面降伏の腹のなかで、伊東と御陵衛士壊滅の策をすでに練っている。
近藤なら必ずやる!
すでに伊東の考えの先を読んでいる。
芹沢はじめ、その他十指に余る隊士の粛清は全て近藤が仕組んで来た。
この場で伊東を斬るか、分派を認めるかを近藤は自分に判断を預けていると土方には分かった。
「なら、なにも問題ないでしょう。新選組の分派として伊東先生には活躍してもらいましょう」
伊東は満足そうに土方に頭を下げた。
近藤がどんな、謀略を画策しているか分からない。
だが、それが何であれ、土方は関わりたくはなかった。
総司の病が重くなり、刺客に狙われる竜馬を護らなければならない。
自分にはそんなことをしている時間はないのだ。
近藤さんよ、伊東は永倉、斎藤、山崎らを使って自分で処理してくれ。
伊東は笑みを浮かべて二人に頭を下げ、勝ち誇ったように部屋を出て行った。
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